恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023―
『欲望のリンカーネーション』が阪口珠美のセンターで始まる――。妖艶に紫に染まり、白色に照らされ、ピンクに染まる……。
『大人たちには指示されない』が岩本蓮加のセンターで開始する――。激しくフラッシュする照明。フラクタルなバックスクリーン。ミラーボールが回る……。激しい大コール。
『未来の答え』が久保史緒里と山下美月のWセンターで始まった――。精いっぱいの声でオーディエンスを煽り、外周に走り出す久保史緒里と3期生……。センターステージで歌い、踊った――。
『毎日がブランニュー・デイ』久保史緒里のセンターで始まった。外周を走る3期生。笑顔で手を振り、オーディエンスは声援を返す……。メインステージに戻り、笑顔で寄り添い合いながら、最後まで3期生はこれを歌い終えた。
『棒の衝動』が伊藤理々杏のセンターで開始する――。赤く、青く、激しく点滅するフラッシュ――。炎が立ち昇る――。花火が下手、上手、中央にて、大爆発を上げる――。伊藤理々杏の決め顔は、最後、数秒間続いた。
久保史緒里がMCで、次が最後の曲だと告げられる――。彼女は泣いてしまう。歓声が上がり、拍手を浴びながら、彼女は凛々しく語る。
3期生には、まだやれる事があると――。
こんなに頼りがいのある後輩がいてくれると――。
一緒に手を叩いて下さい、僕が手を叩く方へ――。
『僕が手を叩く方へ』が久保史緒里のセンターで始まった――。
「泣いていい、でござるかな……」姫野あたるはもう泣いている。
「泣くって、これは」風秋夕は満面の笑みを浮かべた。
「おい、なんか書いてないか?」天野川雅樂は眼を細める。
「後ろ! 3期のみんなのメッセージが書いてある‼‼」来栖栗鼠は指差した。
久保史緒里の最後のMCトークに、与田祐希は号泣し、3期生は涙していた。
本日は本当に、ありがとうございました――。
消えていく3期生に、最後は拍手と大歓声で幕は閉じた。
乃木坂――。
46――。
乃木坂――。
46――。
自然と湧き上がるコール……。
乃木坂――。
46――。
乃木坂――。
46――。
クラップ、クラップ、クラップ。
クラップ、クラップ、クラップ。
クラップ、クラップ、クラップ。
クラップ、クラップ、クラップ。
乃木坂――。
46――。
乃木坂――。
46――。
彼らは知っている……。
一度おろされたその幕が、
3期生の栄光と共に、
もう一度、開かれるその瞬間を――。
『そんなバカな!』が山下美月のセンターで煽りと共に始まる――。トロッコに乗り込んだメンバーと、外周でキャノン砲を打ち込むメンバー。大歓声のオーディエンス。カメラに微笑むメンバー。
『転がった鐘を鳴らすんだ』が阪口珠美のセンターで始まる――。引き続きキャノン砲を打ち込むメンバー。外周を走るメンバー。カメラに愛嬌を振り撒くメンバー。
メインステージでは、CAMタイムで、スロットのお題の通りの条件をメンバーが披露していた。
皆さん、ありがとうございました――。梅澤美波を筆頭とした挨拶から、伊藤理々杏のMCで、与田祐希の『楽しかったしか出てこない!』という笑顔でトークが始まった。
山下美月は11人でこの横浜アリーナに立てた事が嬉しかったと語った。
伊藤理々杏は『皆さんの事が、ほんとにほんとに、大好きです‼‼』と微笑んだ。
梅澤美波は、続いてが最後の曲だと告げた。
『思い出ファースト』が梅澤美波のセンターで始まった――。メインステージでのパフォーマンスを披露すると、今度はメインステージから、外周へと降りて。歩く3期生。
メインステージに映ったファンからのサプライズ・メッセージに『知らなかった』『ありがとうございます』『ちゃんと見えてますよ』『最高の思い出』『ありがとうみんなぁ…』と、涙を浮かべる3期生……。
『今日の事は本当に忘れないと思います』梅澤美波はそう告げ、大きな笑みで叫び上げる。『みんな、本当に大好き~~っ‼‼』
皆さん本当に、ありがとうございます――。
バトンを受け継いだと、梅澤美波は語る。乃木坂を引っ張っていくと。新しい道に進んでいくんだなと――。
本日は本当に、ありがとうございました――と、深々と、伝統の一例をしたのち……。
『ちょっと待って下さい』
何やらを、梅澤美波へと耳打ちする山下美月……。
3期生は集まり……。
楽しすぎたので、わがままを聞いて下さいと告げた。
ラスト一曲……。
『3番目の風』が始まった――。盛大なオーディエンスの特大コールの中、外周を走り、風のように吹き抜ける3期生――。
やがて、メインステージに還った3期生は、与田祐希をセンターに『3番目の風』を屈託のない笑みを浮かべながらパフォーマンスする――。
オーディエンスとスタッフに『わがままを言ってしまいました』と感謝し、キャプテンの梅澤美波は『これからも、一緒に、最高の景色を見ましょう!』
本日は、本当に、ありがとうございました――と、伝統である深々とした一例をした――。
そして、マイクを通さずに、素の声で、『ありがとうございました‼‼』と、ファンへと熱い感謝の一例を残し、3期生はその栄光のステージに幕を下ろした。
7
二千二十三年四月十二日PM12時に乃木坂46の公式から発表されたのは、齋藤飛鳥写真集発売という衝撃的なものであった。
BARの店内にマルーン5の『シュガー』が流れている。
「飛鳥っちゃん、相変わらずかぁわいかったなあ!」
磯野波平は豪快に笑った。二千二十三年四月十九日(水)――。東京都港区の高級住宅街の何処かに秘密裏に存在する巨大地下建造物〈リリィ・アース〉。その地下六階の〈BARノギー〉にて、磯野波平と風秋夕と稲見瓶と姫野あたると駅前木葉は、先ほどまで生配信されていた〈SHOW ROOM〉の齋藤飛鳥写真集・発売記念生配信の余韻にどっぷりと浸りながら、未だタイトル未定である齋藤飛鳥の写真集のタイトルを考える『写真集のタイトルを当てよう大会』を開いていた。
一つ説明しておかねばならない事があるとすれば、それはこう。ここ〈リリィ・アース〉には、乃木坂46、そしてそのOGや、関係者などが高確率で立ち寄るという秘密を持っている事である――。
PM22時半――。与田祐希は甘い香りを漂わせながら、眠たそうな瞳を潤ませて、風秋夕と稲見瓶に微笑んだ。
「飛鳥さん、超可愛い。もう、なんだろ……。世界一可愛い」
カウンター席には、左から、風秋夕、与田祐希、磯野波平、向井葉月、姫野あたる、佐藤楓、駅前木葉、山下美月、伊藤理々杏、稲見瓶、岩本蓮加、阪口珠美、と着席している。そのカウンターは内側に湾曲しており、どの角度に着席していようとも、前かがみにならずに相手の顔が窺えるという匠の技で出来ている。
磯野波平は、左隣の与田祐希の頭髪に顔面を近づけ、眼を閉じて力いっぱいに鼻から髪の香りを吸い込んで、幸せそうに昇天しそうな顔をする。
「ん?」与田祐希は、磯野波平を見てから、ぐっと睨む。「何した、今」
作品名:恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023― 作家名:タンポポ