永遠につづくきせき (v1.1)
ナ「私達の宇宙と同様に、地球が存在し、地球人が存在し、地球文明が存在することがあるのです。」
ナ「地球が無い場合、」
ナ「一度も発生しなかった場合と」
ナ「一度発生した後に滅亡した場合の」
ナ「2つの場合があります。」
ナ「宇宙には地球文明が最大で1回までしか発生できません。」
ナ「一度滅んでしまった地球文明はその宇宙に二度と戻らないのです。」
暗闇が映し出される。
ナ「宇宙には終わりがあります。」
ナ「私達の宇宙もあと1000億年ほどで終わりを迎えます。」
ナ「しかし1京年後か1兆年後かは分かりませんが」
暗闇の中にチラチラと小さな光が現れては消えを繰り返す。
ナ「気の遠くなるような時間が経過したのち」
ビッグバンが起こる。
ナ「終わりを迎えた宇宙から新たな宇宙が生まれます。」
客(幻想的な映像だな。幻想とは本来かくあるべきだ。)
群衆に幻想を与える術を心得ている者は、容易に群衆の支配者となり、
群衆の幻想を打破しようと試みる者は、常に群衆のいけにえとなる。
※NHK100分de名著「群衆心理」(2021年9月放送)
客(“幻想の指導者”は主観的願望を客観的事実にすり替える。)
客(20世紀まではずっと“政治の延長としての戦争”というクラウゼヴィッツの戦争論が根幹にあった。)
客(しかし21世紀には、ロシアが始めた侵略戦争(ウクライナやジョージアへの侵略)によって)
客(20世紀までの戦争論がやはり通用しないのだと確認された。)
客(政治で話がつかなかったとしても)
客(戦争は選択肢にならないのだと確認された。)
客(戦争を選んだら勝者も敗者もいないのだ。)
※NHK 最後の講義 The Last Lecture「保阪正康」(2023年6月14日放送)
客(当時の世界は侵略戦争を始めたロシアの大統領を糾弾した。私が見た感じでは糾弾の理由は2つあったようだ。)
客(最大の理由は民間人の虐殺などの戦争犯罪について人として当たり前に激怒したから。虐殺にとどまらず、世界中から非難されてもなお民間人を巻き込むミサイル攻撃を継続していた。)
客(もう一つの理由は戦争を選ぶことを認めてしまうと地球文明の滅亡に繋がるから。行動を真似する者が現れないよう、世界は侵略戦争を始めた国の大統領を徹底的に糾弾した。)
ナ「先日、同調機能の試験運用を開始するとの発表がありましたね。」
ナ「対象者は──」
マルチバースが映し出される。
一つの光点に焦点があてられる。
ナ「──こちらの宇宙にいる7歳の少年です。この宇宙の地球文明は20世紀です。厳密には西暦1966年です。」
ナ「残念ながら大人が別の宇宙にある第1の地球を体験することはできません。」
ナ「なぜなら同調機能には大きな制限があるからです。」
客(同調機能は倫理的な問題があるから運用がずっと見送られてきた。)
ナ「同調機能は使用者が対象者の肉体を借りる機能です。」
仕様の要約が映し出される。
○脳が未成熟の小さな子供だけしか対象者にできない。
○対象者と年齢の離れた大人を使用者にできない。
○対象者が使用者の考えに強烈に賛同しないと同調できない。
ナ「対象者に危険がともなう行動をさせてしまった場合の罰則がもうけられています。」
客(当然だな。)
ナ「罰則は使用者(子供)の直属の上司(大人)にはより厳しいものとなります。」
客(たとえ対象者(子供)が同意していても未成年者の同意は有効とはいえないからな。)
客(子供といえば)
客(やはり21世紀のウクライナで起きた子供の連れ去りが有名だ。)
客(連れ去りは誘拐の形をとるわけではない。激戦地からの避難という名目でロシア支配地域へ連れ去られた。)
※NHKスペシャル「ウクライナ 引き裂かれた子どもたち」(2023年6月17日放送) 6月12日時点で、戦争で死亡した子供の人数は487人、行方不明になった子供の人数は395人、連れ去られた子供の人数(DEPORTED)は19499人。そのうち戻ってきたのは118人。
※クローズアップ現代「“消えた”子どもたち」(2023年4月5日放送)(https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4766/)
客(当時のNHKスペシャルを視聴したことがある。NHK取材クルーと別れるときに子ども達がいつまでも手を振り続けている様子が記憶に残っている。まるで“私達のことを忘れないで”と伝えているかのようだった。)
客(連れ去り等だけでなく、もちろん負傷者の被害も深刻だった。2023年6月24日のNHKニュース“おはよう日本”の映像を見たことがある。義足で新体操に挑むウクライナの7歳の少女のニュース映像だ。この子はニュースの約1年前にロシアのミサイル攻撃で負傷していた。腕と足の骨、肋骨が4本折れるなど全身を負傷した。意識が戻るまで2週間かかった上、血管が損傷し血液がまわらなくなったため、左足の切断を余儀なくされた。この子はいくつもの手術や治療を乗り越えた。最初は義足をつけて歩くことすら怖がっていたが、4か月におよぶリハビリを通じて次第に新体操への情熱を取り戻した。負傷から5か月後に新体操の練習を再開した。かつて軸足は左だったが復帰後に右に変えたことでバランスを保つのが難しくなった。そこで取り組んだのが筋力トレーニング。全身をバランスよく鍛えるため、苦手だった水泳にも力を入れた。また1.8kgある義足を扱うためのトレーニングも。足首の反動を使って足を上げられないため、足の付け根の筋力を強化。バーにぶら下がった状態で両足を頭の高さまで上げていた。そして綺麗な動きを見せるための工夫。開脚から足を閉じるとき、右手を左の義足の先に添えながら腰をひねる。全身を使い、自然な振り付けを心がけた。この子のひたむきさはSNSで共感を呼び、“ウクライナの誇り”・“ウクライナの未来”と呼ばれた。義足は子供の成長とともに毎年、新しく作る必要があるため、親の経済的負担が大きい。)
〇鍵継承者支援課
監査官(大人)は手元の資料を見ながら言う。
監「鍵継承者支援員規定5条に基づき最終確認します。」
監「“幻想のコスモス”によって宇宙にはどんな存在が生み出されますか?」
小「2つの存在があります。」
と、何も見ずに答える。
小「1つは“幻想の指導者”。」
小「もう1つは鬼の始祖です。」
監「1つの宇宙に対するそれぞれの発生回数は?」
小「幻想の指導者は何度でも発生します。普通の人間ですから。」
小「一方、鬼の始祖は最大で1回だけ発生します。発生に失敗する場合もあります。普通の人間のようにはいかないのでしょう。」
小「幻想の指導者と鬼の始祖に共通していえることは、どちらも幻想のコスモスと強く同調しているということです。どちらも危険な存在です。」
監「幻想のコスモスの目的は何ですか?」
小「地球文明を滅亡させることです。」
小「そのために幻想の指導者が他国へ侵略するよう仕向けます。」
小「そのために幻想の指導者は大衆を操ろうとします。」
小「大衆を操るために、」
小「情報を統制したりフェイクニュースを流布したりします。」
作品名:永遠につづくきせき (v1.1) 作家名:鈴木蓮一郎