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ドリーム・キャッスル

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「普通は菓子折り持って、…普通に、挨拶だよね」
「挨拶って、今度越してきました伊藤です~、梅澤です~って?」
「そうでしょ」
「やっといてよ」
「私1人で?」
「だって……」
 だって、2人揃って挨拶って、ちょっと想像に難があるんですけど。名前を名乗る時に漫才コンビみたいになりそう。
「え、今の時代でも挨拶なんてするのかなぁ?」僕は言ってみた。「コロナあけたばっかだけど」
「すぅるよ~」美波は当たり前とばかりに笑う。「普通するから~」
美波はバリバリの湘南生まれなの。だから、多分そういうことに異常に固執する環境で育ったような気がするんだよなあ。湘南ってかっこいい人たちの集まりだから。ちゃんとしてるっていうか。普通、若者がいちいち挨拶なんてしに行くかな?
「え~うそ~? 二十歳そこそこの若者が、挨拶なんてする~? しないだろう~?」
「え~? する、でしょう……。しないのかな?」
「だってさあ、もし挨拶に行ってぇ」これは僕の不安。「その人が怖い人だったらどうするの?」
「そうしたら……」
 警察に言う。そんなんなら別に行かなくてもよくない? そういうわけにはいかないよ。こんな会話が結構続いた。途中で終わりにしようかと思ったけど、意外に大事なことなので、お互いに妥協することをやめて心ゆくまで話し合った。
 話し合った時間はゆうに1時間。それでやっと決着。
「菓子折りって何を持っていけばいいの?」
 美波の勝ちね。普段は結構僕が勝つんだけ。お城に関してのことは美波が強いみたい。だって絶対に引かないんだもん、この人。
「人形焼きとか?」僕はそう言った後で笑ってしまった。「なんか旅行帰りの人みたいじゃない?」
「ひよことかでいいんじゃん」
「ひよこ~?」
 どうやらお菓子の「ひよこ」のことらしい。
「じゃあ、明日にでもそれを買いに行きましょう」そこで僕は気づく。「それをどこに配るわけ? 隣? フロア全部?」
「全部…ってのも微妙だよねぇ?」美波は苦笑する。
「隣だけってのも結構微妙じゃない? うちの隣は1部屋だけだし」両隣がいれば即決だったんだけどね、これがまた微妙。「家から3部屋とかは、全然意味わかんないし」
 2人が同じ問題で迷ったら、やっぱり答えは1つ。金に物を言わせよう。これしかない。お金はあるんだから、全部に配っちゃえってね。
「けって~い!」
「早くお風呂入っちゃいなよ」
「は~い、行ってきま~す」
「でかいテレビだなぁ……」
 まあ、2人揃っての初夜はこんな感じだった。

       9

時間が経つのは早い。時の流れは一緒に感じる。光陰矢の如し。ついにこの間始まった夢の生活。楽しい時間はあっという間に終わるって言うけど、それは本当だ。あっという間というよりは、マジで一瞬。うん。そうね、それが一番しっくりくる。
 一瞬です。

「あっちぃ……」理々杏は眼を覚ました。
 真夏の朝、冷房つけたままで寝るとたまに風邪引くから、切ったのが間違いだった。
「あう……」理々杏はベッドの上であぐらをかく。そしてそのままキョロキョロと周りを見回し始めた。どうやらうちわを探しているようだ。「はっつい!」
 全っっ然眠れなかった。暑すぎる。もうシャツはびっしょり。裸で寝るとシーツがびっしょりになるから薄いシャツを着て寝たんだけど、全っ然意味なかった。
 大袈裟に言って、1時間に1回は起きてた気がする。
「あ~……」
 僕はベッドから立ち上がった。窓のカーテンを開く。眩しい対応がすぐに部屋の中を照らした。
 僕は時計を見る。もうお昼だった。
「一時…かぁ……」
 起きてるかな? とか思いながら、自分の部屋を出る。そのまま美波の部屋へ行こうかと思ったけど、気がついたらトイレの前にいた。
 僕がリビングへと行くと、ちょうどタイミングよく、美波が自分の部屋から出てきた。寝癖が立っているのは僕だけ。美波はすでに髪をセットし終わっていた。パジャマを着ているのは2人とも一緒。
「おはよ」理々杏は大きな欠伸(あくび)をする。「はあ~…、暑いね」
「おはよう」美波も大きな伸びを見せた。「暑っつ」
「クーラーつける?」理々杏が寝ぼけた顔のままできく。
「うん」
 僕と美波はリビングのソファに座った。
「お茶淹れてくる」理々杏はそう言って立ち上がる。
「あ、私が淹れてしんぜよう。あれ飲まなくちゃだし」美波はそう言ってキッチンへと向かった。
 あれとは、結構前に美波が海外旅行で買ってきた紅茶のことだった。確か賞味期限がもう切れてたと思ってたけど……。死にはしないでしょう。
 美波が紅茶を淹れて戻ってきた。今日はいつものマグカップじゃない。お客様用のティーカップだった。しかもちゃんと下のお皿までつけて。
「あ、いただきます」
「どうぞ」
 テレビもつけずにリビングでティータイムなんて、久しぶりだった。窓から差し込んだ日の光がとっても雰囲気を醸し出している。クーラーも利いてきたし、午後の紅茶、って感じかな……。まだちょっと寝ぼけてるみたい……。
「全っ然眠れなかった……」
「うそ?」
 理々杏は眠そうに頷いた。「クーラー切っちゃったからさ、もう、あっつくて暑くて……」
「いや、タイマーにしとけば良かったじゃん」
「いや、タイマーにしといたのよ……」
「違くてさ、朝にさ、クーラーがかかるように」
「ああ~……、そうね」
 何でもない会話。休日はいつもこんな感じ。
 今日は久しぶりの、2人揃っての休日だった。
「ご飯は? もう食べた?」理々杏がきいた。
「うん、10時くらいに食べた」
「そんなに早く起きたの?」
「うん」美波は少しだけ微笑んで見せた。「私も、なんか眼が覚めちゃって」
 昨日、僕たちは久しぶりに2人で遊んだ。2人が出会ったオーディション。その時の会場がある街。そのオーディションの後に行ったファミリーレストラン。その時一緒に撮ったプリクラはそこにはなかったけど、僕たちはどうしたことか、思い出に浸るようにその街を歩いた。
「昨日はけっこう歩いたね?」理々杏の表情に本来の動きが戻る。眼が覚めたらしい。
「うん、でも楽しかった」美波は頷く。「楽しかったよね?」
「楽しかった~」
 本当に楽しかった。勢いでそうしたにしては、充分な休日だったと思う。ま、あちこち歩き回った時点で、僕の良く知る休日って感じではないんだけど。
 昨日僕たちがここに帰って来たのは深夜の3時。終電で地元に帰ってきて。ほんの少しだけ呑んだお酒に引っ掛けて「二次会」とか言ってそのままカラオケ。
 で、結局は3時になった。深夜のね。
「何時間くらい寝れた?」美波が言った。彼女はティーカップを両手で丁寧に持ち上げている。
「5時過ぎに寝たからぁ……」理々杏は指折り数える。「8時間だけど、内容は4時間くらい」
「うっそ…」美波は静かに笑った。「私も4時間しか眠れなかった」
 僕たちがあまり眠れなかったのには、色々と理由があるんだけど、1つ2人に共通している理由がある。
 そのために、あまり眠れなかったのかもしれない。
「シャワー浴びてきます」理々杏はソファを立ち上がった。そのまま中ドアの向こうに消える。
作品名:ドリーム・キャッスル 作家名:タンポポ