トキトキメキメキ
蓮加は「ふうん」と理解している事を再確認した。
――●▲■更に仲間達の能力も把握しとくといい。美月君の能力は【発火能力(パイロキネシス)】。ファイヤー・スターターと呼ばれる能力者が美月君だ。あと、更に蓮加君と同じく【超身体能力】パワーの能力者でもある■▲●――
山下美月は、己を一瞥した蓮加に、「いえーい」と笑顔でピースサインをした。
――●▲■祐希君の能力は豊富で、【神の子】。ゴッド・オブ・サンダーと呼ばれる能力者が祐希君だ。更に【遊び心】ワイルドと呼ばれる能力者でもある。更に更に、祐希君は【無音】サイレントと呼ばれる能力者でもあるよ。サイレントは一定空間の一切の音を消してしまえる能力だね。ワイルドは、……。祐希君?■▲●――
山下美月は苦笑して与田祐希を尊そうに見つめる。
「疲れたよね……。ヒーローも楽じゃないもん……。おやすみ、与田」
蓮加は声に出して「ははは」と無邪気に笑った。
「キャラ濃いな~、美月も与田ちゃんも~」
「そうお? 蓮加もけえっこう、濃い~と思うよ?」
「うっそう?」
与田祐希は項垂(うなだ)れながら眠りに落ちたままで「それ祐希が食べる」と寝言を呟(つぶや)いていた。
4
岩本蓮加はその眼に静かなる闘志を灯して、その光景を見つめる。
山下美月は周囲に熱気を発散させながら叫ぶ。
「でっかい蜥蜴が十六匹、そいつらは私がやる!! でも怪人がざっと数えても300人以上いるっ、そっちが本命だよ、そっち蓮加と与田に任せていい!」
一体一体が十二メートルから十六メートルまである多種の巨大で異形の蜥蜴(とかげ)が、公共物を破壊しながら東京都立の病院前の道路に鵜蛇鵜蛇(うじゃうじゃ)と蠢(うごめ)いて屯(たむろ)している。その背後の道路には、アスファルトをそっくりと埋め尽くす数多の白い仮面をした黒いコートの怪人共が陸続(ぞろぞろ)とこちらへと向けて行進してきていた。
与田祐希は指の関節を鳴らして、遠くの怪人共をにやけて睨みつけた。
「本気出しちゃおうっかな~……」
蓮加は弾倉をデザート・イーグルに装填して、その鬼人のような眼差しを遠方の怪人共へと吸い付かせる。
「銃弾は無限に作り出せるから……、とにかく撃つね。与田ちゃん、行こう」
「おっけえ~!」
与田祐希は【遊び心】の能力を発動させて、異形の蜥蜴集団をひとっ跳びで跳び越えた。
蓮加は異形の蜥蜴集団の隙間を、蝶(ちょう)のように揺蕩(たゆた)うかの如(ごと)く擦(す)り抜けながら、超スピードで遠方の怪人共の方へと走り抜ける――。
山下美月の両の瞼(まぶた)から着火した炎が、光芒(こうぼう)のように空へと揺れ光った。
「炎っ‼‼ 悪い蜥蜴さん達をぜぇぇんぶ、焦がしちゃおっかぁ‼ 燃え盛る紅い鳥(フラミンゴ)っ‼‼」
突如として爆発した爆炎は、熱気に渦を巻きながら異形の蜥蜴を二体同時に業火に包み込んだ――。
拳銃で銃弾を撃ち込んでくる怪人共を相手取り、蓮加はまるで銃弾が眼に見えているかのように怪人の放つ銃弾を全て避けながら、踊るように怪人の脳天を、超至近距離で一人二人、五人六人と、連続して撃ち抜いていく。
与田祐希は【遊び心】の超越的野生の勘で山下美月のピンチを察知し、振り返って四本の手脚で獣のように後方の蜥蜴集団へと飛び掛かっていった――。
「美月ぃ、やっぱ手伝うねぇ‼」
「ごめん与田、なめてた……ハァ」
山下美月は息を切らせながら、蜥蜴へと向けた手の平を、ぎゅっと握りしめる――。次の瞬間、三体の異形の蜥蜴の巨躯が強大な爆炎に粉々に砕け散った。
「これで八匹め……、与田気を付けてっ、こいつら異常に硬いのっ‼」
与田祐希は【遊び心】を発動して、一輪車を召喚した……。
「ほいっと!」
そのまま、一輪車を乗りこなして、与田祐希は異形の蜥蜴集団の間を行ったり来たりしながら、山下美月に真顔で「凄くない?」と親指を立てた。
山下美月は、手の平で顔を隠して溜息を吐く……。
「なんの能力よ……」
――●▲■美月君、祐希君、そのトカゲは不特定多数の病の悪だ。今の君達には、一体でも強敵だけど、ここであきらめてはいけないよ。今向こうでは、蓮加君が1人で300人以上の怪人と対決している。怪人は窃盗や抑奪(よくだっ)の悪だね。その十六体のトカゲの化け物をいち早く退治して、蓮加君の加勢を!■▲●――
山下美月は、蠢(うごめ)く異形の巨大蜥蜴へと向けて、手の平を開く。
「わかっちゃあいるんだよね……、でも一匹に使う火力が大きすぎて……。ううん、やるしか‼‼ 炎っ‼‼ 爆発して燃やし尽くせぇっ‼‼」
爆炎が業火を滾らせる熱気の中、与田祐希は一輪車で炎の領域を避けて進みながら、その眼を光らせる――。
「本気だしていい? 祐希腹へっとるとよ、機嫌が悪いの……、ねえ、蜥蜴ぇ‼‼ 電電蒸死(でんでんむし)ぃぃ‼‼」
与田祐希の【神の子】の能力で、突然に赤い空を覆い尽くした雷雲から、夥(おびただ)しい稲光が地響きを引き起こして落雷した――。
蓮加は銃声を途切らせぬまま、任務の知らせをもらった時の、声の主の言葉を思い出していく……。
――○△□この任務は同時任務だ。いいかい? 君達三人はAチーム。君達の仲間である他のヒーローがBチームとCチームとDチームある。君達は巨大トカゲの大群と、怪人の軍団を相手にする。Bチームはミノタウロスという神話の怪物を。Cチームはガーゴイルの集団を。Dチームはロック鳥という中東の伝説的な巨大怪鳥を。そして、その各自の戦いが終わった頃、また同時多発的に、悪が生じる気配がある。その二度目の闘いこそ、今回の本番だ。まだ相手がなんの悪なのかはわかっていない。とにかく、ヒーロー同士の挨拶は後回しにして、コンビネーションで大敵を打ち負かそうね! がんばれ僕のヒーロー達‼‼□△○――
ミノタウロスは、頭が牛で、身体が人の姿をした巨人の戦士であった――。極端に太いその腕は、鋭利で重厚な斧(おの)を振り回している。赤色(せきしょく)のその肌は、人間の血液の色をしていた。
久保史緒里は短い悲鳴を上げて、涙ぐんだ。
「牛ぃぃぃ、なんで顔が牛なのぉ~、こぉーわぁーいぃぃ~!!」
「空扉(そらとびら)っ‼」
梅澤美波は【空扉】の能力で、何も無かった空間に突如として出現した巨大な扉を押し開けるような仕草をする――。開かれた異次元の扉。その扉の中は青空のような異空間になっている。
「とりあえず史緒里もでんちゃんもこの中に入って! ほら泣かないのっ!」
久保史緒里は鼻をすすりながら扉の中へと入り、佐藤楓も何やらを考えながら開かれた扉の中へと一時的に非難した。
最後に、梅澤美波が扉を閉める――。すると、その景色から扉は存在を消した……。
梅澤美波は青空の中に立ち、二人を振り返る。
「やんなきゃ勝てないよ! もっと自信を持って、勝つんだよ! 勝てば死なないし、負けない!!」
佐藤楓は、あごをさすりながら考え耽(ふけ)る……。
「はて……。私の能力って、刀(かたな)を出すだけだったっけえか? あれえ? まだ他にあったような……」
久保史緒里は、ぐすんと涙ぐんだままで梅澤美波に言う。