恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023―
二代目キャプテン秋元真夏のMCでトークが始まる。穏やかな話口調で、コールありきの懐かしいライブ感覚を振り返った。
乃木坂46の11回目の誕生日を祝って、ハッピー・バースデイが乃木坂46とオーディエンスが一体となって歌った。
先日、卒業を発表した鈴木絢音が挨拶をする。セカンド・バースデイ・ライブから参加している旨(むね)や、2期生として、先輩として、背中を見せていきたいと語った。
副キャプテンの梅澤美波は笑顔で語る。その話題はやはり、久々のライブにおいてのオーディエンスのコールについてであった。ここが乃木坂46のターニング・ポイントになるのかと――。
ナレーションがVTRで二千二十二年を振り返る。乃木坂46が八人の成人を迎えた事。46時間TVがあった事。発売したCDは三枚。5期生の加入を、乃木坂の未来だと、ナレーションはそう例えた。
5期生の登場である――。
『絶望の一秒前』が井上和のセンターで開始される――。楽曲中、女神のように、眼を瞑(つぶ)り、深呼吸を終えた井上和は、楽曲の終焉(しゅうえん)と共に、ゆっくりと、その美しい顔に笑みを灯(とも)した。
中西アルノがマイクを握る。涙を浮かべながら、彼女は語る。
『1年前の今日、私は29枚目シングルの、センターとして、紹介させて頂きました。その中から今日までのⅠ年間、私にはこの歌を伝える権利はないと思っていたし、今でもそれを完全に払拭しているとは、思っていません。それでも、私はこの曲が好きで、この曲を通して出逢えた人たちが、大好きです……。今日は、その事が、少しでも、皆さんに伝わりますように』
声を詰まらせながらも、彼女は囁く。
聴いて下さい……。
『アクチュアリー』が中西アルノのセンターで歌われる――。ステージに幾つもの炎が立ち上がる。強烈な咆哮(ほうこう)を上げる中西アルノ――。吹き上げる炎の中、情熱と静寂の中で楽曲は終了した。
『届かなくたって』が佐藤楓と金川紗耶のWセンターで歌われる――。オーディエンスのサイリュウムが赤一色に染まる……。赤いライティングの中、白いスポットライトが蠢(うごめ)く。熱いオーディエンスのコールが木霊した。
ナレーションはVTRで語る。かつて最大規模のバースデイ・ライブがあった事を――。収容人数七万人、日産スタジアム――。長時間のリハーサル。天候は雨。初めて先輩と同じライブを体験したのは、5期生――。
その広さに勝つ為には、走り続けるしかなかった……。
あの、一体感――。
あの、高揚感――。
伝説となるだろう、あのライブは、この曲で始まった――。
『ぐるぐるカーテン』が秋元真夏のセンターで始まる――。この、今も尚、生産し続けられる伝説の、根源的な要素であり、原点の楽曲――。
キャプテンの秋元真夏が代表して、ここまで成長した乃木坂46を、見守ってくれた多くのファンへと、ありがとうございましたの言葉を贈った。
賀喜遥香は次の楽曲を語る……。あの夏を経て、乃木坂46をもっともっと好きになりました。
皆さん、タオル持つ準備はできてますか――。
『好きというのはロックだぜ!』が賀喜遥香のセンターで開始された――。会場のオーディエンスはタオルをぐるぐると振り回す。
賀喜遥香は叫ぶ――。『全員回せ~~っ‼‼』ビニール製の海洋哺乳類が会場の空中を悠々と泳ぎ回っていた。
「この、きょく、んまぁじで、上がる‼‼」風秋夕はやんちゃな子供のようにタオルを振り回した。
「かあっきいぃぃぃーーーーー‼‼‼」磯野波平は全力でねじれきったタオルを強引に振り回す。「おうりゃああああーー‼‼」
「なみ、なみへ、……顔に、……ふう」稲見瓶は、大興奮中の磯野波平が顔面にタオルをぶつけてくるので、一度着席した。座りながら、タオルを回し始める。「いいね、座ってても熱い」
「かっきぃぃ――――っ‼‼‼」姫野あたるは魂を燃やす。「くああっきいいぃぃぃーーっ‼‼‼」
「かっきーー‼‼」来栖栗鼠は楽しそうにタオルを回す。
「かっきーーーっ‼‼」天野川雅樂は力いっぱいにタオルを振り回した。
「もう立派なエースの1人、ですね」駅前木葉は微笑んだ。「かっきーは、凄いんです。ふふ」
「メンタル的にも好きよ、かっきー」宮間兎亜はタオルを振り回す。
「笑顔が溜まりませんの、煽りも好き!!」御輿咲希はタオルを回しながら跳び上がっていた。
「………」比鐘蒼空は、必死に夢中でタオルを振り回していた。
『好きになってみた』が山下美月のセンターで始まる――。好きになっていた。気づかないうちに。それが本当の恋だと思う――。その歌詞の通り、彼女達に魅了された者の心には必ず響くだろう。
『パッションフルーツの食べ方』が与田祐希と梅澤美波と久保史緒里と遠藤さくらの四人ユニットで開始する――。不思議な世界観にぐっと惹き込まれるオーディエンスと配信を見守る全国のファン達……。色香に満ち満ちている歌姫達は、妖艶であり、そして熟れた果実のようであり、洗い立てのシャツのようでもあった。
『アンダーズラブ』が伊藤理々杏と松尾美佑のWセンターで始まった――。赤い空間に愛の歌が響き渡る――。
ナレーションは語る。山下美月のインタビューでは、彼女は『あの、齋藤飛鳥さんがいなくなっちゃうんだな』と、しみじみとその歴史の節目を情的に語った。次の楽曲について、それは変化球であり、飛び道具のようでもあると語る。
与田祐希は、梅と与田がいる楽曲は癖が強いと言われると語った。
山下美月は語る。カップリングは自由であると――。
ライブ終わったら銭湯行って欲しいです。By山下美月
『銭湯ラプソディー』が銭湯ガールズによって、山下美月のセンターで歌われる――。レッドが山下美月で、イエローが与田祐希、グリーンが梅澤美波、オレンジが田村真佑、水色が金川紗耶である。バックスクリーンの銭湯の背景に浮き上がるシャボン玉。舞い落ちる紙吹雪。ふりふりする腰つき。それは世界中の胸が高鳴る楽曲であった。
『甘いエビデンス』が久保史緒里のセンターで歌われる――。久保史緒里、伊藤理々杏、中村麗乃、林瑠奈、柴田柚菜の五人でこの楽曲を歌う。間奏中にシルエットだけになるダンスが魅力的で、まるで甘いエビデンスだった。
時計の針を人影が模写して、チクタクと時を刻む。
時計の演出を受け継ぎ、『悪い成分』が中村麗乃のセンターで開始する――。時を刻み続ける巨大な時計の前で、一秒一秒を刻み込むように踊り狂う歌姫達……。
遠藤さくらは涙ながらに語る――。
『2022年12月31日、乃木坂46の1つの時が止まりました。その存在はグループにとってもとても大きく、何にも代えがたい唯一無二のものでした。悲しい気持ちも、つらい気持ちも、不安な気持ちも、乗り越えようとしています。私達は前を向く為、乃木坂46は前を向く為、みんなで、時を動かそうとしています。今日だけの特別な映像と一緒に、披露させて下さい』――。
それでは聴いて下さい……。
作品名:恩送り 飛ぶ鳥・飛鳥―2011~2023― 作家名:タンポポ