トキトキメキメキ
『三人目の覚醒者ですか……。確かに、侮(あなど)れませんね。ですが、私に嘘をつくスペックは無いし、人間の持つシックスセンスと入(い)った未知の可能性を垣間見ている様でもあり、楽しい宴には成りました』
久保史緒里は複製人間の起していく事象を必死で回避しながら、強くイメージする。
「私の力は神様から具現化する事を許された特別なギフトっ!! それは瞬時にイメージ化されて、現象として発生する。敵を撃つ力‼‼ 噛み砕く縞の獣(タイガ)っ‼‼」
巨大な猛虎が出現し、襲いかかる複製人間の骨を噛み砕いていく。
久保史緒里の【神の言葉】は、上位互換である【神の御力】へと変化を遂げたのであった――。
前方を猛虎に任せ、全速力で後方へと後退した久保史緒里は、急に反転して、急激な息切れを整えながらも、襲い来る複製人間達を睨みつけた。
「一滴(いってき)の水よ、この指から滴(したた)れ……」
伸ばした右手の指先から、水の一滴が地面へと零れ落ちた……。
「必要工場(ニード・ミル)っ‼‼」
一滴であった水は、見る見るうち、瞬く間に巨大なうねる大津波となって、クボシオリの複製人間達を一息に呑み込んだ――。
α(アルファ)はそれを見て、囀(さえず)る。
『フフフ。如何(どう)やら、此(こ)の最終ステージに来て、此の方々は各々が大幅に能力を向上させる事に成功した様ですね……。児戯(じぎ)であった物が、今や簡易的(かんいてき)な注意が必要な危険、へと位を上げました。さあ、然(しか)し此方(こちら)も手札は無限に等しいのです。貴女方個人が優秀に強化された分、コピーが増えると如何なりますか? 脳神経回路分子解析再現(ブルーレイン・プロジェクト)――。人形複製(バイオ・プリンター)――』
紫色に包まれたヒーロー達の人影が無数に増殖していく……。
「またかハァ、チャンス作ってボス狙うしかないだよ‼‼」蓮加は銃撃戦を繰り広げながら、宙に高く背面飛びで跳び上がった。撃つ撃つ撃つ。「えっ、えっ、数が…ヤバくないぃ!?」
梅澤美波は〈空扉〉で四方八方から姿を現してくる複製人間を【超身体能力】の剛力で殴り倒しながら、叫ぶ。
「うちらが強くなってく分っハァ、こいつらも強くなってくっ‼‼ ハァハァ切りが無い‼‼」
大園桃子は【式神】の能力を最大限に引き出して、形の無い純粋な力の根源を権限する――。
「呪(ジュ)っ‼‼‼」
ジュゥゥワアァァ――と、複製人間達は頭部の仮面を一瞬で溶解されて、次々に倒れていく。
中村麗乃は【頭脳王】の能力を行使した。数秒間、イメージをわかせる……。
複製人間が人影から続々と出現してくる――。全体で、その数、約25500体にも数えられた。
中村麗乃は仲間の方を振り返って、大声で叫ぶ。
「ハァ与田ぁぁ! 美月ぃぃ! ハァ桃子ぉぉ! ハァ史緒里ぃぃ! あんたらの総合能力・合体技で、このコピー人間を全体攻撃してぇぇ‼‼ 残った私らは同時にα(アルファ)に総攻撃! いい!?」
了解――。の声が皆から帰ってくる。
中村麗乃は、疲れ切った頬を笑わせた。
「いっちょやりますか……。その前に、吉田ぁぁ、【仲間意識統一通信(ボイスチャット)】レベルアップさせて、全員で通信できるように!!」
「もうしたあ~~っ‼‼」
吉田綾乃クリスティーの【仲間意識統一通信(ボイスチャット)】が通信する――。
「話したい相手を意識すれば、より大きくその人に声は届くし、頭の中のイメージもちゃんと伝わるようにした!! そんでもって一応全員にも声は届くようにもなった!!」
与田祐希は【遊び心】の上位互換である【野生の魂】を行使して、野生動物の約1000倍の跳躍力で空中へと跳び上がった。そのまま、真下で静かに佇(たたず)むα(アルファ)の姿を両手の指先で作ったカギカッコで捉える。
「なんか弾いたり跳ね返したりハァ、擦り抜けたりする呪文ハァ、使われたらたまったもんじゃないんで……、ハァ音、消しときます。無風の凪(カーム)――」
与田祐希の【無音】の能力で、α(アルファ)の周囲二メートルに透明なドーム状の凪空間(なぎくうかん)が発生した。その中では、発声、物音、一切の音が発生しない――。
与田祐希は空中から大園桃子へと視線で合図を送る……。
「桃ちゃん……、こんなイメージなんやけど、どう……」
大園桃子は、空を見上げて大きく頷いた。
「いいね! OK! それいこう!」
山下美月は、久保史緒里を一瞥する。
「久保……、さっきの水を増やした技で……、こんなの、できるかな……」
久保史緒里は、「いつでも!」と疲労しきった顔で微笑んだ。
――●▲■コピー人間達をまずは殲滅(せんめつ)するんだ! 美月君、史緒里君! 祐希君、桃子君! 頼んだよ! それと同時攻撃だみんな! いっけえーー‼‼■▲●――
山下美月は、その美しい眼差しを、鬼人の如き強きものへと変換させて、その伸ばした片腕を全力で握り締めた――。
「燃え尽きろぉぉぉ炎熱地獄(ヒット・ア・ユー・メイド・ウォー)‼‼‼」
久保史緒里は、すかさず両手を伸ばして、発生した爆炎を【神の御力】で強大に増幅させる――。
「必要工場(ニード・ミル)‼‼」
二人は思考を統一させ、声を合わせる――。
「合体奥義・炎熱地獄必要工場(ヒット・ア・ユー・メイド・ウォー・ニード・ミル)ーーっ‼‼‼」
与田祐希は落下しながら、爆炎に巻かれた遠方の複製人間達を見つめた。
与田祐希はそちら側へと片腕を振り下ろし、眼光を煌(きらめ)かせる――。
「超高層雷放電(ミラー・イー)‼‼‼」
大園桃子は轟(とどろ)く雷鳴に、素早く対応して、全力で印を結んだ。
「呪(ジュ)‼‼」
「雷なら避雷針(ひらいしん)真ん中の奴らのど頭に撃ち込んだるわっ‼‼‼」蓮加は空中から、爆炎の中の炎々と燃える外炎の焔(ほむら)を研ぎ澄ました視線で見つめ、狙いを定めて数体の複製人間に射撃する。「これでいけるだっハァ‼‼」
与田祐希と大園桃子は【仲間意識統一通信(ボイスチャット)】を通し、思考回路と意思を疎通し合う――。そこには、岩本蓮加の意思も通っいた――。
「仲良し奥義・超高層雷放電呪(ミラージュ)ーーっっ‼‼‼」
大音響を轟(とどろ)かせながら真っ逆さまに墜ちた雷神の火は、爆炎の中で放電し、燃え惑う複製人間達の仮面を溶解させていく……。
梅澤美波と伊藤理々杏と阪口珠美と佐藤楓と中村麗乃と向井葉月と吉田綾乃クリスティーは、意思を疎通させて、α(アルファ)へと最大の奥義を繰り出す――。
「三番目の風ぇぇぇーーっっ‼‼‼」
その聖なる奇跡の暴風は、吹きかけた全ての物質を融解させる恐ろしい神通力を秘めている。しかし――。
α(アルファ)の声と、笑い声が響いた……。
『幻覚的知覚迷宮錯覚(カフェウォールさっかく)――』
大技を仕掛けたヒーロー達は脳の画像パターンを弄られ、実際には直線であるにも関わらず、傾いて見えるという錯覚状態に陥り、聖なる怪風をα(アルファ)のいない場所に発生させていた。
与田祐希は、後ろを振り返りながら驚愕する。