トキトキメキメキ
『ガンマ線バーストが命中したら、どれだけ危険なのか、最期に貴女方にお教えしましょう。決め手は、発生源からの距離です……。例えば、8000光年離れていたら如何でしょうか。世界の終り迄(まで)、多少の時間が在るでしょう』
蓮加は呟く……。
「どうでもいいや……。ま、しゃべっておきたいんなら、しゃべればいいよ」
ヒーロー達は、各々が動き始め、岩本蓮加の元に集合しようとしている。
『先(ま)ず、数秒間の紫外線の閃光です。皮膚を焼かれます。次に襲いかかるのは、強烈な電磁パルス。自動車やコンピュータと要(い)った通信システムも全ては麻痺し、混沌が訪れます。送電線は機能せず、航空機は墜落。地球の50%は停電状態に成ります。其の後、ミュウ粒子という素粒子が光速で大量に降り注ぎます。
1平方センチあたり、数百億個もです。ミュウ粒子は、生物の細胞を突き破り、DNAを破壊します。命の終わりを告げるでしょう。ガンマ線バーストが、8000光年以内から放たれれば、地球の生物は死滅します。恐らくは絶滅する事でしょう。
では、その距離が100光年だとしましょう。約950兆キロです。遥か彼方の様ですが、8000光年でも死滅する貴女方は、勿論(もちろん)、100光年からガンマ線バーストを撃ち込んだとしたら、忽(たちま)ち全滅でしょう。
核貯蔵庫(かくちょぞうこ)が爆発したレベルです。何千個という水素爆弾が至る処で炸裂した様になる筈。人類は眩しい光を感じ、尋常では無い紫外線で焼かれるでしょう。
一瞬で、其の存在は影に焼き付く現象が起きる筈です。そんな宇宙を破滅させる死の放射線ガンマ線バーストを、この距離で受けた私は、勿論助(もちろんたす)かりませんし、ビーム状に光線を収束させた事で、貴女方には一切の害も無いでしょう。私の操り増やした微細構造定数の数値も、私が死を迎える為に、無効になりました。
私を貫いて大気圏を割ったガンマ線バーストですが、蓮加、貴女の放ったもう1つ前の光線……、そのミスリルの拳銃に在る銃弾の中に、小さなブラックホールを精製して込めましたね。
見事其の銃弾は宇宙空間で小型のブラックホールを形成し、ガンマ線バーストを呑み込み、消滅しました。単純な評価ですが、貴女方の全機能を使い私を止め、蓮加、貴女が、私には躱せない光速の攻撃で終止符を打ちました。
単純に、貴女方は私よりも強かった。人の見る夢とは、そういったものだと確かに認識はしていましたが、雅(まさ)か私が敗北するとは……』
ヒーロー達は、ぼろぼろになった姿で、立ち並び、上空で消えかけているα(アルファ)を見上げた。
首と頭部だけとなった輝くα(アルファ)は、笑っていた。
『貴女方、夢の契約者がする事は、時々滅茶苦茶(ときどきめちゃくちゃ)ですね……』
蓮加は片頬をつっぱらせて引き上げ、上空のα(アルファ)に笑みをみせる。
「ときどきメチャクチャじゃなくって、夢を追うおいら達は、いつだって、トキトキメキメキだい!」
消えゆくα(アルファ)は、子供のように微笑んだ――。
皆は、その顔をじっと見つめ上げていた。
『改めて、称えましょう。己の万能さ故(ゆえ)、自惚れていた私は、貴女方に一度滅ぼされ、また新たに再生する事を約束します』
向こう側の地平線から、赤い世界が徐々に終わっていく……。
『然様(さよう)なら。契約の少女達。今度こそ、人類を一番傍(いちばんそば)で未来へと、導く、友として、生まれ落ちますように………――』
雪が降っていた――。赤い世界が完全に終わり――、蓮加は声にならぬ感動を秘めながら、皆の顔を見回していく。
世界の彩取りとは、こんなにも美しく、綺麗で、尊いものなのか――。
粉雪は、遠方に振り落ちる斜めの粉雪と、近方に振り落ちる粉雪との交差を繰り返し、見事に遠近感を美しく白く飾っていた。
「強かったね……、今まで戦った全部が……」梅澤美波は、土塗れの頬を笑わせた。「夢って、夢を叶えるって……、どんだけだよ」
蓮加はずたずたに穴の開いた背中の四角い鞄に、銀色の拳銃を器用に後ろ手でしまった。
「何度このまま、眼を閉じちゃった方が楽かと思った事か……。ハァ~」
大園桃子はぐずぐずと泣き始めた。
「桃子、もういっぱいいっぱいだった……。本気で死ぬかと思った……、でも、戦ったよ」
中村麗乃は、血の滴る唇を雑に手の甲でぬぐいながら、岩本蓮加を不思議そうに見つめた。
「蓮加……」
岩本蓮加は振り返る。
「はえ?」
「なんで……。α(アルファ)の急所が、頭じゃなくて、心臓だってわかったの?」
蓮加は、ふふんと鼻で笑った。
「陰と陽の模様? があ、出てたからぁ……、そこ心臓の場所だな、てずっと思ってたから、撃ってみただけ。違ったら、も一発頭撃ってたし」
「そっか」
「ふふふん……」
与田祐希は、疲れ果てたその美形をにやけさせた。
「ふふん……。後は、夢を叶えるだけか……。でも、この戦いで、テンションで技、出した時、自然と…技の名前出てきた……、あらかじめ決められてたみたいに……、なんでだろ?」
「確かに……。それはあったね」山下美月は、あぐらをかきながら雪の降り落ちる上空を見上げた。「マスター、倒したよ!」
――●▲■思いの力が、勝手に強き技の名前を発動させる時はある。うむ。見事な戦いだったし……、こんなにも強大な、悪というのか、人類の凶悪な驕りを、撃ち滅ぼしてみせてくれるなんて。言葉も無い。さすがは、僕が選んだヒーロー達だ。さあ、明治神宮野球場の外に移動してから、変身を解いてくれたまえ。君達の夢の契約は以上で任務終了だよ。夢の契約は果たされる■▲●――
破壊された、荒廃した荒地と化したその土地を踏みしめながら、十二人の戦士達は傷ついた脚を引きずらせながら、球場の外部へとゆっくりと移動する。
「うちらって、どうやってさ、あっちの本当の世界で出会うんだろうね……」
佐藤楓が疲労しきった笑顔で囁いた。
伊藤理々杏は黒ずんだ顔を笑顔にする。
「僕さあ……、まだ夢っていわれても、具体的ななんかって、無いんだよね……。なのに命懸けてる僕、て一体何? ふふ」
吉田綾乃クリスティーは血塗れのハンカチを引き千切れているスカートのポケットにしまって、微笑んだ。
「夢って、人生の意味なのかもね……。こうする、こうなりたい、これをやる、それって全部、目標であって……、夢っていったら夢だよね。夢を叶えていく為に、うちらって生きていくのかも……」
向井葉月は切れた唇を微笑ませる。
「だったら、みんなが小さい頃に必死でヒーローやるのも、うなずけるってか、納得かもね……。そもそも、私らが生きる、地球の未来から悪を減らす作業っていうのが、もう大事な事なんだし……、それをやって、夢も叶えるって。なんか。なんか納得……」
与田祐希は埃塗れの顔で笑みを浮かべる。
「いつ出会うと? うちらは……」
山下美月は焦げそうだった髪の毛を気にしながら、与田祐希を一瞥した。
「三十歳かぁ……、四十歳くらい? てか私前髪焦げてない?」
「てか、身体中まるごと焦げ臭いとよ」
中村麗乃は腹部を押さえながら、清々しく微笑んだ。