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冬の梟

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その問いに木兎は伏せていた上半身を勢いよく持ち上げて赤葦を仰ぎ見る。
「許して欲しい…と思う。でも簡単に俺のことを許しちゃダメだとも同じだけ思ってる」
許されるならば…そう言いはしたが、仮に赤葦が許したとしても木兎はきっと自分自身を許しはしないだろう。本能を理性で抑え込み、思考を働かせようと奮闘するのだろう。それは人として勿論必要なことだが、本能そのもので動く木兎にとって過度の抑制は枷となる恐れがある。
それは赤葦にしてみても喜ばしいこととは言えない。
「ならば提案なのですが」
「提案?」
「はい。俺のお願いを一つ聞いていただけませんか。そうしたら今回のことは許してあげます」
木兎が自分を許せないというならば、赤葦からのお願いごとを罰の代わりに出来ないか、という提案だった。
「赤葦のお願いなら別にいつでも叶えるけど。そんな事で俺を許していいの?」
「それはお願いごとを叶えてから言ってください」
「よし……わかった。なんでも叶える!」
「本当に?」
「うん!」
「では……俺の好きな人の話を最後まで聞いてくださいね」
「い、いやだぁぁぁぁぁぁぁあああああああっっ」
即座に前言撤回する木兎を見る赤葦の眼差しは外の雪にも負けない冷たさを宿していた。
「木兎さんにとって罪滅ぼしはその程度ですか。ではこの話もここでお仕舞いにしましょう」
「それもやぁだぁぁぁぁぁぁぁあああああああっっ」
「俺は何度となく嫌だと言っても止めてもらえませんでしたけどね」
身に覚えしかない木兎は呻き声も出せず、絶望がそのまま具現したような顔で固まっていく。
「どうしますか?」
「………聞き、ます」
今すぐにでも耳を塞ぎたい衝動を何とか堪えている木兎に赤葦は頷いた。
「その人とは中三の時に出会いました」
「中三!?その時から好きだったのっ?」
「当初は憧れていただけだと思っていましたが、今考えればきっと『あの時』好きになっていたと思います」
「俺より先に出会ってる……」
「それから俺の世界はその人を中心に回り始めました。心配事は尽きないし、手は掛かるし、放っておくと直ぐにいじけるし。その人に出会って自分が意外に世話好きだったと知りました。その人といると新しい発見の毎日ですよ」
赤葦がそんなにも誰かの世話を焼いているところなど木兎は見たことなどなく、好意を寄せているという事以上に嫉妬を覚えてしまう。赤葦の献身を自分意外の誰かが、自分以上に受けているという事実に胸の奥が軋む。
「じゃあ向こうも赤葦のことを知ってるんだ…赤葦の気持ちも知ってるの?」
「気付いていませんね」
「中三の時から想われてて!?そんだけ世話を焼かれてて!?何で気付かないんだよ!絶対俺の方が赤葦のこと好きじゃん!!」
「よっっっっっっぽどのおバカか、よっっっっっっぽど鈍感なんだと思いますよ。まぁでもそこに関しては俺も人のことは言えない事が解ったので言及はしません」
「でも……好きなんだ」
「はい。俺に取ってその人は光そのものなんですよ。太陽のようで、月のようで、星の光のように、空を見上げればその人はいつでも輝いています。俺はそれを見ているだけで…良かったんですよ。その人と付き合いとか、そんな不相応な考えを持った事はありませんでした。傍にいられるだけで、その人が幸せになる姿を見られるだけで充分満たされていたんです」
「………」
赤葦の切ないまでの想いが木兎の言葉を失わせていく。それほどまでに赤葦の想いは純粋で真摯なものだった。
「でも、そんな俺でも譲れないことはあります」
赤葦の声音に硬い響きが伴い、木兎は知らず伏せていた眼差しを少しだけ上げた。
「その譲れないものの為に、俺は梟谷へ進路を決めたんです」
「その人は梟谷にいたの」
首を縦に振る赤葦は真っ直ぐ木兎の目を見ていく。その真剣な眼差しに木兎は軽く息を飲んだ。何故そんなにも泣きそうな顔をしているのか解らない。今まで木兎が気付かない内に苦しい思いをしてきたのだろうか。
「そうです。その人は一学年上で…俺はその人に会うために…」
言葉を途中で切った赤葦は呼吸を一度止めて、深く吐き出していく。ずっと隠していた気持ちと共に。
「その人にトスを上げる為に、梟谷に…バレー部に入ったんですっ」
血が滲むような叫びだった。
「中三の時にその人のバレーの試合を初めて見た、その時…無彩色だった俺のバレーが色づいたんです。それまで誰にも怒られないように、過度に目立たないように、無難なトスだけを上げていました。でもその人のプレーを見て、そんなつまらない世界の全てが変わりました」
赤葦がここまで感情を吐露するところなど見た事がなかった。
「その人が誰よりも高く飛ぶ姿を、誰よりも近い所で見たいと思ってしまったんです。俺のトスで、その人がもっと自由に高く飛ぶ所を見たいとっ…、烏滸がましくも、思ったんです」
何故そんなにも懺悔するかのように話すのか。
「…恋とも呼べるか解らない想いを叶えるつもりなど微塵もありませんでした。そんな不確定なものより、俺のトスでその人が誰よりも高く飛ぶところを見届ける夢の方が余程大切で価値があったからです。そしてその夢は…叶いました。あとはその人が更なる高みへと進む姿を見届けるだけ…俺はそれで……充分だったんですっ」
願うつもりもなかった想いを何故掘り返すのかと、責めるような赤葦の眦から透明な雫が溢れてくる。
「俺はっ、俺のトスでその人が…あなたが飛ぶ姿を近くで見る権利だけは誰にも譲れなかった!それだけで良かったのにっなんで今さらあなたはっ」
続く筈の八つ当たりじみた叫びは音にならなかった。涙も言葉も気付けば木兎の腕の中に包まれてしまったからだ。
厚い胸に閉じ込められ、そこがやけに温かくて…その熱が余計に瞳から雫を溢れさせそうで。堪えられそうにない赤葦は離せとばかりに何度も木兎の肩や背中を叩いたがビクともせず、徐々にその背中へとしがみ付いていく。
あの日と同じような拘束まがいの抱擁だったが、そこに含まれる思いはまるで違った。

作品名:冬の梟 作家名:さえ