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確かなもの

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「こんな、ねめでたい、日なんだから。ご飯。てか焼肉……。行きません?」
「焼肉……」飛鳥は考えながら苦笑する。「お前いっつも焼肉だなあ」
「そうお? ですかね」与田祐希は上目遣いで小首を傾げてから、微笑む。「まご飯ならなんでもいいですよ」
「スウィート行く?」秋元真夏はてきぱきと洋服を畳み直しながら飛鳥を見た。「スウィートにも、一応焼肉、てか、お肉料理はいっぱいあるけどね」
 ショップ店員の山下美月が、レジのしめを終えて、飛鳥の元に笑顔でやって来た。
「飛鳥さん、デビューですか、うっわ、また別の次元の人になっちゃった……、あ」山下美月は、笑窪を作って上品に微笑んだ。「まずは、〈飛鳥〉立ち上げ、おめでとうございます。ご飯おごって下さい」
「なんなの、あんたらは……」
 飛鳥は苦笑した。
 秋元真夏は店内を確認し終えてから、三人の元に歩み寄って、微笑んだ。
「スウィートだね、いつもんとこ行こ」

 ダイニング・BAR〈スウィート〉にて、営業部の賀喜遥香を交えたショップ勤務の秋元真夏と、与田祐希と、山下美月と、本日の主役である齋藤飛鳥での、小さな祝賀会が始まったのは、日が沈んでから数時間後のPM21時46分頃であった。
 秋元真夏はマグロのタルタルを口に入れてから、飛鳥に驚いたように眼を見開いてみせた。
「あのっさあ……、ニューヨーク支店の、なに、なんだっけ名前、あきづき君? 〈飛鳥〉の正式スタッフなんでしょう? ズームで本社の梅とやりとりしてるのちょっと覗いたけど、超イケメンじゃない? あの子」
「ああ、秋月君」飛鳥はふわっと、笑顔になる。「懐かしい、そんな前じゃないのにな……。もう1人、〈飛鳥〉専属スタッフに双葉ちゃんって私とタメの子がいるんだけど、秋月君はその子と付き合ってるよ。残念、真夏」
「え、秋月君、いくつ?」秋元真夏はきいた。
「私とタメ。二十四」
 飛鳥はロブスターボロネーズを攻略していく。フレッシュカペリーニ、バジル、ブラウンバタートリュフの三種の香りが絶品であった。
 この日、齋藤飛鳥達のテーブルだけは、店側の計らいでメニューには無い普段とはまた違った楽しみ方の出来る豪華料理を出してもらっている。
「え、芸能人の方も、飛鳥さんのブランド着て、ランウェイ歩いてくれたんですよね?」賀喜遥香は柿とチーズのサラダを中断して、飛鳥を見つめた。「それって、凄くないですか? いきなり、そんな……」
「俳優さんもいたね……。女優さんとか? いたなあ」飛鳥は、あむ、とロブスターを口に入れた。しばらく咀嚼(そしゃく)する。「あとは、プロのモデルの人達もね……。あ」
「なに?」秋元真夏は咄嗟に飛鳥見つめた。
「なんですか?」与田祐希も飛鳥を見つめる。
「あの、さあ……」飛鳥は、フォークとナイフをテーブルの上に握ったまま、皆の顔を見回した。「ユズカイ、イチヤ…、てモデル、知ってる? 男で」
 山下美月は、大きく見開いた眼で、秋元真夏と与田祐希と眼を合わせ、あからさまに驚いている賀喜遥香とも眼を合わせた。
 それから、山下美月は、きょとん、と反応を待っている飛鳥と眼を合わせた。
「柚飼一哉って……、ちょっと前に大ヒットしてた、トレンドドラマの主演した新人俳優さんですよ」
「え?」
「ああ、俳優さん、というか、モデル出身みたいでぇ……」山下美月はフォアグラのソテーをナイフで切りながら斜め上を見上げて考える。「タレントさん、なのかな……」
「女子に大人気の人ですよ」賀喜遥香ははふふっと笑った。「知らなかったんですか、飛鳥さん。あ~じゃあ、あのドラマも観てないんだな」
「柚飼一哉さんがどうかしたんですか?」与田祐希は、箸を止めて、大きな瞳で飛鳥の事を見つめた。「いたんですか、今日?」
「……ううん、いい、いいの」飛鳥はロブスターの続きを食べ始める。「有名なんだ?」
「有名、ていうとまた……、どぉだろ……」山下美月はフォアグラのソテーを小さく切り取って、フォークで口に入れた。「そもそも……、この前のドラマが俳優デビューですし、モデルも専属モデルになってまだ一年とか……。新人さんです」
「でも、もう有名ですよね」賀喜遥香は、チョコレートピーチクレープを口の周りに付着させながら和やかに言った。「CMも出てるし……」
「私秋月君の方がタイプだな~」秋元真夏はぽわん、と儚げに眼をせばめた。
「はー絶対柚飼一哉でしょ」山下美月は眼を見開いた。「秋月って人、あの帽子、キャップかぶってる人ですよねえ?」
「うん」秋元真夏はにこやかに頷いた。「可愛い」
「芸能人と比べちゃいます?」山下美月は眼を驚かせたままで苦笑した。「なんか、そういう眼で男の人見てるんですか。真夏さん飢えてない?」
「飢えてるかもははっ」
 皆が笑い、また新たに、グラスに乾杯の音が響く中、飛鳥は思い耽るように、あの夜の子猫とあの不愛想な顔をした男の事を思い出していた。

       2

 夏の終わりだった。毎晩のように通った森林公園に、今夜だけは、あいつが現れた。
 街灯の灯る洋風のベンチに座りながら、スターバックスのカスタマイズされたアイスコーヒーを厚紙のストローで味わいながら、飛鳥は遠くの場景に柚飼一哉の姿を見つめながら、隣に置いた紙袋を意識する。
 一分が経ち、やがて五分間が経過した。すぐ眼の前の路上に立った小さな時計灯でそれがわかる。ふらふらと闇の中をゆったりとうろつく柚飼一哉を発見してから、すぐに十分間が経過した。
 柚飼一哉は脚元にじゃれついて、なかなか進もうとしない子猫を無表情で見下ろしながら、気分を一転させるかのように、ふうと1つ溜息をついた。
 その拍子に、眼の前の洋風なベンチにちょこん、と座っている齋藤飛鳥の存在に気付いた。

「あ」
「いや、おそ……」飛鳥はぼうっとした顔のままで呟いた。「猫……、どうなったのか、普通、報告ぐらいするでしょ……。半分は私が助けたようなもんなんだから……」
「毎日、ここに来たよ」柚飼一哉は、薄く笑わずに笑みを浮かべた。「あんたはいなかった」
「毎日?」飛鳥は、一度視線を外してから、また見つめる。「私も……、来てたけど……。何時に来てたの? 不定期?」
「一時くらい」また無表情に戻った柚飼一哉が答えた。
「一時かよ、夜の?」飛鳥は驚いた顔をする。「夜の一時?」
 柚飼一哉はうなずいた。脚元にじゃれつく子猫に眼をやる。
「腹減ったのか、飛鳥……」
「はい?」飛鳥は大きく瞬きをして、柚飼一哉を見つめた。
「あんたじゃないよ、こっち」
 柚飼一哉があごで示したのは、彼の脚元で跳びはねている子猫だった。
「その名前にしたの?」飛鳥は困ったように顔をしかめた。「なんでえ……。私も飛鳥なんですけど……、もっと他にもあるでしょうに」
「あんたからもらった名前だよ」柚飼一哉は不愛想にそう言って、面倒臭そうに子猫を抱き上げた。「こいつにとって、命の恩人なんだから、母親みたいなもんだろ。よくあるじゃん、親の名前を、子供にあげるって……」
「そんな、そりゃそう、だけど……」飛鳥は、上目遣いで、近寄ってきた柚飼一哉を見上げる。「んじゃあんたが父親なわけでしょう? なんでそっちをつけないの……。メスだったから?」
作品名:確かなもの 作家名:タンポポ