恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023―
相良伊織は北野日奈子の手を取って見つめる。
「てかね……。写真集出すの……」
「え!」北野日奈子は眼を見開いた。「誰の?」
「私の……」相良伊織は、上目遣いで可愛らしく言った。「ねえ皆さん……」
「いつ出すの?」高山一実は寿司を咀嚼しながら驚いた表情できいた。「はだかの? そゆんじゃないんでしょ?」
相良伊織は苦笑する。「ちぃがいますよ~……」
「えーいつぅ?」伊藤純奈は渡辺みり愛を膝の上に乗せながら、相良伊織を見た。「もう、すぐ?」
「六月、かな」相良伊織は、照れ笑いを浮かべて、首を傾げる。「ていうか、リークされちゃうと困る情報かも、しれないんだけど……。なんか言っちゃった」
「何も聞いてないことにしよう」稲見瓶はうっすらと笑みを浮かべた。「期待だけは隠せないけどね」
磯野波平は優しく、凛々しく笑う。「がっはっは、俺らん中にそういう危ねえ奴はいねえっからよう、安心いらねえぜ! いおりんよう!」
「安心いらねえだと、伊織ちゃん殿は不安でござるよ? 心配いらねえ、でござろう」姫野あたるはそう言ってから、相良伊織に微笑んだ。「寝る前には見ないようにするでござるゆえ、心配なさるな」
「ん?」相良伊織は小首を傾げる。
「意味の分からない事を言わないように、ダーリン」駅前木葉は咳払いをしてからそう囁いた。「というか、若様は、それは寝ているのでしょうか……。祈っているかしら?」
若月佑美は、指を組んだ拳にひたいを当てて、眼を閉じて黙っていた。
「寝てる寝てる」桜井玲香は笑った。「この人もいっそがしいからね~」
堀未央奈は微妙な苦笑で、磯野波平を見つめている。
「なぁに……、てか波平君、この前BARで会ったよね、ここの、下の……。なんで見て、見てくんな! キモい!」
「ほんとにキモいっつう事を、教えてやろうかああ?」磯野波平は自然とモザイクが発生しそうな表情を浮かべた。手がわしゃわしゃしている。「ええ~? 教えちゃうかあああ?」
伊藤かりんは言う。「やぁめぇなぁさい波平」
伊藤純奈は笑う。「波平ハウス」
北野日奈子は睨む。「やめろ! アホ!」
能條愛未は笑う。「はっはっは~」
渡辺みり愛は微妙に笑う。「え、でも逆に知りたくない? 本当のキモさって……、ふっ」
「波平ハウス!」堀未央奈はつんと立てた指先を遠くに伸ばした。「ダメよ、エッチなことはここでは禁止!」
「未央奈ちゃんがいっちばんエロイぜえぇ?」磯野波平は可笑しそうに笑う。「なんかよう、乃木坂んいたときゃあ、正統派ぁ~、みてえな感じだったけど、今ぁ、いい女ぁ~って感じだもんなあ? なあ夕?」
風秋夕はにこやかに頷いた。「それな。それはだって、でもみんなに言える事だぜ? かずみんはちょい違うんだよなでも……。かずみんのいい女~、はさ、なんかセクシーなのじゃなくて、優しい女性的な感じ? わっかる?」
皆が「わかる」と個性的な返事を返した。
「メガネとか定着したじゃんか?」風秋夕は楽しそうに言う。「それとかも、大きいのかな~イメージ的に~」
エントランスフロアには、場を飾るBGMとして乃木坂46の『ありがちな恋愛』が流れている。
「てか琴子が声優って」堀未央奈は笑った。「びいっくりしたよ~」
「へへへ」佐々木琴子は照れて笑った。「良かったら観て下さい」
「なんか声もアニメ声になった」生駒里奈はエンガワを食べながら言った。「それならさ、あの、さ……。可愛いと思う」
「生駒ちゃん、理想高くない?」能條愛未は可笑しそうに言った。「何かとネットニュースになってるけど、生駒ちゃんの男人に対する理想とか、高すぎて実現し無さそうとか書かれてたけど」
「あんねえ、あたしは……、あの男の子、あんまり、得意じゃなくて」生駒里奈は苦笑した。「どうせお付き合いするんなら、いい人がいいってだけ、それだけなのよ……」
白石麻衣は風秋夕を一瞥してから、生駒里奈を見る。「夕君なんかは、どうなの? 一般的にいう…、お金持ってて、性格良くて、かっこよくて、優しいよ?」
「どこがだっつの……」磯野波平はつまらなそうに吐き捨てた。
「男から見ても夕の恋愛観は謎だしね」稲見瓶はラム・コークをテーブルに戻しながら無表情で言った。「夕の好みの女性なんかは、聞いたことすらない」
皆が風秋夕を集中的に見つめる中、白石麻衣は生駒里奈を見つめた。
「どうなの、生駒ちゃん。夕君……」
「それだったら、ダーリンの方が、緊張しない……」生駒里奈は照れ笑いを浮かべる。「オタク同士だし……。なんか、しゃべりやすいかも、はっは、ごめん夕君」
「公開処刑だよ」風秋夕は苦笑する。
「さああ、今日はみんなあ、宴(うたげ)だあ~~‼‼」磯野波平はソファを立ち上がってテーブルに片脚に乗せた。「すげえいい日になったぜえ~があ~っはっはっ‼‼」
堀未央奈は睨む。「ちょ立たないで波平君! 波平!」
伊藤かりんは磯野波平に布巾を投げた。「こぼすから、ほらす~~わんな!」
白石麻衣は、高山一実を一瞥する。「え、かずみん、夕君とかどうなの? ちょっと、年下だけど……。こんなハンサムな人、あんまりいないよ? しかも、優しくて、ファンで!」
風秋夕は溜息をついた。「かずみんのタイプは全然違うんだよ~」
姫野あたるは、生駒里奈を意識しすぎて、硬直していた。横眼でちらちらと、生駒里奈を観察している。生駒里奈は、無邪気な子供のように真剣に会話を没頭しながら一所懸命に寿司を食べていた。
「私……、あは、もと、背が低くていいかな」高山一実は優しい表情で苦笑した。「こう、キスするのに、顔が近い方が……」
「キャーキスとか言って」堀未央奈は笑う。
「きゃ~」北野日奈子も楽しそうに言った。
「公開処刑2……」風秋夕は苦笑した。
「さああ、パァーーリィーータァーイム‼‼ サンキュウフラれ野郎さみんなあ‼‼ 朝まで吞み明かそうぜぇぇ‼‼」
磯野波平は両手を広げて横柄に豪快な大笑いをした。
エントランスフロアに、乃木坂46の『釣り堀』が流れる。
風秋夕は、きりりと表情を元の美形に戻して、西野七瀬と眼を合わせた。
「なぁちゃんはどうなの……」
「んぅ?」西野七瀬は、苦笑して、小首を傾げる。「タイプかあ? どうか?」
「付き合うとして、俺でいいのか、どうか」風秋夕は超絶美形で西野七瀬をじっと見つめる。ガラス球のような綺麗な瞳が光沢を作っていた。
西野七瀬は、稲見瓶を一瞥する。
稲見瓶は澄ました表情で西野七瀬を見つめていた。
西野七瀬は、小首を傾げながら、苦笑して言う。「なんか……、イナッチィ、の方が、会ってる、かも……」
「公開処刑3,だよ、くそ」風秋夕は首を振ってから手を開いて苦笑した。
「それはそれは」稲見瓶は微笑んだ。「きっと相性はいいよ。嬉しいな」
磯野波平はソファから立ち上がり、片脚をテーブルに乗せて、天を仰いで叫ぶ。
「優勝だあああーーーーーーっっ‼‼ 呑んじゃおうぜぇみんあぁ! 今日はフラれ記念日だああーーっ‼‼ 嬉っしぃーーっ快感ぅ~~っ‼‼」
「てぇぇめえも選ばれてねんだよ‼‼」
秋元真夏は磯野波平に怯えた苦笑を浮かべながらも、風秋夕に微笑んだ。
「私は夕君だな」
作品名:恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023― 作家名:タンポポ