二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

トキトキメキメキ

INDEX|33ページ/41ページ|

次のページ前のページ
 

残りのほとんどの場合、光は何の影響も受けずに通り抜ける。この数はとても小さくて、とるに足らないようにみえるけどね。実は君達の世界の多くの基本的な性質を決めているんだ。
例えば、原子の構造や分子の形成、星の輝きや化学の仕組みなどに影響を与えており、α(アルファ)が少しでも変わると、生命は誕生せず、この宇宙は全く異なるモノになるといわれていている……■▲●――


 神がこの数字を書いたことは分かるが、神がなぜこの数字にしたのかは分からない。
 ―リチャードファインマン―

 物理学における、最も根本的な未解決問題である。
 ―ポールディラック――


 疲弊(ひへい)しきったヒーロー達は回復を試みながら、呆気に話を聞いている。
 蓮加は宙にて体育座りをしながら、上空を見上げた。
「137って、素数?」

――●▲■そうだ。33番目の素数だと恐れられている。でも、その話は直接的に君達とは関係がないので、こちらの話を優先するよ。――その昔、パウリという偉大な物理学者が亡くなるが、最後に入院した病院の病室の番号が137号室だったらしい。パウリはそこで改めて『137』に憑りつかれた運命を悟った。
パウリは1945年に「排他原理の発見」でノーベル化学賞を受賞している物理学者の事だよ。パウリの人生をもってしても解き明かせなかった謎の数字137。その正体は、知的生命体が発生した文明を持つ生命体を創り出す宇宙的条件の初期設定だ。
それは、逆にいうならば、この生命体の生まれた宇宙を、根本的に滅ぼす法則を知るモノという意味になる■▲●――

 山下美月は、あぐらをかきながら、無表情で空を見上げる。
「137がどうしたの? ヤバい塊(かたまり)が137センチって事?」

――●▲■センチでもなければ、メートルでもフィートでもない。キロでもなければ、グラムでもトンでもない。α(アルファ)には単位が無い――。これを化学者達は無次元と表現した……■▲●――

「なんっか……、聞いてるだけでヤバそうなんだけど」佐藤楓は、傷ついた顔でにょっと笑った。「誰か、なんか飲み物もってない?」
 伊藤理々杏は体育座りで太ももの筋肉を揉みほぐしながら言う。「ポケモン技で水なら出せるけど……。調節すれば飲み水ぐらい、出せる、んじゃないかな……」
「ちょっと、出して」佐藤楓は苦しそうに言った。「喉からっからなの」
「ミニ・ハイドロポンプ」伊藤理久々杏は背中にできた砲台から水を発射させた。
 佐藤楓はびしゃびしゃに濡れる。「やらかしたやらかした!!」

――●▲■おほん……。この数は100年前に突如として登場したんだ。1920年代、アーノルドゾンマーフェルトというドイツの物理学者が電子の軌道の細かい形がどうなっているかを調べていると、電子が原子核の周りを回る時に特別なパターンでエネルギーが変わる現象を発見した。この現象を「微細構造」という■▲●――

 久保史緒里は、顔を苦笑させて、皆を見る。
「マスターの怖い話聞きながら、弱点を探るしかないか」
 山下美月は相槌で苦笑した。
「化学とか、悪なのかよ」
 梅澤美波は厳しい顔つきであぐらをかいた。
「悪だよ。確か『叡智(えいち)』の悪って言ってなかった? それって、発達した科学文明の驕(おご)り、てことだよね? たぶん……」
 中村麗乃は溜息をついた。
「最後の相手が、人類の繁栄を促(うなが)した化学そのものなんて……、あー、胃が痛い」
 与田祐希は黒ずんだ頬を雑に腕でぬぐいながら、皆の顔を見る。
「核兵器とか、危なっかしいもん、いっぱい開発とかするからでしょ?」
 梅澤美波と、中村麗乃は頷いた。
 向井葉月は、泣きながら、縮こまって皆の顔を一瞥する。
「ごめん……、なんか、ほんと弱い、私……」向井葉月は、涙をふいて言う。「本当は一番強いんです……」
 大園桃子は呟く。
「レビィアタンの方が、怖かったよ……。勝てる気がする……」
 蓮加は横目で一瞥して笑う。
「一発もうちらの攻撃当たってないけどね、一発当てたのはハルカカナタだから。あ……、あいつどこ行ったんだろ、生きてんのかな……」
 与田祐希は埃塗れの顔ではにかむ。
「ハルカカナタ君、祐希のことカワイ子ちゃん、て言っとったよ。ちょっとイケメンやっね?」
 蓮加は鼻を鳴らした。
「ただの二重人格じゃん。サイコパスかと思ったよ最初会った時、いきなり人が変わって……」
 吉田綾乃クリスティーは青空の空間で、重火器を出現させた。
「あ、具現化できるんだここでも……」
 阪口珠美は、水入りのペットボトルを作り出して佐藤楓にそれを手渡した久保史緒里を見つめた。
「久保、私にも作って。なんならお腹もすいたかも……」
 久保史緒里は傷だらけの頬を笑わせた。
「じゃあ、マスターの恐怖の化学話を聞きながら、みんなで青空キャンプといきますか」

       16

――●▲■1928年、イギリスの物理学者ポールディラックは、微細構造における電子の波動関数を説明する、ディラック方程式を導入した。ディラック方程式は、特殊相対性理論とシュレーディンガー方程式を組み合わせたような方程式だね。この方程式を解く過程で、微細構造定数が自然に現れるんだ。
つまりね、微細構造定数は導こうと思って導けるモノではなく、物理現象から自然と姿を現す数なんだよ。
ディラックは微細構造定数に対してこう言ってる■▲●――


 神がこの世界を創る際、微細構造定数の値を決めることが、最も難しいことだったのではないか。
 ―ポールディラック―


――●▲■微細構造定数が登場してきてから、数々の物理学者がこの数の虜(とりこ)となった。α(アルファ)に魅了された最初の物理学者の1人は、アーサーエディントンというイギリスの天文学者だった。
エディントンは、日蝕(にっしょく)を観測して、アインシュタインの一般相対性理論を確認した事で有名だ。エディントンは、α(アルファ)がただの数ではなく、この宇宙に深い意味を持つ基本的な定数だと信じていた。
彼は純粋な数学の理論のみから、α(アルファ)を導こうと研究に没頭した。その計算式には『137』という数が関係していたので、137が何らかの宇宙的な意味を持つ特別な数だと考え始め、エディントンは次第に、137という数字に心酔していったんだよ。
エディントンがα(アルファ)について数学的な証明を見つけようとした試みは、多くの物理学者達から、幾何学的(きかがくてき)で神秘学だと批判された。しかし、エディントンだけがα(アルファ)に興味を持っていた物理学者ではないんだ。
この数字に魅了されたもう1人は、ヴォルフガングパウリという物理学者だった。パウリは量子力学の創始者の1人で、原子において、電子が異なる素を持つ事を説明する「パウリの排他原理」を発見した事で有名だ。
パウリは、α(アルファ)が何らかの隠された真理を持っているという、強い直感を持っていたんだ。彼は友人であるニールスボーアという物理学者に手紙を書いた■▲●――


 私はα(アルファ)がπ/2に等しいという驚くべき計算結果を導きました。
 自分でも信じられないようなことですが、この結果は正しいようです。
作品名:トキトキメキメキ 作家名:タンポポ