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恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023―

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『おいでシャンプー』が始まる――。ルリビタキのフロートカーで笑顔でコール&レスポンスするメンバー達。ステージに舞い戻る天使達……。
齋藤飛鳥は、眼を瞑って「みんなぁ、ありがとう~‼‼」と叫んだ――。
齋藤飛鳥の卒業コンサート・グッズでもある黒のロングTシャツに、紺色のスカート姿のメンバー達にまざって、煌めく純白のロングドレスに身を包む齋藤飛鳥。サファイヤよりも、ダイヤモンドよりも、世界中から集めた山のような宝石よりも、今宵の齋藤飛鳥は輝いていた。

 稲見瓶は笑顔で、齋藤飛鳥を見つめる。


 記念写真を撮ろう。頭の中で、君と一緒に、手を繋いで。
 忘れぬように、メモしておこう。
 君を愛していることを。

 稲見瓶の微笑むその瞼から、涙は溢れて止まらない。

 抱きしめて、キスをしよう。
 旅行に行こう。何処の国がいい?
 夕食は俺が作ろう。カレーライスには自信があるんだ。
 遊園地に行って、思い切りはしゃごう。子供にかえって。
 デートに出掛けて、腹から笑えるミュージカルを観よう。
 映画を観に行こう、最高に感動するやつがいい。
 生涯、君を好きでいよう。
 だから、ひと時も離さない。
 それでも、いいかな。
 それで、いいよね。
 一生、大好きです、飛鳥ちゃん。
 全部、君には言えないことで、言わないことだけど。全部、俺の中では一度や二度じゃなく、何度も何度も繰り返し思い浮かべた時間です。
 この先、ずっと続いていく未来を見つめるように、毎日空を見上げよう。
 その無限に繋がる広い空に、一羽の飛ぶ鳥を思い浮かべて――。

 稲見瓶は満面の笑みを浮かべる。鼻水が伝いそうだったので、素早くそれを手の甲でぬぐい取った。
ふいに伝い落ちた涙が、少しかゆかった。


 パフォーマンスが終わると、遠藤さくらと与田祐希から、齋藤飛鳥にメッセージがあるとキャプテンの梅澤美波が告げた。

 齋藤飛鳥は、遠藤さくらを見つめる。
 遠藤さくらは、笑顔で、話し始める。

『えー私はぁ、飛鳥さん……』

そう呟いた後、遠藤さくらは込み上げてきた何期だを必死にこらえる。
 声援が送られる――。

『飛鳥さん、がぁ……、ん~……、うん……。なんにもできない私に、こう、色んな事を教えてくれて、背中を見せて下って、ほんとにぃ、たくさんのものを、もたっらぁのに、全部返したいっていう気持ちでいっぱいなのにぃ、全然、今日までに、間に合わなかったです』

 沈黙が流れる中、齋藤飛鳥は瞼にいっぱいの涙を浮かべ、黙って後輩の遠藤さくらの姿を見つめていた。

『ちょっとこれから、いただいたものを、沢山返していくのには、こんな私だから自信は無いし、追いかけてきた背中が、あんまりにも大きすぎて、追いつけない、かなぁ、て…、思ってるんですけどぉ、んでもっ……』

 齋藤飛鳥は、黙ったまま、一所懸命に言葉を紡ぐ後輩の姿を見つめている。

『ちゃんと飛鳥さんから、いただいたもの、忘れないように、一生懸命かかえて、これからも、ここで、一生懸命ふんばってがんばるので、いつか、飛鳥さんが、言ってくれた、自分で、自分を認めてあげられるようになったら、また…、会いに行きます。お世話になりました……――。ご卒業おめでとうございます』

 大きな大きな拍手が湧き起こる――。

『ありがとう』齋藤飛鳥は、遠藤さくらを優しく見つめながら、微笑んだ。

 齋藤飛鳥は、遠藤さくらに歩み寄り、泣いている遠藤さくらを絆(ほだ)すと、抱きつきたいがどうしていいかわからず、どうしても遠慮してしまう遠藤さくらを、強く抱きしめた。
 遠藤さくらも、強く抱きしめ返す。
 耳元で、齋藤飛鳥は遠藤さくらと何やらを呟いていた。『偉い偉い』と、先輩が後輩を鼓舞するように聴こえた。

 続いて、すでに涙に濡れている与田祐希の順番が訪れた。
 与田祐希は、声を上ずらせながら、なんとか想いを伝えようと精一杯で話し始める。

『飛鳥さん……』

 そう言った与田祐希はすでに泣いていた。

『あの……、飛鳥さんは、私には、多めの、ツンデレだったけど、でもなんか、思い返すと、すごいあったかい、優しい思い出が、たくさんなんか出てきて。ライブの、ジコチューで行こうのだるまさん、楽しかったなあ、とか、いつも、私の、健康状態を確認してくれたり……』

 言葉に詰まる与田祐希は、高ぶる気持ちを圧し留めるようにして、『大丈夫です』と言葉を続ける。

『私が、乃木坂に加入したての頃、まだ先輩と話すのも緊張してた時に、ライブで急に首をしめてくれて、それでなんかすごく嬉しかったこととか、私、そんな、普段泣かないけど、飛鳥さん、の前だと…、うざいくらい、いっぱい泣いてきて…、いつもそれを、笑いながら、なだめて、なだめてじゃないか、慰めてくれたりとか……、ほんとは飛鳥さんが、一番重い物をせおってて、大変な事もたくさんあるはずなのに、私達のことを、いつも気にかけてくれて……。……抱きしめてくれて、そんな飛鳥さんの、さりげない優しさに、救われた後輩は、私を含め、たくさんいると思います……』

 ついに、溢れる涙と想いと、言葉ぬ詰まる与田祐希……。
 泣きべそを隠すように、客席に背を向けた与田祐希に、思いを察し、心配するオーディエンスから次々と大きな歓声が上がる――。
 齋藤飛鳥は『いいよ、ゆっくりで……』と与田祐希の頭を撫でた。
 ごめんなさい――と、なかなか涙が止まらない与田祐希。

『はい、大丈夫……。んん、…もダメかもしれない……』と、顔を隠して泣き始める与田祐希に、齋藤飛鳥は、笑顔で『どうしたん?』と、優しく抱きかかえるようにして、与田祐希に触れていた。

『よしよしよし、よしよし』

『こんな、はずじゃなかった……。さっきお手紙もらってさっき読んじゃったからぁ……』

与田祐希は子供のように無力に泣き崩れる。
 しかし、与田祐希は後輩として、どうしても伝えたい思いが勝たせ、再度、齋藤飛鳥と向き合った。

『飛鳥さん……。いつも、助けてもらってばっかりで……、私なんにも変えなくて、最後まで頼れる後輩になれなくて、っ……ほんとにごめんなさい』

『私は、でも、飛鳥さんのことがほんとに、大好きで……』

 黙ってその与田祐希の言葉を受け止める齋藤飛鳥は、指先で涙をぬぐった。

『尊敬してます……。……これからもずっと大好きです。飛鳥さん、ご卒業おめでとうございます――』

 盛大な拍手の嵐――。

 齋藤飛鳥は、笑顔で『ありがとう』――と、笑った。

 皆を代表して、キャプテンの梅澤美波が言葉を贈る。

「何にやにやしてんの?」という齋藤飛鳥の指摘に、「えへへ」と笑った梅澤美波は、齋藤飛鳥を抱きしめた。涙を浮かべながら、齋藤飛鳥を尊敬している幾つもの理由を挙げていく……。
 泣きながら抱きしめ合う齋藤飛鳥と梅澤美波……。

 最後の曲を紹介する――。全力で、楽しもうと――。

 『ジコチューで行こう!』が始まった――。齋藤飛鳥にひっついていく乃木坂46のメンバー達。涙を浮かべる者。笑顔で齋藤飛鳥を見つめる者。