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恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023―

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「与田ちゃん、三分に一回シャンプーしてんじゃねえかってぐらい、ナイスいい匂いだぜ!」磯野波平はさわやかな顔で親指を立てた。「いい匂いすぎ‼‼」
「あん?」与田祐希はガンつける。
 風秋夕はラム・コークをカウンターに戻してから、与田祐希の耳元に言う。
「与田ちゃん無視無視……。変態なんだから、ね」
「わかった」与田祐希は風秋夕に振り向き直す。「そんで、タイトルは?」
 風秋夕は口元を引き上げる。「飛鳥ちゃんの写真集なわけだからぁ……、ニューヨークでしょ? え~~……。与田ちゃんは? なんだと思う?」
「う~~ん……、んだよ……」与田祐希は右隣りを睨む。
 磯野波平は、与田祐希の顔のすぐそばで、気持ちよさそうに眼を閉じて鼻から与田祐希の髪の毛の匂いを肺胞いっぱいに吸い込んでいた。
「ねえ~、夕君、どうする? 変な人いる……」
「波平ハウス‼‼」
「わんわん、てか! けっ」磯野波平はしらけて鼻をほじる。「わしゃ犬か」
「はあ~ん鼻ほじってるぅぅ~……」与田祐希は風秋夕の方に身を寄せて、恐ろしそうに半泣きで驚愕した。「それ、どこでふくの?」
 風秋夕は、「ん?」と、ふわっと香ってきた与田祐希の頭髪を見つめて、少し近づいてみてから「はああ超いい匂い‼‼」と驚愕した。
「てめえも一緒じゃねえか、けっ」
「シャンプーの匂いする?」与田祐希は髪を触って、苦笑した。「なんやろ、コンディショナーかなあ……。ああ違う、うう、そうじゃなくて、タイトル、でしょ!」
「飛鳥ちゃんの写真集なんだから、まあ、つうかこうだろな」磯野波平は横柄ににやけて与田祐希を見つめた。「太もも‼‼」
「はあ~?」与田祐希は顔をしかめる。「んんなわけないから」
「ブランド、とか?」風秋夕は与田祐希に微笑んだ。「冬のニューヨークで撮影だから、水着とかじゃない方向だとは思うんだよね、だとぉ、ファッショナブル系じゃね?」
「ああ~、どす恋! とか?」
与田祐希はそう言って、苺のカクテルをストローで飲んだ。風秋夕は「お相撲さんじゃんそれじゃ」とうけている。磯野波平は向井葉月に顔を向けて話しかけていた。
「飛鳥っちゃん、可愛かったなあ? はづちゃんよう! ショールーム観てたべ?」
「観た観た、うん、ちょ~うお、可愛かった~」向井葉月は表情を険しくさせて笑みを浮かべた。「十二万? そんぐらい数字あったみたいだよ、てかやっぱり規格外だよね、飛鳥さんにもなると。しかも、面白かったしさあ、あ~、先輩が偉大すぎる~……。んんだよ、何してんの?」
 磯野波平は、幸福そうな顔で向井葉月の頭髪の香りを鼻からいっぱいに吸い込んでいた。
「よすでござるよ波平殿、下品でござる」
 姫野あたるはそう言ってから、右隣りの佐藤楓に笑顔を見せた。
「タイトルは、きっと『大天使、ニューヨークに降臨』でござるよ」
 佐藤楓は引き気味に笑う。「ああ~、え~でもぉ、無くはないよねぇ……」
「でんちゃんは飛鳥ちゃん殿の写真集タイトル、何だと思うでござるか?」
「うぅ~~ん……。潮騒、2とか?」
「草!」
 店内にザ・マロンの『アロー・ブラック』が流れている。
 駅前木葉は山下美月との腕相撲に勝利する。山下美月は笑いながら悲鳴を上げていた。
「本気ですか?」
「ほぉんきだよ~~、あたた、駅前さんつうよぉ~~い!」
 伊藤理々杏はにやける。
「僕たぶん駅前さんより強いよ」
「ええ、理々杏さんには敵わない気がします」
 伊藤理々杏は山下美月に右手を差し出す。
「美月、腕相撲やってみる?」
「やぁめとく~」山下美月は右ひじを押さえながら苦笑した。
 稲見瓶は岩本蓮加と阪口珠美に視線を向ける。
「飛鳥ちゃんの写真集は、タイトルは秋元先生がつけるのかな?」
「えーそうじゃん」岩本蓮加はスナック菓子を口に放り込みながら答えた。「え、いつもそうだよね?」
「うん、たぶん」阪口珠美はその美形をにやけさせる。「タイトルなんだろうね……。『モデル』とかかな?」
「ああ~」岩本蓮加はにやける。「『プロフェッショナル』、とかね?」
 店内は柿色の灯りに満ちていて、所々に設置されているブラックライトの紫外線に照らされて、妖艶に白という白が全てが発光している。クラブソーダ系の入ったカクテルも光を放っていた。
 店内にはオカモトズの『アー・ユー・ハッピー?』が流れている。
 姫野あたるは向井葉月と佐藤楓に悲しそうな顔を向けた。
「飛鳥ちゃん殿の、あの平凡そうなテンションを見ると、よけいに感極まってしまうでござる…うぅ……、二人はどうでござるか、最後の先輩でござるよ」
向井葉月は苦笑のようにはにかんだ。「寂しいよね~、てか、どうなるんだろうって……、飛鳥さんが卒業しちゃったら、乃木坂が変わるわけじゃん?」
佐藤楓は頷いた。「うん、うちらがね、三期が一番先輩になるわけだから……。ちゃんとしないと、ていうか、そんな時代が本当にくるとは……。思いもしなかった」
山下美月はにっこりと微笑む。「甘えたいな~、とは思ってるよ。でも、……できない。んふ、やっぱり飛鳥さんだから、そこは。んもう、偉大過ぎて……」
「偉大だよね~」伊藤理々杏は感慨深く呟いた。「僕たちってさ、飛鳥さんの事、どれぐらい理解できてるんだろうね?」
「私は理解してるよ」山下美月は、カクテルのチェリーを齧りながら微笑んだ。「飛鳥さんっ子だから。てかー? 基本3色パンじゃないけど、映像研で仲良くなってますから」
「でもあの威厳のなかに、ずかずか行ける?」伊藤理々杏はにやける。
「行け~……ない」山下美月は幸せそうに苦笑した。
稲見瓶は煙草の箱をポケットから出そうとして、そこが乃木坂女子の前である事に気づいて、またポケットの底に煙草の箱を押し戻した。
「タイトルがあるなら、中身に物語があるわけだね」稲見瓶は岩本蓮加と阪口珠美を一瞥した。「舞台はニューヨーク……、なら、旅がテーマかな?」
「テーマかあ……」阪口珠美は呟いた。
岩本蓮加は稲見瓶を見る。「テーマがあるにしても、やっぱ先にタイトルじゃない? タイトルないと、テーマとか、どう、出る?」
「出しずらいよね」阪口珠美はにやけて頷いた。
「タイトルはきっと旅や冒険にひっかけたものだよ」稲見瓶は無表情で言う。「例えば、ずばり『ニュー・ヨーク』とかね」
 岩本蓮加と阪口珠美は声を合わせて唸(うな)った。
 店内を飾る音楽がレッド・ホット・チリ・ペッパーズの『ダニー・カリフォルニア』に変わった。
 与田祐希はホワイトチョコでコーティングされた大ぶりの苺を、むしゃりむしゃりと齧っていく。
 風秋夕は与田祐希を見つめて、「与田ちゃん、待て!」と言った。
「ふんぅ?」与田祐希は、咀嚼の速度をゆっくりに変えて、風秋夕を一直線に見つめた。「待て? 待てって? 何?」
 風秋夕ははにかんだ。「いや、苺の食いっぷりが昔イナッチんちで飼ってたジャッキーそっくりだなと思って」
「犬?」与田祐希は小首を傾げた。
「犬犬、ジャッキーは頭良くて、ちゃんと待てができたからさ。噛むのもやめるんだよ」風秋夕は笑う。「与田ちゃんは待ての後もちょっと噛んでたね」