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恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023―

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 風秋夕の微笑むその頬に、ひとすじの涙が伝った――。
「大好きだよ、飛鳥ちゃん………。卒業…、おめでとぉ……」


 ありがとうございました――。キャプテン・梅澤美波が、本日は本当に、ありがとうございました――と乃木坂46を従え、伝統である深い一礼をみせた。
 ありがとうございましたと手を振る齋藤飛鳥は、笑顔と共に、そのステージから消えていった。

 すぐに会場のオーディエンスから歓声が上がっていた――。
 暗転し、ステージは紫の気高き色に染まっている。
 会場のサイリュウムは水色。

 VTRが始まった――。ナレーションが語る。2022年12月31日の映像であった。
 映像の中の齋藤飛鳥は、まだ終わりじゃないかなと語っている。まだ卒業ライブが残されているからと。
 2022年10月に、メンバー達に自身の卒業を発表する齋藤飛鳥と乃木坂46の場面が映し出された。
 31stシングル『ここにはないもの』の撮影現場――。映像の齋藤飛鳥は語る。さらっといなくなるのがいいなと語っている。
 グループを創り上げた、最後の1人。
 数々の齋藤飛鳥が映し出される。
 齋藤飛鳥。
 あしゅ。
 あすぴー。
 飛鳥ちゃん。
 飛鳥さん。
 飛鳥。
 11年呼び続けたその名前、最後に、後少しだけ……。

 純白のロングドレスを着飾り、連なり煌めくジュエルを身につけた齋藤飛鳥が、ステージ上に再登場した――。

『皆さん今日は、ありがとうございます。えー……』拍手喝采が上がる。『今日で、卒業します。えー私は、昨日、今日と、すごくほんとに、心から楽しい幸せなライブを創ることができました。でも、私がたぶんうイブとか乃木坂の活動を心から余裕をもって楽しめたのは、たぶんちょっとおそかったんじゃないかなと思います。今日は後輩達もモニターを見ていてくれていると思うので、昔の話も未来の話もしたいんですが、私は、ちょっと回りくどい生き方をしてきたなと…過去を振り返ると思います』

『色んなキャラクターとか、変装したし、メンバーやスタッフさんに頼ったり、天江らりするのもなかなかやり方がわからず、でも、なのに今こうやって、穏やかに、楽しく、生きれているのは、きっと、乃木坂のみんなだったり、そこに関わる皆さんが、周りの人すごく大事にしているからだなと、思います。恩返しって言葉が、あると思うんですけど、私はもっと、好きな言葉がありまして。『恩おくり』っていう言葉が、その言葉を知ってから、この卒コンもそうだし、メンバーにたいしてとかスタッフさんに対しても、なんとなくこう、気持ち整理ができたような、気がしていて』

『恩を返すだけではなくって、どんどんどんどん、おくっていく…、そうやって連鎖していくって凄く素敵な事だと思うし、まあそれって私たちも歌で歌ってるなあって思って。その言葉を、今は凄く、大切にして、生きています』

『私は、もう今日が終わったら、皆さんとはお別れするし、まあきっと過去の人になるんですけど、でも、もし、此処にいる皆さんとかぁ、画面越しに見てくれてる、方とかが? 私を見たり、乃木坂を見て、少しでもなんか楽しいなとか明るい気持ちになったなあとか、思ってもらえたんだったら、それを、恩とは言いませんけど、やっぱり、これからは、みんなに? 後輩のみんなに、渡していってほしいなと思っています』

『私はあんまり、人とも、深く関わらなかったり、んん内緒ですけど学校も、あんまり行ってなかったので……、乃木坂で一緒に過ごした、一期生のみんなはやっぱり、同期として、凄く心が通ったなって思えた瞬間が在ったり、でも今はやっぱり、乃木坂を守ってくれてる、後輩の子達が、凄く大切です……。すごくきれいごとですけど、私がこの先卒業して、何かに追われる事とか、何かで頭がいっぱいになることが少し無くなるとしたら、その分の、穏やかな日常とか、優しい気持ちを、後輩のみんなに味わってほしいなって、思ってます……』

 涙を浮かべる齋藤飛鳥の沈黙が続き――。歓声が起こる……。
 それはみるみるうちに、大歓声に――。

『でもここまで、こうやって、たくさん声を出したりしたりして支えて下さった皆さんなので、信頼してます――。絶対に、これから。乃木坂46のみんなのことを、守って、見守って、上げてほしいなと思っています』

 涙をふく齋藤飛鳥に、また歓声が起こる――。

『えーもう一期生がいない、乃木坂46に、明日からなりますが、これからの乃木坂46を、どうか、よろしくお願いします――』

 齋藤飛鳥は、ゆっくりとした、深い一礼をみせた。
 拍手喝采――。

『えーそれでは、次はちょっと歌わせていただくんですが、えーもちろん、支えてくれた皆さん、スタッフさん、みんなに向けて歌うんですが、やっぱり、誰よりも支えてくれた、お母さんのことも思い浮かべながら、歌おうかなと思います』

 拍手が湧き起こる……。
 大大大歓声が湧き上がる……。

 『硬い殻のように抱きしめたい』がメロディを奏で始めた……。無数の羽根が天へと舞い上がり、集まり合って。それは今後、乃木坂46から巣立つ齋藤飛鳥の羽根になるだろう……。

 駅前木葉は、声を出して嗚咽(おえつ)を上げながら、深く頭を下げた。


 楽しすぎました。怖いぐらいに。
 素晴らしかった。うち震えるほどに。
 眩しかった。輝くその笑顔が。
 がんばれと、そう聴こえました。あなたの笑い声が。
 夢を叶える大切さを学びました。あなたのダンスを見ていて。
 愛を知りました。あなたの歌を聴いて。
 大好きなの。
 ええ、そう。
 飛鳥ちゃん、あなたが大好き――。

 駅前木葉は子供のように、素直に声に出して、惨めに泣いた。

 気持ちは今、ぐちゃぐちゃです。
(嫌だ嫌だ嫌だ、まだ行かないで!!)
 あなたの卒業を称えた気持ち。
(まだまだ乃木坂には飛鳥ちゃんが必要なの!!)
 あなたの卒業を悔やむ気持ち。
(飛鳥ちゃんがいなくなったら、私、どうしたら!!)
 それは交じり合って、とても素敵な輝きを放つ虹の結晶体のように、七色なんです。
(こんな私だけど、ファンになれて、誇りに思います)
 これからも辛い道のりは続くでしょう。けれど、決して立ち止まることはしない。なぜなら、私はあなたのファンだから。
(私は、齋藤飛鳥の大ファンだから)
 あなたに相応しいファンに、きっとなる。
 きっとなれるはず。
 私はそう信じて、このあなた方のファンという栄光の路を歩き続けます。
 どうか、この先のあなたの光ある未来に、微笑みが絶えませんように。

 駅前木葉は、小さな拍手をした。弱者の泣きっつらに、強者の笑みを浮かべながら。
「飛鳥ちゃん……、だぁぁい、好きですよ……」


 『僕だけの光』が始まる――。次々にステージに舞い戻るメンバー達。齋藤飛鳥は号泣する黒見明香を優しく抱きしめていた。
 四葉のクローバーをくわえた幸せを呼ぶ青い鳥ルリビタキのフロートカーに乗り込み、オーディエンスを煽る齋藤飛鳥。いっぱいに、手を振る――。

 『ロマンスのスタート』が始まる――。ルリビタキのフロートカーでオーディエンスに笑顔で手を振るメンバー達。