トキトキメキメキ
――●▲■ん? んん、まずい‼‼ どうやらα(アルファ)はこの〈空扉〉の空間が創られている間に、何%か微差構造定数、つまりはα(アルファ)の値を上げる術を使っていたらしい‼‼ この時空間においても、そろそろ君達の身体に到達する呪いの現象だ‼‼ 早く空扉で元の瞬間に戻って奴を仕留めないとっ、君達はこの世界での命が確実に終わるっ‼‼■▲●――
「やるしかない、っか!」大園桃子は青空に脚を踏ん張らせて、立ち上がった。
「やってみますか」山下美月も、あぐらを崩して、青空に立ち上がる。「燃やしたるわ、もう最後の力ふりしぼったる!」
「やったろうじゃん」吉田綾乃クリスティーは微笑んで、青空に立ち上がった。「特性炸裂弾、ガトリングでぶち込む!!」
「みんな……」
皆は、そう呟いた岩本蓮加の立ち上がった姿に、視線を向けた。
「どうせもう、死ぬんだよねえ。この夢をかけた戦いが終わるのが、もう時間の問題なら……。私の、一発に賭けてみる気って……、ある?」
阪口珠美はきく。
「銃で、心臓を狙うの?」
佐藤楓は皆の顔を見回す。
「心臓に当たれば、勝ち目あるよね?」
「攻撃を避けてたのは、当たればダメージがあるから」中村麗乃は真剣な顔で、皆を見回した。「ハルカカナタ君の攻撃は、お腹に当ててたから、ノーダメージだったけど、たぶん……。急所があって、蓮加の攻撃はいつもどれも、急所を狙ってるから、避けてたんだと思うのね。三番目の風も、大きな範囲の攻撃で、それ自体をさけた。美月の炎も、急所も巻き込む広範囲の攻撃だから、嫌がって暴発させた。ううん、私達のどの攻撃も、錯覚や意識のコントロールを使って、攻撃事態を無効化させてた……。急所なら、もしくは」
「急所はどこ?」与田祐希はきょとん、と疑問形に言った。「心臓?」
「たぶん、脳みそだ」梅澤美波はそう言って、中村麗乃に頷いた。「人類の叡智の結晶なら、知恵の塊でしょう? 脳みそだよ、急所は絶対!」
「うん」中村麗乃は、微笑んで、頷いた。「私もそう思う」
向井葉月は、手の平に拳を当てて鳴らした。
「やぁってやろうじゃんか!」
佐藤楓ははにかんだ。
「蓮加なら、当てられる……。なんか、そんな気がしてきた」
山下美月は、強く微笑む。
「じゃあ、私らは……。蓮加の一撃を確実にするために……、全力であいつを脚止めする!!」
与田祐希の身体から、パリ、パリパリ――と、静電気が迸る。
「これだけ傷付けられても……、祐希はちょっと楽しかったとよ。みんなと出逢えて……。えへ、みんな好き……。みんなとの運命に…、命、懸けるね……」
蓮加はデザート・イーグルを空気中に消して、ふわり――と、シルバー製のような磨き上げられた銀色の拳銃を創り出した。そして、握った拳に全意識を集中させるようにして、数秒間、拳を握り続けてから、その拳を開いた。
そこには、不思議な色をした銃弾が二つ、手の平に乗せられていた。
「みんなの命……。どうせこのまま死ぬんなら、私が預かった」蓮加は、弾倉に銃弾を込めて、銀色の銃に装填した。〈空扉〉を見つめる。「行こう‼‼」
梅澤美波は、〈空扉〉の前に立って、皆を振り返った。
「じゃあ、空扉、開けるよ?」
死をも覚悟した勇敢なる戦士達の雄叫びが響き渡った……。
梅澤美波は、両手で押し開くようにして、〈空扉〉を開いた――。
『作戦会議はよいのですか。――いや、時空間を移動してきた様ですね。回復の形跡が見られますし、顔付きが違う……。私という脅威が理解できたでしょう。では始めますか、最後の殺し合いを――。脳神経回路分子解析再現(ブルーレイン・プロジェクト)――。人形複製(バイオ・プリンター)――』
勇敢なる十二人の戦士達の人影から出現してくる複製人間の数は、およそ数十万体――。一瞬にして、その崩壊した明治神宮野球場は更に粉々に破壊されていき、一部崩壊した街の景色と同化する――。
α(アルファ)は白面に浮かび上がる不気味な唇で笑い、ヒーロー達を次々に指差していく。
『諸史射撃黒鉄大悪魔(サミュエル・コルト)――』
ヒーロー達の肩や腕や脇腹や太ももから、突如として血飛沫が上がった。遅れて凄まじい激痛が襲いかかる――。
吉田綾乃クリスティーは両肩に大型の六連式ロケット・ランチャーを二機出現させ、発射口から無限に発生するミサイルを無数の複製人間達に撃ち込んでいく。両腕には、二機のガトリングガンを装備しており、こちらも複製人間達へ向けて一斉掃射している。
複製人間達から発射されるガトリングガンの銃弾が、吉田綾乃クリスティーの制服を血飛沫を上げて引き裂いていく……。
伊藤理々杏は総勢一万体を超える複製人間達を道連れに、己の身体から巨大な大爆発を引き起こした――。宙に吹き飛ばされた複製人間達の亡骸が、光の粒子に包まれながらぼとぼとと空から降り落ちる。伊藤理々杏は黒焦げになり、動かない……。
「理々杏ぁぁぁーーっ、うわああ~ん‼‼ ちくしょぉぉぉーーっ‼‼」
向井葉月は、【仲間意識統一通信(ボイスチャット)】を通して戦闘不能に陥(おちい)った仲間の意識を感じ取り、心の痛さとして具現化した消防車のホースで、複製人間達に強酸(きょうさん)の涙を放射していく。
「今度はトムとジェリーのトムが私っ、逃げ惑うお前らはジェリーだっ、おい逃げ惑ってないで仲間同士とっ捕まえあってこの酸の涙の餌食になれっ‼‼」
羽交い絞めをしあっている複製人間達から焼け爛れていく、だが、強酸の届かぬ者が同じように消防車を具現化し、対抗するようにホースで向井葉月に強酸を放出してきた。
向井葉月の制服は焼け爛れて溶けていく……。
無数のビーム光線を限界の超身体能力で避けながら、阪口珠美は両方の血塗れのピースサインを、両眼の眼尻にかかげる――。眼光から発射されたビーム光線は複製人間達を一直線に焼いていくが、複製人間達の放つビーム光線もまた、阪口珠美の身体を貫いていく……。
梅澤美波は4021体目の複製人間の頭部を拳で打ち砕いた。激しい息切れをして、己を羽交い絞めしている複製人間達をそのままに、腹部に次々に拳の礫(つぶて)を打ち込んでくる複製人間達を鬼のように睨みつけながら、大きく水平に両腕を開き伸ばした。
「蓮加の邪魔はぁぁ、させないっ‼‼ このっ、先はっ、誰も通さぁん‼‼‼」
小山のように続々と頭上から被(かぶ)さってくる複製人間達に潰されて、梅澤美波は複製人間の山に埋もれる。
刀を発火させながら、炎々と火の光芒を作りながら複製人間達の首を刎(は)ねていく佐藤楓の腕や腹や肩や背中に、複製人間達の刀は刺さったままで抜けない。
超能力で操る瓦礫の土砂で、複製人間達を生き埋めにし、またはその頭蓋と骨と肉を瓦礫の雨で裂いていく中村麗乃は、複製人間達の同じような瓦礫の礫(つぶて)での攻撃に、血飛沫を巻き上げて、吐血する。しかし――。
「中村麗乃なめんなよぉぉぉ雑ぁぁ魚ぉぉぉ共はぁぁー、引っ込んでろよぉぉぉーーっ‼‼‼ 美月史緒里っ、与田桃子っ、最後に残ったこいつらを、合体技でっお願いっ‼‼ 最後の力でいいから数万のコピーを仕留める火力でっ‼‼」