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確かなもの

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 それは、とてもやさしくて。
 穏やかで。
 とても、低い周波数で。
 私を、守るという。

「あんた、て言うの、やめて……」
「……、わかった」
「うん」
「明日、あるでしょ?」
「うん」
「そろそろ、送ってく……、飛鳥」
「うん……」

 柚飼一哉はベンチから立ち上がった。続いて、飛鳥も、ベンチを立ちあがった。
 子猫のマッシロウが見上げる……。
 柚飼一哉は、飛鳥を抱き寄せた。
 飛鳥は、驚いたまま、声も出せずに、瞳を大きく見開いていた。

「痛い時は痛いし……、悲しい時は、悲しい……、そんな時は、泣けばいいよ……。だけど、どうしようもなく…、泣けてくるんなら……、その時は、いつも俺が…そばにいる……」
「………」
「会ったばっかりだから、説得力ないかもな……。でも…、俺は千年前から飛鳥を知ってた気がしてる……。ずっと、飛鳥を好きだった気がする……」
「………」
「もう離さない」
「………」

 飛鳥は、上を向いて、溢れてくる涙をその瞳に留める。抱きしめる力の強まった柚飼一哉の肩を強く掴んで、飛鳥はまた、声を殺して泣き始めた。

       3

 ニューヨークに在る〈メモリアルスローンケタリング癌センター〉(MSKCC)は、1884年に設立された歴史ある癌センターで、全米で47あるNational Cancer Institute(NCI)の1つとして指定されている。
 マンハッタンのアッパーイーストに研究所と共に位置しており、通りを介してワイルコーネル大学医学部と隣接し、スタッフはワイルコーネルの肩書も得るなどして密接な関係にある優秀な癌センターといえるだろう。
 同じくマンハッタンにはコロンビア大学やニューヨーク大学、マウントサイナイ病院など、名門病院がひしめいており、その中でも〈メモリアルスローンケタリング癌センター〉はセントラルパークまでは徒歩十五分程度の距離であり、治安も極めて安全な場所に位置していた。
 坂根双葉(さかねふたば)が入院してから半年近くの歳月が経ち、抗がん剤治療も効果を得る良い方向へと向かう回復の兆(きざ)しがあった。
 十二月の半ばである今日の真昼、病室の坂根双葉は、恋人の秋月奏(あきつきそう)を前に、近々実行される癌手術への不安をもらしていた。
 秋月奏は、顔をしかめて、大きな溜息をはいた。
「何言ってんだよ~、復活して、飛鳥ちゃんとまたチームでブランド盛り上げるんだろぉう?」
「絶対、ダメなんだよ……。失敗するんだよ、この手術は……」
 坂根双葉は意気消沈して、ベッドから起こしていた上半身を、窓際の花瓶へと向けた。
「家族がくれた花も、枯れてきちゃったし……。希望無し、て感じかな……」
「枯れねえ花なんてどこにあんだよ」秋月奏は、顔をしかめてそう言ってから、余所を向いて頭を掻いた。「ドライ、フラワーって、枯れねえのか……。ま、いいや。お前なあ、がんばるって、あんれだっけ約束したじゃねえか」
「その時は、その時だよ……。いざ、その日が近づくと……、どうしても、うまくいかないような気がしてくるもんなのよ」坂根双葉は、秋月奏を見て、苦笑した。「彼氏って、めんどくさいね……。んふふ、こんな彼女のおもりしないといけないんだから……。か~わいそ」
「あのなあ、言っとくけど、お前の癌なんて、抗がん剤でほとんど死んでんだよ……。昨日、飛鳥ちゃんとズームした時、双葉が自分でそう言ったんじゃねえか」
「言ったけどぉ……」
「なんだよ。言ったけど?」秋月奏は、顔をしかめて腕を組む。
「100%なんて、この世には無いじゃない?」坂根双葉は、弱気な笑みを浮かべた。「今こそ、今だからこそ、こんな時だからこそ……、その100%が欲しいのに……。事実って何よりも残酷だよね、何%かは、ダメだって、ことなんだから……」
 秋月奏は、来客用の椅子に腰かけたまま、脚を組んで、深い溜息をついた。スマートフォンを掴み、何やら操作する。
 坂根双葉は、哀愁のある笑みを浮かべて、窓の外に呟く。
「あ~あ……、もう少し、早く秋ヅキ君と出逢ってればな……。恋人同士で、ニューヨークの街をデートできたのに……」
 秋月奏は、溜息を吐く。
「ひっさしぶりに間違えたな……。秋ヅキ、じゃなくて、アキツキ、なんだわそこ……。ほれ」秋月奏は、スマートフォンから、窓の外を眺めている坂根双葉へと、改めて顔を向けた。「双葉……」
「ん?」
 坂根双葉は、力無く、秋月奏を振り返った。
 個室であるその病室には、二人きりで、BGMとして、小さな音で齋藤飛鳥から伝授されたレイチェル・プラッテンの『ファイト・ソング』がリピートで流されていた。
 秋月奏は、スマートフォンを片手に、坂根双葉に眉をしかめて、にやけて見つめた。

「今から俺の話をちゃんと聞け……。Okey your ready?(準備はいいか?)」
「え、うん……。うん、別にいいけど。何ぃ? 英語で話すの? ……別に、わかるけどさ……」
「I`m gonna ask you serious questions(真剣な質問をすっからな)」
「うん……」
「And no matter what I ask(何を聞かれても)」
「うん」
「You have to answer NO(「いいえ」で答えろよな)」
「ふんふん……」
「Are you happy?(幸せか?)」
「……、NO(いいえ)」
「Do you feel like you`re worth it?(自分に価値があるって感じる?)」
「……NO(いいえ)」
「Do you feel important?(自分は大切って感じるか?)」
「NO(いいえ)……」
「Do you feel appreciated?(高く評価されてるって、感じる?)」
「NO(いいえ)……」
「Do you want me to tell you a joke?(ギャグが聞きたいか?)」
「んんNO(いいえ)、ふふ……」
「Something to make you laugh?(笑えるネタはあんのか?)」
「NO(いいえ)」
「Ok now I`ll ask you this(よっしゃ。じゃあ、これを聞こうか)」

 秋月奏は、真剣な顔に鼻っぴらを開けて、大きく深呼吸を消化した。
 坂根双葉は、にこにこと秋月奏を見つめている。

「Are you gonna give up?(あきらめるのか?)」
「……NO(いいえ)」
「Are you gonna give up!?(あきらめんのか!?)」
「NO‼(いいえ‼)」
「Are you crying and frustrated like this?(このまま泣いてくじけて、それでおしまいか?)」
「んNOォォ(いいえぇぇ‼‼)」
「Are you gonna stop?(やめんのか?)」
「NOォォ‼‼(いいえ‼‼)」
「Are you gonna let it get to you?(このまま放っておくのか?)」
「NO‼‼(いいえ‼‼)」
「So are you going to lose like this?(じゃこのまま負けんのか?)」
作品名:確かなもの 作家名:タンポポ