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確かなもの

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 胸が、ぐちゃぐちゃと、
 気持ち悪い……。

「その感じだと、たぶんちょうど悩んでたぐらいの時期だったかな……。ごめんね、柚飼くん無しじゃ、私の人生に意味なんて無いの」
「………」
「これ以上、彼を好きにならないで。これ以上彼をふりまわさないで」
「………」
「あなたぐらいの人なら…、男の人に困ることはないでしょう?」

 飛鳥は、鈴木碧を強く睨んだ。
 鈴木碧は、弱い視線で飛鳥の事を見つめている。

「汚い言葉使わないで……。私にだって、男を選ぶ権利ぐらいあるんだから。誰を選ぶかなんて、あなたにとやかく言われたくない」
「やっぱりなぁ……」
「?」

 鈴木碧ははにかんで、寂しそうに呟く。

「もう、好きになってるじゃん……。じゃあ、なんで付き合わないの? もう、付き合ってる彼がいるからなんでしょう?」
「………」
「否定しないんですね」
「………」
「柚飼くんに、話しますから……。あなたには、彼に愛される資格がない」
「……、勝手言って」
「私が、彼を幸せにする――。この人生をかけて――。あなたに、その覚悟はありますか?」
「………」

 飛鳥は、心に、一瞬の走馬灯を蘇らせる……。


 魔法使える? 私なんかに、命をかけられる?
 できやしないでしょ……、誰にもできないの、そんな事なんて……。
 だから私は、そういう人を好きになったの……。


 飛鳥は、俯(うつむ)いた。
「わかりました……」
「ありがとう、齋藤さん」
「……じゃあ、帰りますね」
「待って」
 飛鳥は振り返る。鈴木碧の眼を見つめずに、そのまま言葉を待った。
「……」
 鈴木碧は、真剣な視線で、飛鳥を見つめていた。
「柚飼くんと……、もう連絡取らないで」
 飛鳥は、一瞬だけ眼を閉じる。
「わかったよ……」
 鈴木碧は、真剣に飛鳥の顔を見つめたままだった。
「ありがとう……」
「はい、じゃあね、バイバイ」
「さようなら」

       6

 一月も正月のスペシャル・ウィークを抜け、街に活気が戻り東京が活発化してきた頃、ドラマ撮影も再開され、柚飼一哉は主演俳優として多忙な日々を迎えていた。
 台本を読み込んでいる柚飼一哉に、制作部の神谷譲二は、四十代のナイスミドルな渋い笑みをきかせて、鼻を鳴らした。
「いっつも無口な奴だけど、今日は一段と無口じゃないですか、一哉くん。元気ないね、どうした?」
「うん」柚飼一哉は、台本から、ゆっくりとその無表情を神谷譲二へと向けた。「好きな人と、連絡がつかない」
「え、ちょとちょっと、」神谷譲二は慌てて柚飼一哉の無表情の口元を押さえる仕草を取った。「好きな人って……、この時代のメインはってるような奴が、…いっくらなんでも、そんなこと人前でべらべら言うもんじゃない!」
「連絡がつかないんです」柚飼一哉は無表情で、また台本に視線を落とした。「頭ん中、そればっかで……。台本入んなくて……」
「何よ、二人して」
 アシスタントプロデューサーの佐島優実が同じく四十代の熟した魅力たっぷりの笑みを浮かべて、柚飼一哉に言った。
 スタジオでは、一時休憩とまではいかないが、セットの配置と演出に拘りをみせる監督と、プロデューサーの片霧敦也が熱い口論を繰り広げている為、一時的に撮影は中断されていた。
 柚飼一哉は佐島優実を見つめる。
「好きな人と連絡がつかなくて」
「おおっとう!」神谷譲二は慌てて、柚飼一哉の肩を掴んだ。「だからぁ、はっきり言い過ぎだってえ、君ぃ……。報道されちゃうよぉ?」
「え、何々、好きな人ってえ?」佐島優実は興味深そうに、ほうれい線を笑わせた。「柚飼くんって、碧ちゃんとできてんじゃないの? 違うの? 見ててそう思っただけなんだけど」
「……」柚飼一哉は、また台本を見る。「違いますけど」
「そのう、好きな人と連絡がつかなくって…、どうやら落ち込んでるみたいですよ」神谷譲二は佐島優実に 片眉を持ち上げて説明した。「相手は誰なの? てえ、俺もきいちゃってるけどさあ」
「セリフが頭に入らないくらい、気になるって……。その子と、付き合ってるの?」佐島優実は真剣な面持ちできいた。
 柚飼一哉は台本を見つめたままで答える。
「……片想い」
「はあ、よかった」佐島優実は、ほっと溜息をついた。「何が良かったのかわっかんないけどさ、一応、国民の全柚飼ファンの代わりに、リアクションとっちゃったわよ」
「友達ぃ?」神谷譲二は面白がってきく。「どんな子? 年上? 年下?」
「一個下の、デザイナー」
「おおっと、詳しくは言いなさんな、こんな現場で……」
「スクープだね」佐島優実はにこっと笑った。「どんな子だろうねぇ~、柚飼一哉が片想いしちゃう女の子って……。それ、面白いかもな……。ねね、柚飼くんさ、その子、今度紹介してくんない?」
 柚飼一哉はぶっちゃうずらで佐島優実を睨んだ。
 佐島優実はおばさんチックに苦笑する。
「ダミか……」
「なぁ~んの話ですか、ユニークな者同士が集まり合っちゃってえ~」
 突然の鈴木碧の登場に、神谷譲二と佐島優実は、咄嗟に言葉をしまった。
 柚飼一哉は、鈴木碧を見ないようにして、台本を読んでいた。
「いやあさあ……、一哉くんが元気ないんだってさ」神谷譲二は作り笑いで鈴木碧に言った。「碧ちゃん、元気づけてやってよ」
 鈴木碧は「ふう~ん……」と、柚飼一哉を見つめた。
「碧ちゃんは、今日も元気いっぱいだね」佐島優実は鈴木碧に微笑む。「次、碧ちゃんのシーンだけど、セリフ確認しなくて大丈夫?」
「大丈夫です。もう覚えてるんで」鈴木碧は、意味深に柚飼一哉を見つめる。「柚飼くんが相手役だと、すぐにセリフ、自分のものになっちゃうの………。あは、柚飼くんが上手だからですね~」
「鈴木、俺のスマホ見た?」柚飼一哉は、台本から顔を上げて、鈴木碧を見つめた。
「なんでえ?」鈴木碧は、すんと微笑む。「どうしてそんなこと聞くの?」
「なんかした?」
 柚飼一哉は鈴木碧をまっすぐに見つめる。鈴木碧は、すんとした笑みのままで、眼を逸らした。
 神谷譲二と佐島優実は、走り出した独特の緊張感にたじたじとする。
「したら、なんなの?」
「お前!」
 大きく響いた柚飼一哉のその声だったが、運良く周囲には伝わらず、スタジオの喧騒に掻き消されていた。
 神谷譲二はたじろぐ。「ま、まあまあ、一哉くん、ここドラマ撮影の現場だからさ、私情は、今は、ね……。はさまずに、演技に集中して、さ……。ラブラブな二人のシーンなんだから」
「そぉうだよ、ね。ほら、仲直り」佐島優実は、神谷譲二の眼を見て、また二人の若手俳優を笑顔で交互に一瞥する。「何があったか知らないけど……、ここは1つ、よろしくね」
「飛鳥に何した」
 柚飼一哉は真剣な眼差しで、微笑む事をやめた鈴木碧を見つめた。
 鈴木碧は、眼を逸らして言う。
「あの人……、柚飼くんのこと、好きじゃないってさ」
「何をした!」柚飼一哉は叫んだ。
「待った待った一哉くん!」
「柚飼くん、落ち着いて」佐島優実は、こちらに気づいた何人かに苦笑する。「なんでもないの~、お仕事続けててね~。演技について話し合ってるだけだから〜!」
作品名:確かなもの 作家名:タンポポ