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恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023―

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「え」風秋夕は表情を失った。「ほんと……。まなったん」
「うふ、うん」秋元真夏は怯えながら苦笑して頷いた。「ほんと」
「私チャラいのは」堀未央奈は苦笑して首を振った。「ありえない」
「あ~夕君、みんなに恋してくるもんね」伊藤純奈は笑みを浮かべながら言った。「いい意味で完成形の箱なんだろうけど……。恋愛対象だと……、ああ~、チャラくなるのか~……」
 姫野あたるは生駒里奈をじっと見つめては、視線をそらしている。さすがに生駒里奈に気づかれていた。
「なんだよ、ダーリン……。なんですか、あんたこっちばっか見て……」
 駅前木葉は大型ディスプレイの齋藤飛鳥と乃木坂46を見ている。
 白石麻衣は、カニ味噌を口に含んでから、よく咀嚼し、松村沙友理を見た。
「まちゅ……、漫画とかアニメの王子様、好きそうじゃんか……」
松村沙友理は急激に乙女チックに微笑んだ。「好きぃ~~~」
「じゃあ、夕君が好みなんじゃないの?」白石麻衣は、松村沙友理にほどほどに笑みを浮かべた。「現実にいるなら、こんな感じじゃないのかなあ、まちゅの好きな王子様って」
「公開処刑、その4……」風秋夕は座視で囁く。
 松村沙友理は苦笑した。「ふふ、う~~ん、う~~ん、私ぃ、たくさんの人に好きっていう人はぁ~……」
 磯野波平はソファを立ち上がり、くるりとソファ側に反転して、どすん、どすん、とクッションを正拳突きしていく……。
「あんがとっ、な、神様っ、仏様っ、勝機はっ、俺にありっ、だっ‼‼」
「言っとくけど、付き合うってなるんなら、いや誰かを幸せにしたいってなるんなら、みんなに好き好き言ってる俺じゃないよ?」風秋夕は苦笑する。「ちゃんと、その人だけを見る、よそ見しない彼氏になるよ。それでも、恋愛対象に入れてくれないの?」
「夕も納得いってないみたいだね」稲見瓶は興味深そうに囁いた。「昔から近くにいるからわかるけど、恋愛対象に入らないという経験が無いみたいだからね。まあ、乃木坂は別格の女性の集まりという事でもある、観念すれば?」
「お前ぎり選ばれたからそんなこと言えんだよ……」風秋夕は、おおはしゃぎで何の罪もないクッションに正拳突きを続けている磯野波平を嫌そうに見上げた。「んでお前はいつまでやってんだそれ‼‼」
 能條愛未は、不思議そうに風秋夕を見つめる。
「じゃあさあ、逆に、夕君のタイプはどういう人なの?」
「あ、そうだよ~」白石麻衣は、風秋夕に微笑んだ。その手の箸にはイクラが摘ままれている。「みんな、乃木坂じゃなかったら……、誰が好き?」
「まなったん」風秋夕はとびっきりのウィンクを秋元真夏に飛ばした。「もちろん、君を選ばないわけがない」
「んふ、ありがとう、ふふ」秋元真夏は無垢に笑った。
「でもそれ真夏が夕君いいかもって言ってくれたからでしょう?」白石麻衣は風秋夕に小さく笑った。「そうゆうの、無しで。今の子達も、乃木坂の、今の乃木坂の子達も含めて、全部含めていいから……。誰とかがタイプ?」
 元1期生達は風秋夕に注目する。元2期生達は姫野あたると駅前木葉と違う話題で盛り上がっていた。
 エントランスフロアの広大な空間には、乃木坂46の『他の星から』が流れている。
 風秋夕は、考えた上で、若月佑美を小さく指差した。
 若月佑美は組んだ拳の上にひたいを当てて、何かに祈っているかのような体勢で、器用に寝入っている。
「若月?」白石麻衣ははにかんだ。
「え~~、フラれた~~」秋元真夏は泣きまねをする。
「か、」風秋夕は、西野七瀬を見つめる。「なぁちゃん」
「え」西野七瀬は、引き気味に、苦笑した。「私? どこ? どこが?」
「か、」風秋夕は、松村沙友理を見つめた。「まっちゅん」
 松村沙友理は、急激に乙女チックに顔つきを弱めて、両手の拳であごを隠して風秋夕を上目遣いで見つめた。
「え~~、まちゅ困っちゃ~~う……」
「か、」風秋夕は、生駒里奈を見つめた。「生駒ちゃん」
「嘘だあ」生駒里奈は無表情で、味噌汁の続きを飲む。
「がね、乃木坂に出逢って、最初に好きになった五人なんだ」風秋夕は、くすくすと皆に微笑んだ。「ああ、そこに飛鳥ちゃん入れてね、五人……。その後、乃木坂が今に至るまで、けっきょく全員に一目惚れはしていくんだけど……、最初の最初に一目惚れしたのは、若と生駒ちゃんとなぁちゃんとまっちゅんと飛鳥ちゃん」
「私はあ?」秋元真夏は驚いたように言う。「私がいないよう?」
「まなったん、そん時いなかったよ」風秋夕は苦笑する。
「私はあ?」白石麻衣がふざけて言った。「ばりっばりいたんですけど」
「私も……」桜井玲香もはにかんだ。「若月がいて、え、私がいないの……。なんか納得いかない、はは」
 稲見瓶は、生駒里奈の囁いた「あああ~、うんめいな~、味噌汁~」に微笑みながら、風秋夕を一瞥した。
「それはね、夕。初恋というんだよ……」
「今はちげえんだろ?」磯野波平は、ふてくされたように風秋夕を一瞥して、ソファにふんぞり返った。「だいたいわかっけどよ、てめえの言うこたぁ」
「え、今は? 誰なの?」白石麻衣は興味深そうにそう囁き、夢中でカニ味噌をスプーンですくっている。「誰を選ぶって?」
 風秋夕は、大型ディスプレイを見つめて、くしゃと微笑んだ。
「飛鳥ちゃんしか見えねえ」

       12

 二千二十三年五月十五日(月)――。齋藤飛鳥写真集『ミュージアム』の発売を記念したソロSHOWROOM配信がPM二十一時から行われた。まさに、最後の齋藤飛鳥卒業コンサート直前ラスト生配信である。
 〈リリィ・アース〉の地下八階の〈BARノギー〉では、元乃木坂46一期生の西野七瀬と、元2期生の伊藤かりん、元1期生の樋口日奈と和田まあや、元3期生の大園桃子と、乃木坂46現役3期生の与田祐希、4期生の遠藤さくらと賀喜遥香によって、齋藤飛鳥のLIVE直前ラストSHOWROOM鑑賞会が開かれていた。
 テーブル席の斜め上方に設置された大型ディスプレイに、齋藤飛鳥が映っている。
 西野七瀬は微笑む。
「でも、自分もこういう……、なんだろ、…こういう、卒業の時、経験したんだな、て思うと……、あんまり、その時のこと憶えてない」
「あーね、そんなもんかもよ」伊藤かりんは相槌を打った。「飛鳥ちゃんは今、というか、最後まで勢いがあるね~、やっぱちゃんと乃木坂としての自分の最後だから、ちゃんとやってしめくくるっていうけじめを感じるね」
 稲見瓶は大型ディスプレイから、伊藤かりん、西野七瀬へと、視線を移して言う。
「最後まで、なんとかして、全員がカメラに映るようにと、飛鳥ちゃんはスタッフさんに相談してるみたいだった。後世の乃木坂の事もしっかり考えてる。さすがというか、いやはや」
 伊藤かりんは微笑んだ。
「そういう子よ、飛鳥ちゃんは」
 西野七瀬は真剣な面持ちで頷く。
「うん……、凄い、なと、思う」
 稲見瓶は和紅茶を握りしめて、微笑んだ。
「さあ、なぁちゃんと石井杏奈さんのCMしてる和紅茶を飲もう」
 西野七瀬は笑窪を作ってはにかんだ。
「和紅茶ね」和紅茶のペットボトルを掴む。「でも、ほんと美味しいの。香が立つ、ていうのかな」