トキトキメキメキ
今現在――。ヒーロー達は己の分身と激しい死闘を繰り広げている。分身体を創り出したのは確かに敵であるが、その存在は未だ明らかになっていない。
この直径四キロの周囲が赤い景色に包まれている事から、敵は確実に存在しているはずであるが、その敵からは声しか届いていなかった。
久保史緒里は【神の言葉】を顕現する。
「あんたは雷に打たれて感電死するっ‼‼」
次の瞬間、クボシオリは落雷に撃たれて、その姿を光の粒子に包んでこの世から姿形を消していった……。
「勝ったハァ……」
『脳神経回路分子解析再現(ブルーレイン・プロジェクト)――』
久保史緒里の身体が紫色に発光する……。
「またぁ!?」久保史緒里は周囲を激しく見回す。「誰がやってんの声は何処から!?」
『人形複製(バイオ・プリンター)――』
赤く染まった明治神宮野球場のマウンドにて、眩しく発光する光の粒子が一人のクボシオリの姿を形どっていく……。
久保史緒里は身構えた。
「また私……、きりがないっ!!」
イワモトレンカは戦ぐ風のように蓮加の撃ちは放った銃弾を避けた――。蓮加はイワモトレンカの身動きを予想解析する……。
イワモトレンカの心臓が在るだろう左胸の中心部に撃ち込もうとすると、左右のどちらかにイワモトレンカは銃弾を避ける。それを見極めて更に銃弾を放つと、更に左右のどちらかに避けられる。避けた方向に銃弾を撃ち込むと、今度は逆の方向へと避けるのがパターンであるとわかった。
蓮加は刹那の如き速さで狙撃する――。まず中心部へ、そして左右どちらの方向にも一発、一発、一発、一発、と左右に一度ずつ銃弾を撃ち込んだ――。眼で追う事はもうしていない。
イワモトレンカの背中から血飛沫があがった。
「当たった……ハァ!」蓮加は銃口を下げて、様子を窺う。「心臓にビンゴだったよね……、あれば、だけど……」
マウンドへと倒れ込んだイワモトレンカの身体が、光の粒子に包まれていく……。
『脳神経回路分子解析再現(ブルーレイン・プロジェクト)――』
蓮加の身体が紫色に発光した……。
「またかよおいぃ!?」蓮加は辺りを激しく観察する。「かんぺきに、敵がやってんね……、しかも見てる、うちらを……」
『人形複製(バイオ・プリンター)――』
与田祐希は一輪車に乗りながら、後方へと一輪車をこいでみせて、必死などや顔でヨダユウキを振り返った。
「どうよ‼」
ヨダユウキは一輪車を、後方へとこいでみせた。
与田祐希は汗をぬぐう。
「かなりできる……」
――●▲■まずはこの敵の姿を見定めなくては、君達に勝利はない。ヒーローの超視力を駆使して、爆発後の煙幕のなか、僅かに昇る煙の塊を探すんだ■▲●――
伊藤理々杏は口元の血をぬぐって、手を挙げる。
「僕がやる!! こいつの相手をちまちましてても終わりが来ないなら、敵をボスにしぼるべきだ!!」
イトウリリアは10万ボルトで攻撃してくる。
伊藤理々杏は電光石火でそれを避けた。
「みんなあっ、グラウンドの隅の方に逃げててぇっ! 敵が何処に隠れてるのかわからないから、ちょっとでっかい攻撃してみるわあっ!!」
――●▲■みんな球場の端っこの方に移動してくれたまえ。理々杏君が何か広範囲の攻撃を繰り出す気だ。巻き込まれないよう、用心と、すぐに理々杏君の攻撃後の護衛体制を!! いいぞ、理々杏君!!■▲●――
伊藤理々杏はマウンドの中心で両腕を広げた。
「みんなぁっ、後は頼んだっ‼‼ っ……。だいばくはつっ――‼‼」
瞬間的な閃光の後に、爆炎が巨大なうねりを上げる大爆発がひき起こった――。半数の分身体が消し飛んだ後も、煙幕が濛濛と空へと巻き上がっていく……。その煙幕の空中中央の付近を、焦げたような煙幕が個々として浮き上がっていた……。
大園桃子は【邪眼(じゃがん)】の進化系であり、その神通力も増している【魔眼(まがん)】で、空中の中央の煙幕の中心を透かして見つめる――。
「いたあ!! いたよみんな、人の形してる、空に浮かんでる、いる、いるよそこに!!」
大園桃子は空中を指差して大声で叫んだ。
指差された空のその真下には、黒炭と化した伊藤理々杏の身体が倒れている。
「なんでそんな技っ……、馬鹿!」向井葉月は【猛獣使い】の能力を行使する。「理々杏、身体かってに動かすよ……、さいきのいのり!!」
東西南北、伊藤理々杏の四方から癒しの風が吹き込み、伊藤理々杏の焦げ付いた身体を、半分ほどの体力が残った生気がみなぎった状態に再び復活させた。
「葉月が……、その技知ってるって、信じてた……」伊藤理々杏は後方へと非難しながら笑った。「ふう、痛ったかった、二度と使いたくないわ!」
「馬鹿もの、かってに命捨てんな」向井葉月は、涙目になって、強気に、その空中に浮遊している存在を睨み上げた。「夢を叶える事に命かけろ……、倒すよ、あいつを!! あいつで最後だ‼」
ヒーロー達は、空中に集結した生き残った分身体を見上げる……。不思議な力によって超常的に空中にて並び立ち、ヒーロー達を見下ろす分身体が、中央のその空間を開ける。
女であった――。恐ろしいほどに色白いその肌のシルエットは、確かに洋服を着たような人間の形をしている。長い頭髪はツインテールに纏められ、磁極のプラスとマイナスのように、片方が赤、もう片方が青い色をしていた。
ムカイハズキが、悪意に満ちた笑みで囁く。
「大魔王様……、その御力にて、こやつらを皆殺しにされるのですね」
ヤマシタミヅキは卑屈な睨みでヒーロー達を見下ろす。
「お前ら塵に等しいカス野郎が、いくら束になってかかっても、魔王様とは次元が違うんだよ」
ヨダユウキは与田祐希を指差して、不敵に笑う。
「祐希、お前その野性的な勘でもうわかっとうよねえ? 誰も絶対に勝てないって」
上空を見つめる与田祐希の耳が、折れ曲がってパタン、と閉じた……。
「うわっ‼‼」
それを偶然見ていた山下美月は吹き出して、激しく咳き込む……。そして改めて与田祐希に驚愕の視線を向けた。
「ちょ……、それってどうなってんの与田ぁっ! 耳が閉じてるんだけどっ!!」
皆は与田祐希を一瞥して、与田祐希の耳が閉じているのを確認した。
「耳が……」
「ふさがってる……」
与田祐希は、皆の方を見る。
「ん~? ダメだな、隙間から聞こえる……。ん? あ、祐希耳動かせるとよ……。なんか嫌な事言っとったから閉じただけ。なんでみんな変な顔しとうと?」
ヒーロー達は、恐怖に呑み込まれそうになっていた己を笑い飛ばして、そもそもの活気を取り戻していく。
「馬鹿な飯事(ままごと)はもういいっ‼」
頭上から怒号が響き渡る――。それは分身体の、ウメザワミナミの声であった。
「てめえらは今から死ぬんだようっ、死ぬのがそおんなに嬉しいか、あぁ?」
ナカムラレノは凶悪な面持ちで地上のヒーロー達を忌み嫌い睨みつける。