永遠につづくきせき (v1.1)
仁「友の仇討ちのために来た」
鬼「くだらぬ」
鬼「そんな切れ味の悪そうな黒色の刃で」
仁「ああ、それと…」
鬼「?」
仁「ここに猿山の大将がいるって聞いたもんだから」
仁「格の違いってやつを見せてやりに来た」
鬼「…………」
仁太郎は刀を構える。
仁「いくぞ」
仁太郎はいとも簡単に鬼の頸を斬る。しかし、
仁「!?」
鬼の頸は斬った直後から再生する。何事もなかったかのように。
ヒュ 鬼は仁太郎に攻撃する。
ガキン ズルッ 仁太郎はとっさに刀で防御する。しかし、防ぎきれない。
ドス 鳩尾を突き刺される。
鬼「どうした。格の違いを見せてくれるのではなかったか」
ボタ ボタ 床に仁太郎の血が落ちる。仁太郎は出血を何とか止めようと傷口を手で押さえる。しかし、
ジワ… 仁太郎の手の隙間から血が漏れて衣服に拡がっていく。
鬼「しかし、たしかに今のお前の動きは素晴しかったと認めざるをえぬな」
鬼「お前のような優れた肉体をもつ者には今まで会ったことがない」
鬼「強い鬼を造ろうとしているのだが」
鬼「子供から大人まで様々な人間で実験してみたが、どいつもこいつも私の理想からは程遠かった」
《「あ、兄ちゃん……」》
仁「…………」
鬼「お前ならば上弦の壱に相応しい」
鬼「いや、お前だけでいい。お前さえいれば他の塵芥なぞいらぬ」
鬼「どうだ、仁太郎?」
鬼「お前は選ぶことができるのだ」
鬼「他の者とは違う」
鬼「鬼になれば、その致命傷ですら治る」
鬼「鬼になるがいい」
仁「ならない」
鬼「!」
鬼(ぬかった。あの致命傷では、もうすぐ死んでしまう(夜になるずっと前に死ぬ))
鬼(今すぐに無理に鬼にして暴走状態になった仁太郎に屋敷を破壊されては(陽光が入り)こちらの身が危うくなる)
鬼(私の身が危うくなっては本末転倒だ)
鬼「よもや、お前は死んだ後に私が手にかけたお前の友(芽衣子と鉄男)と再会できるだなぞと考えておらぬであろうな?」
鬼「天国も生まれ変わりもありはしない」
仁「たとえ、そうであったとしても、俺が鬼になることはない」
鬼「……やむをえぬな」
鬼「さらばだ、仁太郎」
ヒュボッ 鬼は触手のように腕を伸ばし、腕の先端に形成した醜悪な口で仁太郎を捕食しようとする。
仁(死ぬ)
仁(負ける)
ドクン 仁太郎は走馬灯を見る。その記憶は仁太郎にとどまらず、初代鍵継承者にまで遡る。技の極地を目の当たりにする。
〇野原(夜)
初「お労しや」
初「兄上」
〇鬼の始祖の屋敷
仁太郎の流麗な太刀捌きによって鬼の腕が斬られる。
鬼(なんだ。この痛みは)
鬼(斬撃を受けた所が灼けるように痛む)
鬼(先ほどは、わざと頸を斬らせてやったが、腕を斬らせてやるつもりはなかった。この剣士の力では斬れぬ硬度のはずだった)
仁(この男(眼前の鬼の始祖)を倒すために『鍵』を継承したのだと聞かされても)
仁(ついさっきまでは実感がなかった)
仁(でも)
仁(今ははっきりとわかる)
〇田んぼ
“うた”(17)はしゃがんでカエルを見ている。
ピョコッ カエルが初代(17)の手の上に乗る。
初代はカエルを“うた”の手の上に乗せてやる。
〇鬼の始祖の屋敷
鬼(あの姿…)
仁太郎の額には炎のような模様が現れている。
仁太郎の握る日本刀の刃が赫くなる。
鬼(斬られた瞬間はまだ刃が黒色だった。)
仁太郎は傷口を押さえるのをやめている。
鬼(止血できているのか? 何をした?)
仁「失われた命は回帰しない」
仁「二度と戻らない」
ギュル 鬼の右腕が再生する。
仁「生身の者は鬼のようにはいかない」
仁「なぜ奪う?」
鬼「…………」
仁「なぜ命を踏みつけにする?」
仁「何が楽しい?」
仁「何が面白い?」
仁「命を何だと思っているんだ」
鬼「お前は“自分より下位の生き物に頭を下げ、血を分け与えてもらえ”とでも言うつもりか」
鬼「なぜ私の方が頭を下げねばならぬ」
仁「人間だったろう。お前も」
仁「かつては」
仁「痛みや苦しみに踠いて涙を流していたはずだ」
鬼「昔のことなぞ覚えてはおらぬ」
鬼「重要なのは鬼が生態ピラミッドの頂点捕食者であるということ」
鬼「鬼は老いない」
鬼「食うために金も必要ない」
鬼「病気にならない」
鬼「死なない」
鬼「何も失わない」
鬼「そして全ての鬼を率いる この私は」
鬼「何をしても許されるのだ…!!」
仁「わかった」
仁「もういい」
仁太郎は鬼に突進する。
鬼(あの赫い刃を近付けるのは危険だ)
ヒュガッ 鬼は仁太郎に渾身の攻撃をする。しかし、仁太郎は余裕で回避する。
鬼「!?」
鬼(何故よけられる)
鬼は血鬼術を使ってみる。しかし、仁太郎には効果がない。
ヒュガガッ 鬼は無数の刃で仁太郎を斬ろうとする。しかし、仁太郎にかすりもしない。
鬼(これは本気で相手をせねば…)
鬼(仁太郎だけを狙って全力を出すのであれば屋敷の損壊は許容範囲内だろう)
ガガガガ 鬼の空振りによって屋敷の床や壁が破壊されていく。
鬼(目で追えぬ…!!)
いつの間にか、鬼の周囲には仁太郎が12人いる。仁太郎の移動が速すぎて分身して見えているのだ。
仁太郎の眼光と鬼の目が合う。
ゾッ
鬼(狩られる)
鬼(逃げねば──)
と、即断しようとする。しかし、間に合わない。
ゴオッ 12人の仁太郎が鬼を斬る。
鬼の体がバラバラになる。
鬼(体が…再生しない!?)
ボロ… 鬼の肉片が消滅し始める。
鬼(なぜ再生しない!?)
鬼(なんなのだ、あの刃は!?)
仁「あいつら(芽衣子と鉄男)はな、俺が作った晩飯を食うはずだったんだよ」
鬼(そんなくだらぬ理由で!!)
鬼「私はもっと生きられる!!」
鬼「再生しろ!!」
鬼「再生しろ!!」
鬼「まだ足りぬゥゥァァアア……!!」
ボロォ… 鬼が完全に消滅する。
仁(鬼の始祖を退治できたのは運が良かっただけだ。俺は自惚れていた。もし星の鍵を継承していなかったら負けていた。)
ダンッ ズル… 仁太郎は壁にもたれかかりながら倒れる。
〇路上
仁太郎(11)と芽衣子(7)は手を繋いで歩いている。
芽衣子は楽しそうに喋っている。
仁太郎は芽衣子の話を聞いている。
〇鬼の始祖の屋敷
仁(俺も芽衣子と過ごせて幸せだったよ)
仁太郎は心安らかに息をひきとる。
〇遠景
鬼の始祖の屋敷から離れて行く。雲を抜けて行く。
〇宇宙
青い地球が見える。
地球に寄っていく。埼玉県を拡大していく。
〇路上
テ「西暦1966年から157年後」
テ「西暦2123年」
鳴「もーやんなるわよ、ほんと」
と、宿海 鳴海(17)。
莉「それで、急遽、鳴海が保護者として行ってきたのね」
と、松雪 莉子(17)。
仁「…………」
と、宿海 仁太郎(14)。
鉄「あれは相手が悪いよな。」
と、久川 鉄道(14)。
鉄「あのおっさん 歩きタバコをしていたからな。小学校低学年の男の子が顔に軽いヤケドをしたんだ。」
莉「危ないわね。目に当たっていたら失明していたわよ。タバコだけでなく傘も注意が必要よ。」
作品名:永遠につづくきせき (v1.1) 作家名:鈴木蓮一郎