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冬の梟

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「木兎を届けてきたぞぉ〜」
「お疲れ様」
黒尾が寒そうに指先を擦りながら暖かなコタツへと入っていく。部屋を見回し、ここにいるのが研磨一人だと知ると首を傾げた。
「赤葦は?」
「少し考え事をしたいから雪見灯籠が見える廊下に行ってる」
「なるほどね」
「木兎さんのチェックインは問題なかった?」
「おう。離れは寂しいとか騒いでたけど部屋に蹴り込んどいた」
案の定、木兎はどこの宿も取ってはおらず適当に駅前のホテルで夜を過ごそうとしていたらしい。シーズンから外れているとはいえ、この地域はそれほど観光に重きを置いておらずホテル自体少ない事を木兎は知らなかった。あのまま駅前に行っても宿はどこも取れなかっただろう。
念のために同じ宿でもう一部屋押さえておいて正解だった。
「ご散財ですね」
「木兎さんに掛かったものは出世払いしてもらうから」
なるべくなら貸しも借りも作りたくはない。
そう呟く研磨は今夜にまでクリアせねばならないゲームを必死に攻略していた。
「俺、ちょっとだけあの人苦手」
「ん?木兎か?」
「そう」
「チビちゃんに似てるって思うけど」
「翔陽の方がずっと解りやすいし可愛げがあるよ」
顰めっ面になる研磨に黒尾は笑う。
「木兎も本能で動くタイプだからな。研磨とは対象的でしかも相当に野生本能が強い」
「赤葦はよく付いていけるよ」
「惚れた弱みで、強みなんだろ」
「これでまた赤葦が泣いて戻ってきたら二人で海外逃亡するから後はヨロシク」
「一番面倒なのを置いていくな!俺も連れてって!」
赤葦を失った木兎と二人にされるのが余程恐ろしいのか、本気で身震いする黒尾を研磨はなんの感慨もなく「はいはい」と適当に相槌を打っていく。その時、研磨の携帯に一つのメッセージが届く。それは赤葦からであり、内容は「木兎さんと話してくる。部屋番号教えてもらえる?」というものだった。

扉が開く音に続いて、静かに閉められていく。誰かが合鍵でも使って入ってきたのだろうが、そんな奴は一人しかおらず木兎はコタツで不貞腐れたまま文句を垂れ流していった。
「黒尾〜?ここの宿サイコーだけど一晩で幾ら?俺あと交通費と少ししか持ってねぇよ。明日帰る時に働いてから帰ってこいとか言われたらどうしよ。あとご飯もどうすれば…肉食ったけど夜にまたお腹空いちゃう…」
矢継ぎ早に問答無用でこの部屋に木兎を押し込んだ黒尾に「部屋から一歩も出るなよ!」と釘を刺されてしまったから何も出来ない。余り宿の善し悪しが解らない木兎でもこの宿がかなりのランクにあると解るくらいには歴史を感じていた。
まぁ外は深々と雪が降り積もり、もう夜に差し掛かっている時間なのだから部屋から出ても何もできないとは思うが。それでも自発的に部屋へ籠るのと押し込められるのでは気分が違う。
しかしいつまで経っても黒尾からの返事はなく、部屋に入ってくる気配もないことに違和感を覚えた木兎は面倒そうに黒尾へと向き直る。
「黒尾?そういえば風呂ってどうすれば…」
「あの…黒尾さんじゃなくて、すみません」
そこに立っていた人物に木兎は目玉を落としそうなくらいに目蓋を開いていた。
「少し話をしても…て、ぅわっ!?」
「あ、赤葦ぃいいっ!ごめんね!痛いことしてごめんね!怖いことしてごめん!俺、おれ赤葦にっ赤葦傷付けて、ごめっ、ごめんなさいぃっっ」
気付いた時には赤葦は号泣せんばかりの木兎に抱き付かれ、何かを言う暇もなく「ごめんなさい」の嵐を受けていた。凄まじい速度で距離を詰められたので避けることなど不可能だった。先ほどの店で黒尾に伝えていたような言葉を繰り返し、その都度謝る木兎に赤葦はつい条件反射で「木兎さん、待ってください」と「待て」の号令に近い声を出していた。いつもふざけ過ぎた木兎を叱るような、諫めるような赤葦の声に巨大なミミズクは身体をビクッとさせて止まっていく。そんな木兎に「少し離れてください」と告げれば両手をあげて赤葦から離れていく。
常より聞き分けがよくなっている様子に赤葦は試しに「お座り」と言ってみたらミミズクがその場で正座をしていく。その様に赤葦は緊張していた強張りが身体から抜けていくのを感じていた。
「これでは話ができません…少し落ち着いてください」
「うん…ごめん」
結局また力任せに赤葦に触れてしまった木兎はしょぼくれていく。それでも言われなければならない事は、ある。
「あの、さ。大体知ってると思うけど、赤葦にちゃんと伝えたいことがあるから聞いてくれる?」
「…はい」
「……俺、の好きな人って赤葦なんだ。それであの日、赤葦にも好きな人がいるって解ったら今まで我慢していた物が溢れちゃって。好きな人を想うだけで幸せって顔をする赤葦を見たら、嫉妬…したんだと思う。俺の方が近くにいるのにって。俺の方が赤葦のこと好きなのにって。俺のことだけを見ればいいのに、って気持ちが抑えられなくなって。赤葦が俺の知らない所へ行っちゃいそうな不安に焦って、それなら身体だけでも繋ぎ留めればって…思って…無理矢理、襲おうとしました」
ごめんなさい…と大きな身体をすぼめて謝る木兎に赤葦は表情を変えずに聞いていた。返す言葉も端的だった。
「何であの時、俺の話を聞いてくれなかったんですか」
「赤葦の口から、赤葦の好きな人のことを聞いたらもっとヒドイことをしちゃいそうで。無理矢理しようとして説得力ないけど、なるべく痛いことしたくなくて…いや、そんなのただの言い訳だな。俺がその話を聞きたくなかっただけだ」
改めて説明すると自己嫌悪でのたうち回りたくなる衝動に駆られる木兎だった。
「許して欲しいなんて言えないことしたと思う。もう赤葦は俺の顔を見たくもないかも知れないと思ったから、今話せているだけでも喜ばなきゃいけない。でも…いつか、赤葦が大丈夫って思えるようになった時、また前みたいに戻れたら…嬉しい。ははっ、勝手なことばかり言ってるよな…」
正座する木兎の前に赤葦も同じように居ずまいを正して座ってゆく。
「そうですね、勝手です」
「うぅっ」
容赦のない赤葦の言葉に木兎は胸を抑えて踞る。
「俺を尊重しているようで、その実、自分の言いたい事しか言ってない所は直した方がいいかと」
「うぐっ」
「しかも心がダメなら身体だけでもって、木兎さんの理性や品性や知性は何歳です?今時の小学生の方が余程我慢を覚えてますね。発情期なら去勢してください」
「あ、赤葦ぃ…」
全身滅多切りされて見えない致命傷を負った木兎が正座そのままで地面に突っ伏していく。
「一つ質問があるんですが」
「…なにぃ」
さめざめと聞き返す木兎に赤葦はゆっくりと息を吐き出しながら質問を言葉にしていく。
「木兎さんは許されたいんですか?それとも…本当は許して欲しくないんですか?」

作品名:冬の梟 作家名:さえ