トキトキメキメキ
――●▲■阪口珠美君、おめでとう。珠美君、君の夢は成就するよ。僕のヒーローになってくれて、ありがとう■▲●――
阪口珠美は、想いを叫んでいる皆の顔をじっくりと見回して、うっすらと微笑み、涙を浮かべながら、小さく手を振った。
彼女の姿は、緑の植木に降り積もる雪景色を強調させるかのように、静かに消えた。
――●▲■佐藤楓君、おめでとう。楓君、君の夢は成就する。僕のヒーローになってくれて、ありがとう■▲●――
佐藤楓は、大粒の涙をこぼしながらも、熱き死闘を互いに潜り抜けた仲間達を見つめながら、大声で叫ぶ。
「絶対に、また会おう!!」
その姿は、人々の行き交う都会の雪景色に透けていくようにして、透明になり、次の瞬間、瞬く間に見えなくなった。
――●▲■伊藤理々杏君、おめでとう。理々君、君の夢は成就するよ。僕のヒーローになってくれて、ありがとう■▲●――
伊藤理々杏は泣きながら、泣き叫ぶ山下美月と抱き合う。
「僕は僕達の守った未来を忘れないし、その未来で、全力で生きてやる……。美月、必ず、見つける」
ふわっと雪景色の中に消えたその現象は、伊藤理々杏の強い笑みの印象だけを色濃く焼き付けたまま、都会の雑踏を映し出した。
――●▲■久保史緒里君、おめでとう。史緒里君、君の夢は成就する。僕のヒーローになってくてありがとう■▲●――
久保史緒里は、凛々しい笑みを浮かべて、共に過酷な運命を戦い抜いた仲間達に、小さく手を振った。
「ありがとうね。みんな、また、未来で……、必ず……」
空気中に消えた彼女の姿を埋め尽くすかのように、舞い落ちる粉雪の遠近感がやけに強調された。
――●▲■梅澤美波君、おめでとう。美波君、君の夢は成就するよ。僕のヒーローになってくれて、ありがとう■▲●――
梅澤美波は、満面の笑みで、片手でピースサインを作った。
「未来で待ってるから!!」
そう叫んだ次の瞬間――。梅澤美波の姿はぱっと空気の中へと消え去り、深々と積もっていく都会の雪景色が視界を覆った。
大園桃子は、山下美月と抱きしめ合い、そして、与田祐希と抱きしめ合った。
岩本蓮加は、にこにこと涙を浮かべながら、山下美月と共に、与田祐希と大園桃子の事を抱きしめた。
――●▲■大園桃子君、おめでとう。桃子君、君の夢は成就する。僕のヒーローになってくれて、ありがとう■▲●――
大園桃子は悲鳴のように呟く……。
「帰りたくないよぉ…、忘れたくない……、みんなといたい……、大好き……」
その姿は、優しい囁きと共に、白い靄(もや)を残して、雪景色の中へと消えた。
与田祐希は、山下美月と岩本蓮加を強く引き寄せて、抱きしめた。
「ずっと仲間だよ、祐希のこと、忘れんで……」
「絶対忘れない……」山下美月は、抱き合ったまま、俯いて囁いた。涙が落ちる。「与田可愛いもん……」
「与田と美月がいなかったら、うちら何度も負けてた……」蓮加は涙声でそう囁きながら、はにかんだ。「美月も与田も、最強だったよ……。そんなん、忘れないよぉ~……」
――●▲■与田祐希君、おめでとう。祐希君、君の夢は成就するよ。僕のヒーローになってくれてありがとう■▲●――
与田祐希はころころと笑いながら、眼元に両手をそえて、ぺこり、とお辞儀をした。
「たくさんたくさん、思い出をありがとう……。楽しかった………」
都会の白い景色に消えたその声は、己が信念を貫いた勇者にしか浮かべられぬ笑みを伴って、その粉雪の中に消えていった。
――●▲■山下美月君、おめでとう。美月君、君の夢は成就するよ。僕のヒーローになってくれて、ありがとう■▲●――
山下美月は、岩本蓮加に視線と指先で雪降る空中を示して、微笑んだ。
「さらば、佳き火……」
ポウ――と、雪景色の都会の上空を熱く照らした炎は、空気中に光のように燃焼して、間もなく白い世界に融(と)け入るように見えなくなった。
「蓮加……、私の火……、忘れないでね」
山下美月は、笑顔で、右手を差し出した。
岩本蓮加は、その手に、己の右手を柔らかく握手させた。
「仲間だろ……。忘れないって……」
「あばよ!」
「………」
雪景色の中、山下美月の姿はその明るい気配ごと、すっかりと都会の雑踏の中に蒸発したかのように消えていった。
――●▲■岩本蓮加君、おめでとう。蓮加君、君の夢は成就する、僕のヒーローになってくれてありがとう■▲●――
蓮加は、ぷいっと空気中を睨んだ。
「なに、さっきからそんなロボットみたいに……」
――●▲■いや、残された時間がないのもそうだけど、僕は、こういう別れが苦手でね。何度味わっても、なかなか慣れないんだよ。だから、さっぱりと■▲●――
「さっぱりしすぎだろ……、誰なんだよ」蓮加は鼻腔から、いっぱいの息をついた。「まあ、これでマスターともお別れか……。いちお、言っとくけど……。ありがとね」
――●▲■うん。こちらこそありがとう。本物の地球に戻っても、元気でね■▲●――
「は~~い」
蓮加の視界は、急激に暗転して、宇宙空間のような浮遊感と共に、その全ての視界は黒く閉ざされた――。
眼を開くと、雪が降り落ちていた……。
それは、通学路の路上。アスファルトには、これから降り積もろうとする溶けた雪と、ピンク色のランドセル。手には重めの手提げバッグを持っていた。
視線のずっと向こう側に在る十字路で、軽自動車が通過した。ぼたん雪の降り落ちる空の中を、鳥が羽ばたいている……。
蓮加は、ランドセルを背にしょいながら、己が元の世界へと帰還した事を悟った。
「ただいま……、てか」
――●▲■おかえり、てか■▲●――
「おわあ‼‼」
蓮加は跳び上がりそうになりながら、少し上の方角を睨み上げた。
「まだいたのかよ……」
――●▲■まだいたのだよ。ちゃんと帰還できたかを確認するのも、マスターの務めだからね。十二週間だけの大冒険、どうだった?■▲●――
蓮加は脚を止めて、降雪を見上げた。
「どう、だろ……。ま……、楽しかったんかな……」
――●▲■よく宇宙を殺す死のガンマ線と、ブラックホールなんか創れたね■▲●――
蓮加はくすっと上を見上げてはにかんだ。
「どんな銃でも作れる能力と、どんな弾でも作れる能力でしょう?」
――●▲■ガンマ線もブラックホールも、危険度ナンバーワンだね。今までそんな危ない橋渡ったヒーローは見た事が無いよ。あっぱれだったね■▲●――
蓮加は人差し指と親指でちょこっとを表す。
「ブラックホールはちょこっと、1ミリのブラックホールだよ。銃弾に詰めなきゃいけなかったから」
――●▲■1ミリのブラックホールでも、地球に置けば地球と近くの宇宙空間を破壊してから呑み込むよ■▲●――
蓮加はふざけて驚愕してみせた。
「あらま……。ガンマ線も、麗乃がしゃべってたのをヤバそうだな~って思いながら、そのヤバそうなものを想像しただけだし」
――●▲■ガンマ線と指定すれば、確かに神なる力が知恵を貸して、ガンマ線を創造させるだろうね。でも、これまたサイズが良かった■▲●――
蓮加は降雪する頭上にはにかんだ。