トキトキメキメキ
彼方から突風が吹き起り、伊藤理々杏は文字通り充電状態になる――。だがなぜだか、与田祐希も「がるるる……」と、充電状態に変化していた。
向井葉月は【猛獣使い】の能力で、伊藤理々杏に叫ぶ。
「ウルトラダッシュアタックでレビィアタンの体内に攻撃、続けてスパーキングギガボルト‼‼ 最後に近くの雷雲に跳び移ってから、そっから助走の勢いをつけて、ボルテッカ‼‼」
「うるらああぁぁぁーーっウルトラダッシュアタァァック‼‼」
伊藤理々杏は雷の如き電光石火で大海蛇の胴体を上り詰めていき、勢いのついた回転蹴りで傷口を抉った――。
「スパーキングギガボルトォォォ‼‼ とりゃあああああぁぁぁーーっ‼‼‼」
伊藤理々杏は開口する傷口に、超至近距離から電撃の光線を発射して感電炸裂させた。続いて伊藤理々杏は身体中から溢れる電力を放電させる――。
「オマケだぁ、ハァ1000万ボルトォォォォっーーー‼‼」
空から落ちてきた佐藤楓は、振り上げた刀を急激に振り下ろす――。
「水の呼吸・拾の型・生生流転っ‼‼‼」
雷雲に脚を踏ん張らせて、その反動で、伊藤理々杏は身体中を電撃に染めて、大海蛇の傷口の中へと突撃する――。
「ボォルテッカァァァーーーッ‼‼‼」
悲鳴のような凄まじい奇声を上げるレビィアタン。佐藤楓は、ジェット噴射で空を飛びながら、傷口から力尽きて帰って来ない伊藤理々杏を探す為、大海蛇の体内の血肉を切り裂いていく。
「いたっ理々杏っ!!」
「おえ……、も、動けないし、くっさい……」
「よいしょ。逃げるよ!!」
「ほ~い……」
吉田綾乃クリスティーの【仲間意識統一通信(ボイスチャット)】が通信する。
「桃子ぉ、与田ぁっ‼‼ お願いしますっ‼‼」
片腕が血塗れで動かせない大園桃子は【式神】を召喚する印を、片手だけで結んだ。〈式神〉を顕現する――。
「六壬神課(りくじんしんか)っ‼ 十二天将ぉ‼ 六人の吉将(きっしょう)と六人の凶将(きょうしょう)よっ!! 桃子の意思が命じるっ、ハァ応えよぉ‼‼ 四神同時召喚・四神相応(しじんどうじしょうかんしじんそうおう)っっ‼‼‼」
稲光を始めた雷雲を割って、天から現れた炎を纏った霊獣・朱雀(すざく)は、燃え盛る火炎の羽ばたきで、その灼熱の燃える羽根礫(はねつぶて)をレビィアタンのばくりと開いた傷口へと突き刺して燃えやしていく。
同時に、雷雲から泳ぐように下降してきた長い舌を持つ緑色の巨大な霊獣・青龍は、その滴る鋭利な牙を剥きだして、開口したレビィアタンの内臓にむしゃぶるように噛(かじ)り付いて貪(むさぼ)り食い始める。
堪えきれぬ痛みに、レビィアタンはその嗜虐的であった瞳孔を見開いて、悲痛な奇声を発する――。
海面から浮上してきた亀の姿と無数の蛇の尾を持つ霊獣・玄武は、その無限に伸縮する数多の蛇の頭で、崩壊していくレビィアタンの内臓に齧(かぶ)り付いていく。
細長く白い虎の姿をした霊獣・白虎は、獰猛な咆哮でレビィアタンの叫びを打ち消すと、次の瞬間に、レビィアタンの抉れた内臓へと空を走り、食い荒らすように大海蛇の心臓に近しい細胞を噛み千切りだした……。
雷鳴が轟(とどろ)く……。
充電状態の与田祐希は、眠そうであったその大きな瞳を血走らせて、天空へと伸ばしたその右の手の平を、東京湾の一部を埋め尽くすように立ちはだかる大海蛇へと、振り下ろす――。
「幾重煮連鳴神乃制裁(りょうさんがたりこ)っっ――‼‼‼」
怒涛(どとう)の如く墜ちる雷(いかずち)に、焼かれ悶える大海蛇は、四聖獣を振り払い、ついにその巨躯を動かしだす――。
与田祐希は、更に大きくその眼を見開いて――、レビィアタンを指差した。
「超高層雷放電(ミラー・イ―)――っ‼‼」
神の怒りをかった大海蛇に、天空の雷雲全域から落ちる閃光の柱が、大いなる灼熱を発しながら世界を光に染めた――。
ゴロゴロと雷鳴が轟(とどろ)きやまぬ中、霧のような水蒸気がその海の景色を包み込み、空気中で激しく放電している……。
与田祐希は、ぱたん、と背中から雷雲に倒れ込んだ……。
「やるだけやった……。あとは仲間を信じるよ……、ううぅ圧倒的睡眠欲……。くぅ~……くぅ~……」
吉田綾乃クリスティーの悲鳴のような【仲間意識統一通信(ボイスチャット)】が、その場にいる全員のヒーローの意識に走る。
「あとは頼んだぁぁ、美月ぃぃぃーーーっ‼‼」
「うあああああああーーーっ‼‼」
山下美月は、雷雲の上から、脚腰を踏ん張らせながら、殺気を発した血眼で、こちらへと向かって下降してくる大海蛇の巨大な頭を睨みつけた。
開かれたその手の平が――、全力の握力で握り締められる……――。
「しょぉぉきゃくしぃやがれぇぇぇ紅蓮の火炎(ぐれんのかえん)んん‼‼ 燃ぉぉえつぅきぃぃろぉぉ地獄のぉぉ、業火ぁぁぁぁーーーっっ‼‼‼」
放電していた空気中の酸素が爆発を起こしていく――。その強大なる爆炎の中心部にて蠢(うごめ)く大海蛇は、小型の惑星が超新星爆発を引き起こしたかのような超超絶大なる超超大爆発に巻き込まれた――。
レインボーブリッジは跡形もなく一瞬で吹き飛び、ヒーロー達も掻き消された雷雲から四方八方へと吹き飛ばされていく……――。
赤い景色が終わり――。元の世界の彩を取り戻した景色を見渡すように、戦いを終えた戦士達は、高層ビルの屋上から、その崩落しレインボーブリッジの形跡を残した、水浸しの東京を見つめていた。
梅澤美波は、大園桃子の肩を支えながら、気丈に微笑む。
「この暴れっぷりは、あっぱれだね……」
大園桃子は景色を見つめたままで、弱く呟く。
「こんな災害が、もしも本当に起こったら……」
中村麗乃は、山下美月に肩を貸しながら、大園桃子を笑顔で一瞥した。
「災害も、犯罪も起こるもの……。だから、ヒーローがいるんじゃない」
山下美月は、眩しそうに景色を見つめながら囁く。
「私は誰にも止められない……、止まらない……。例え、この先にどんなに強い悪が立ちはだかろうとも……、夢を叶える私は、全てを燃やし尽くしてやる……」
向井葉月は、与田祐希に肩を貸しながら、景色に微笑む。
「あんなでっかい蛇を倒しちゃう私らの夢って、何なんだろうね……。私も、みんなの力になれてるのかな……」
「あったり前でしょう」山下美月は向井葉月に微笑んだ。「なに、ギャグ?」
「えへ」向井葉月は可愛らしく笑みを浮かべた。「ありがと、美月」
伊藤理々杏は景色に苦笑した。
「一人でも欠けてたら、あのでかいのには勝ててなかったよ絶対……。葉月、改めてありがとう……」
向井葉月は伊藤理々杏を見て笑った。
与田祐希は、くたくたの眠たそうな顔で、空を見上げた。
「空が青い……、なんで空は青いとぉ?」
なぜ、空は青いか――。与田祐希がふいに思い浮かべた疑問を、皆も小首を傾げたり、腕を組んだりと、個性的な仕草で考え始める。
――●▲■それはレイリー散乱があるからだね。密度ゆらぎがあるからさ。上空の方になるともっと、分子間隔が大きいと思うんだけど、密度が水に比べて分子間隔がずいぶんと大きいから、ゆらぐわけだね■▲●――