二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

にゃんこなキミと、ワンコなおまえ6-1

INDEX|2ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

 盗聴器と写真についての因果関係はまだ不明だ。同一人物の仕業と判断するには情報が足りない。
「写真が置かれているだけか? 誰かにつけられている様子や、部屋に異変は?」
「とくには……だが、写真は隠し撮りだと思う。バイト帰りとか、スーパーで買い物してるときのが多い。それと最近になって、メモが入っていることが増えた」
 伊黒の緊張が伝わるんだろうか、鏑丸がまたチロチロと頬を舐めてくる。だが、いつだって伊黒を癒やしてくれる冷たくやさしい舌も、伊黒の焦燥と不安を薄れさせてはくれない。
「メモ?」
「俺が、いつどこにいたとか、誰と逢ってたとか。……杏寿郎と電話したときや、その……泊まりに来たあとは、杏寿郎と話した内容、とか……書いてあって」
 思わず伊黒は息を呑んだ。まさか。そんなわけはない。とっさに口をつきかけた言葉を、伊黒はどうにか口中でとどめた。
 引っ越しの日に見つかった盗聴器は一つきりだ。新たな盗聴器だって、見つかっていない。なのになぜ。
 錆兎たちが嘘をついたとは考えにくい。義勇の目を盗み彼らに盗聴器のことを告げたときの、驚愕と憤怒は本物だった。ならば犯人は、調査を終了したことを知り新たな盗聴器を仕掛けたのだろうか。だが、それをどうやって知る? しかもあの件は一年以上前だ。なぜこれほど間が空いた?
 伊黒は焦りを振り払うが如く無意識に頭《かぶり》を振った。今はまだわからないことばかりだ。盗聴器だって、以前と今回では別人かもしれないと考えたばかりではないか。憶測を重ねるよりも、まずは状況を明確にし整理すべきだろう。
 
 言いよどむ義勇の声音から、メモの内容はうすうす察しがつく。杏寿郎が泊まったあとだと言うならなおさらだ。
 なぜ杏寿郎に言わない。愚問だ。なぜ義勇が杏寿郎には話せないと言うのか、伊黒は知っている。義勇が杏寿郎と離ればなれになる場所への進学を決めたのと、同じ理由からだろう。
「写真やメモは捨ててないだろうな。警察へは?」
「……一応、杏寿郎に見つからないよう隠してある。警察は……友達のいたずらじゃないのかと。メモを見せていないせいだとは思うが」
「相手は男の可能性が高いんだな?」
「たぶん」
 それなら、警察の腰が重い理由もわかる。ストーキングとは異性に対して行うものという思い込みは、意外と根深い。同性にストーキングされていると言われても、ピンとこない者が多いのだ。警察に相談しても、まともに取り合ってもらえぬこともあると聞く。
 ましてや義勇の場合は、恋人が男子高校生の杏寿郎だ。被害状況や背景事情を告げれば、杏寿郎との仲についても知られることになるのは必至で、義勇にしてみればそれは避けたいところだろう。
 義勇がこちらで一人暮らししていたのなら、警察もそれなりに親身になっていたかもしれない。なにしろ槇寿郎――杏寿郎の父は県警機動隊所属の術科特別訓練員だ。義勇を我が子の同然にかわいがっているのは、署内ではつとに知られたところである。県警の威信を背負い大会に出場した槇寿郎が勝ち上がるたび、会場には一際《ひときわ》大きくちびっこの歓声がひびき渡る。声の主の一人が伊黒であるのは言うまでもない。みんな手が赤くなるほど拍手しまくったものだ。
 槇寿郎が子煩悩っぷりを発揮して、宇髄らも含めた子供たちへの愛情を隠しもせず知り合い全員に「どうだいい子たちだろう」と自慢するものだから、なんだかんだと伊黒も県内の警察官には顔が知れている。じつの息子である杏寿郎とセットな義勇ならばなおさらだ。
「それで、俺に頼みたいこととはなんだ」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その日以来、伊黒の睡眠時間は激減した。十月の初めから年の瀬も近づく今日《こんにち》までの伊黒の苦労と忙しさは、口にも筆にも尽くせない。
 もともとAIとGPSを活用した子供の見守りアプリの開発を企画していたから、大まかな設計プランはできていたのが救いといえば救いだ。むしろ、以前そんな会話をしていたからこそ、義勇も伊黒を頼る気になったのだろう。
 とはいえ、公開には一、二年はかかる見込みだった代物である。それがまさかこれほどまでの突貫工事になろうとは。スマホの機能をろくに使いこなせぬ義勇でさえも、問題なく扱えるという点では、実証実験ができたと言えなくもないけれども。
 とにもかくにも、義勇が望む機能はどうにか備えられた。ストーカーも、写真の入った紙袋をドアノブにかけていくだけで、今のところ接触してくる気配はないようだ。
 現状、ストーカーの存在を義勇は、錆兎たちにも明かしてはいないらしい。知る者が増えれば、杏寿郎の耳に入る可能性も高くなる。それもまた、義勇にしてみれば回避したいのだろう。
 本当なら、協力者は多いほうがいい。伊黒のアプリは、あくまでも万が一の場合に対して、対処が早まるだけのものだ。義勇の身を守る盾になるわけではない。
 もしかしたら義勇が警察に相談したのも、警察内部に義勇を知る者がいないのが大きかったろう。こちらでの警察沙汰はどうしたって槇寿郎に、しいては杏寿郎に筒抜けになる。杏寿郎にだけは気づかれたくない。義勇がそう考えるのは必至で、警察に相談したのもそれなりに悩んだ末だろう。警察が即動いてくれたなら、義勇は伊黒にだってなにも言わずに済ませるつもりだったに違いない。杏寿郎に知られることをかたくなに義勇が拒む理由をただ一人知る伊黒としては、気がもめてしかたのないところだ。
 返すがえすも、中三のときに起きた事件が悔やまれる。あれがなければ、義勇はきっと杏寿郎のそばを離れようとなどしなかっただろう。無邪気な恋心だけ抱いて、今も杏寿郎が住むこの町で暮らしていたに違いない。

『一緒にいたら、大人はきっと、杏寿郎と俺の恋を原因にすると思う』

 義勇が伊黒にそんなことを言ったのは、昼休みに進学先の話題が出た翌日だ。義勇が地方に進学すると聞き、伊黒と不死川は思わず絶句したけれど、杏寿郎はすでに聞かされていたのか、義勇なら合格間違いなしだと笑っていた。
 翌日に伊黒が義勇と二人きりで話すことになったのは、あくまでも偶然である。
 はからずもそれは、中三のときと似た状況でもあった。