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恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023―

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「きっさまぁ、和ちゃんがカフェラテ飲んでる時に狙ったろ‼‼」
「し~らね」
「クリント、イーストウッドに、似てる?」
稲見瓶は眼を細めたままで、風秋夕を見上げた。
「いや……」風秋夕は首を傾げた。「ハシビロコウ、だと思う」
 井上和はまた、吹き出した。そのまま笑い転げる。周囲には同じく笑っているメンバーがちらほらいた。
「あっちのテーブル、なんか盛り上がってるねえ」冨里奈央は横を向きながら無邪気にはにかんだ。「和ちゃん、爆笑してるよ」
「夕君が怒ってるから、波平君がまた何かやらかしたんだな、たぶん、そうだと思う」池田瑛紗はそちらを短く観察してから、またスマートフォンを弄り始めた。「賑やかなとこだよ、ここは。不夜城だな」
「フヤジョ?」菅原咲月はソファに座りながら、池田瑛紗の顔に眼を見開いた。「なにフヤジョって? ノギ女、みたいなジョ?」
「不夜城」池田瑛紗はにこやかに言った。
「なにフヤジョ―って?」菅原咲月は美形を忘れたようにまぬけに首を前に出した。「フヤジョ?」
 菅原咲月と一緒にこちらのテーブルに移動してきた一ノ瀬美空も、ソファに着席した。
 中西アルノはうっすらと微笑む。
「ふやじょう、不夜城って知らない?」中西アルノは、首を振った菅原咲月を見つめて続きを話す。「夜が無い城、て書くんだけど……。あれ? 不要、のフだ。でえ、夜の城か……。夜は不要の城、まあ、眠らない城、みたいな意味なんだけどね」
「新宿じゃないの?」冨里奈央は可愛らしくはにかんだ。「眠らない街、て言わない? 新宿……。あれ言わないっけ?」
「和ちゃん、なんで飲み物吐いたの?」池田瑛紗は落ち着いた調子で菅原咲月と一ノ瀬美空を見てきいた。「笑わされたの?」
「いや、なんかイナッチが、ハシビ……」
「ハシビロコウ」菅原咲月の代わりに、一ノ瀬美空が言った。「ハシビロコウって鳥に、イナッチが似てるとかって言って、波平君が……。んで笑った、和が」
「ハシビロコウ?」
中西アルノは、すかさずスマートフォンで【ハシビロコウ】を検索する。
「イナッチって、狼じゃない?」菅原咲月は一ノ瀬美空を見て言った。「狼っぽくない?」
「ああ~~」と一ノ瀬美空。
「え、似てる!」中西アルノは、スマートフォンの【ハシビロコウ】をその場の皆に見せていく。「似てなぁい? なんか、眼がそうじゃない?」
「あ~……」と冨里奈央。にやける。「わかる」
「しかも、この鳥ね、あんまり動かないんだって」中西アルノはスマートフォンを手元に戻した。「餌をとる時以外は、ずっとじっとしてるんだって」
「無口ってこと?」冨里奈央は可笑しそうにはにかんだ。「ははあ、イナッチだ」
「え、狼じゃない?」と菅原咲月。「え絶対、狼だって。狼だよ~」
 店内のBGMはメアリー・J・ブライジの『ファミリー・アフェアー』であった。
 向井葉月は井上和の頭を撫でた。
「よしよし、どした和……」
「波平君に笑わされて、カフェラテこぼしちゃって……。葉月さんたちに言いつけようと思って」
 井上和は苦笑しながら、洋服の襟の部分をひっぱった。
「濡れちゃったから……、部屋でパジャマに着替えてから、タクシーで帰ろうかと思って……」
「あ、ここでタクシー呼ぶとタダなの知ってる?」与田祐希は井上和の顔を見て言った。
「はい、知ってます」
井上和は、カウンターつく3人の先輩の前に佇んだままで無垢に頷いた。
「そりゃ知ってるだろ」佐藤楓は短く笑った。「あんたまだタクシーん時エリザベスなんか?」
「うん」与田祐希は箸を咥えて微笑んだ。「エリザベス」
「はあ、変な奴」佐藤楓は呆れて笑う。「和ちゃん、なに、波平にやられたんか?」
「はぁい……」消えそうなか細い声で、井上和は答えた。
「波平‼‼」向井葉月は振り返ったまま、大声で言った。「おい波平ぇ!!」
 磯野波平は、向井葉月達の方を振り返ったが、そこに井上和がいるのと、向井葉月の表情と声色を考慮して、シカトした。
「おい無視すんな!!」向井葉月は驚く。「無視しただろ~今ぁ、もっかいこっち向け!」
 佐藤楓は、井上和を見つめてきく。
「何て言って笑わしてきたの?」
 与田祐希も、食事を一時中断して、もぐもぐしながら後ろの井上和を振り返る。
 井上和は上目遣いで言う。
「イナッチが……、ハシビロコウに、似てる、って……」
「ハシビロコウ?」佐藤楓は眉を顰めた。
「うぷっ……、ぷう!!」
 与田祐希は、咄嗟に口元を押さえていた。

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 乃木坂46公式YouTube・チャンネル・乃木坂配信中『乃木坂46分TV』飛鳥卒コン直前SP!リハ現場から――にて、PM二十一時から約一時間に渡って齋藤飛鳥の卒業コンサート・リハーサルの裏側が生配信されている。
 二千二十三年五月八日(月)――。今宵の〈リリィ・アース〉地下二階のエントランスフロア、その広大な空間の東側に在るラウンジ、通称〈いつもの場所〉には、乃木坂46のOGであり、元1期生で初代キャプテンの桜井玲香、同じく1期生で2代目キャプテンの秋元真夏、同じく1期生の生駒里奈、白石麻衣、松村沙友理、西野七瀬、高山一実、若月佑美、能條愛未。そして元2期生の堀未央奈、新内眞衣、伊藤かりん、伊藤純奈、北野日奈子、渡辺みり愛、佐々木琴子、相良伊織が偶然に遊びに集まっていた。
 フロアには乃木坂46の『人は夢を二度見る』が流れている。
 白石麻衣は特上のトロを小さな口に、大きくほうばった。
「うんん、んんん、んんふう~!!」
 風秋夕はにっこりと楽しそうに笑う。
「まいやんここで見る時いっつも寿司食ってるね、ほんと好きだね~昔っから」
「んんちゅき!」白石麻衣は、そう答えてから、口の中いっぱいにもぐもぐしながら笑った。「ちゅき、とか言っちゃった」
 伊藤かりんは大型ディスプレイを見つめた。
「やっぱ、なんか若いね~、うちらん時よりだ~いぶ低年齢化してる。あの、歳がね?」
 西野七瀬も大型ディスプレイを見つめながら、餃子を咥えて頷いた。
「あふかも、ほふぎょおがね……」
「うん、私はわかったよ、全然わかる」松村沙友理は西野七瀬にはにかんだ。「飛鳥も卒業だね、て言ったんでしょう? んあははん、わかった~ん。まちゅ凄い?」
「凄いねまちゅ~!」白石麻衣はイクラを箸でつまみながら、松村沙友理をあやした。「わかったのう~? あ偉いね~?」
「まちゅな、何でもわかんねん……。乃木坂でな、青春を、共に? してきた仲間のな、みんなのな、いう事なら、なんでもわかんねん」
 悪魔でも配下に下ってしまいそうな、見事なかわい子ぶりっ子で松村沙友理は皆を一瞥した。
「ねえこれ美味しい、これほんと、ねえ誰か食べてみない?」秋元真夏は、本人だけのリリィ・アース特別カスタマイズ式メニューである『納豆餅』を皆に勧める。「ねえほ~んと、食べたら人生観変わるよ。ほ~んと、それぐらいだから」
 磯野波平は満面の笑みで大口を開ける。「ああ~~ん」
 秋元真夏は、「え」と苦笑してから、箸を換えて、磯野波平の牙の生えていそうな大口の中に、小さくした納豆餅を入れた。
「てか、波平君は食べたことあんじゃん……ふふ」
「おうん、うめえうめえ、ん、うんめえ」