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冬の梟

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『木兎さん、本当に…はっ、ぁ待ってください。少し、だけで…も、話を…んっ。お願っ……いっ、木兎さんっ痛ぅっ』
『俺…あかあしにはヒドイこと、したくないから黙ってて』
それから赤葦が話をしようとする度に痛みを伴う愛撫を繰り返され、痛いのか気持ちいいのか解らなくなる。それでもむずがる赤葦に木兎は仕方ないとばかりに愛撫の間で言葉を落としていく。
『そんなに好きな人のことを話したいなら、代わりに俺の好きな人を教えてあげるよ』
『…………は?』
『俺の好きな人はね、年下なんだ。カワイーのにいつも難しい顔をして、でも割りと表情は豊かで』
『ふ、ざけないでください!』
今までで一番声を張り上げ、力任せに身体を捻り起きようとした赤葦だが、それすらも難なく抑えられてしまう。
『冷静なようで意外に怒りっぽいし。まぁ、そこもカワイーんだけど』
楽しそうに好きな人の事を語りながら赤葦の身体に触れる木兎に目頭が熱くなっていく。どんな拷問なのだ、これは。身体の自由を奪われ、想い人の好きな相手の話を聞かされ、なのにコチラの話には一切耳を貸さない。この状況を、拷問と言わずして何と言うのだ。
心が悲鳴をあげる。
なのに身体は歓喜の声をあげる。
木兎の話が鼓膜を震わせる度に心は軋むのに、木兎の手や口に触れられる度に身体は喜んでいく。その相対する正反対の感情に赤葦は唇を戦慄かせることしか出来ない。
『木兎さ、ん…やめ』
木兎の好きな人の代わりに抱かれようとしている現実に、最後まで耐えられるか解らない。
今あなたは、誰を思って俺に触れてるんですか。本当は誰とキスをして、誰を抱きたかったんですか。その手も、唇も、言葉も本当は、誰に。
『やだ…嫌です、木兎さん』
首を振るう赤葦の顎を下から掬い上げて唇を塞ぐ木兎に赤葦の眦から何粒もの水が零れ落ちていく。
『痛…い』
心が、痛い。
だけれど赤葦の言葉を身体のことと受け取ったのか、触れる指先がひどく優しくなってしまい、余計に辛さが増していく。これならむしろ痛みだけを感じる方が遥かにマシだ。
『や…きもちいい方が、ぃや…だ』
乞うような声音に木兎が纏う空気が固くなった気がしたが、今はそんな事に気を配っている余裕などなかった。木兎の掌が性急に赤葦のズボンへと触れ始めたからだ。
『ひぁっ?』
木兎の掌が大腿部を撫で上げる感覚に赤葦の背中が仰け反る。その反応が気に入ったのか何度も撫でられては声を押し殺す。しかし、それは許されず木兎の指が赤葦の唇を割り入り、歯列をなぞった。それすらも刺激となる赤葦が僅かに噛み締めていた歯を浮かせば隙間を縫って指で舌をも撫でてゆく。声を出させようとする指の動きに首を振るい、シーツを握っていた手で押し留めていく。
が、それもシーツにまた縫い付けられ、咥内には木兎の舌が代わりに差し込まれていく。絡み合う舌の動きに合わせて赤葦の下腹部を撫でる感覚に抵抗する気力が根刮ぎ奪われてしまう。
木兎の手が下着にかかった時、赤葦は遠退く意識の中で覚悟を決めた。決めざるを得なかった。固く目蓋を閉ざして「その時」を待つ赤葦に、しかしいつまでも木兎の手は動かなかった。
そればかりか木兎の身体がどんどん赤葦にのし掛かり、その背中には規則正しい息が聞こえてくる。恐る恐る目蓋を開けて微かに後ろを振り向いてみた光景に赤葦は瞳を見開いた。
『…木兎、さん?』
小さな声で呼び掛けても返事はない。
木兎の目蓋こそが固く閉ざされていたのだから。
どうやら寝落ちしたらしい木兎に赤葦は全身で息を吐き出していく。そういえば、店に居た時からかなりのハイペースでお酒を開けていた覚えがある。かなり酒に強いとは聞いていたが、どうやら今夜は許容量を越えていたのかも知れない。
『助かっ…た』
あのままだったら完全に流されていたと思われる自身に赤葦はまだ混乱の中にいた。とりあえずベッドから出ることが先決、と眠った猛禽類の下から這い出ようとした赤葦は『うわっ』と声をあげる。
抜けかけた赤葦の手を木兎が思い切り掴んできたからだ。
『木兎さんっ?』
起こしてしまったかと振り返ったが、木兎はまだ寝息を立てて夢の中だ。どうやら無意識に赤葦の手首を捕まえにきたのだろう。凄まじい狩猟本能である。
そして赤葦は木兎を起こさぬように力強い指先を一本ずつ剥がしていく、寸前に赤葦は短く息を詰めた。
離されることを察知したのか、先ほどとは比べようもない強さで赤葦の手首を握り締めてきたのだ。
『いっ』
ただでさえパワーは最強クラスの木兎が無意識に振るう力は下手したら怪我では済まない。赤葦の手首など簡単にへし折るだろう。赤葦が少しでも身動げば手首に食い込む力は増す。しかも両手共にだ。両手は木兎の掌に囚われ、背中に木兎の体温を直接感じ、首筋には寝息が吹きかかる。木兎の腕の中に抱え込まれた形を余儀なくされた赤葦はまた泣きそうになった。
『嘘だろ…』
この状態で木兎が起きるまで一晩を越せと言うのか。なまじ起こしたら先ほどの続きを強いられることにも成りかねず、赤葦は動くことも儘ならなかった。それに少しでも木兎から離れようとする気配を見せたら両手首の拘束が増しているのだ。このままでは骨や血管に支障が出てしまう。今でさえ手首が折れずに済むギリギリのラインにいるのだ。
『ふっ…ぅ』
堪えていた筈の雫がまた目の端から落ちていく。
どういう状況なのか、まざまざと赤葦は認識させられていた。
木兎に好きな人がいて、フラれて、それで偶々手近にいた赤葦が叶わぬ片想いをしていたからセフレにならないかと言ってきて、断る間もなくベッドに放り込まれ…。
『どっちが、フラれたと…』
赤葦の話は少しも聞く気はない癖に、自分がいかに相手を好きかを語ってきて。赤葦に触れながら、赤葦を抱こうとしながら他の誰かを想う木兎を見せ付けられて。いくら嫌だと言っても、待ってと言っても聞いてくれず……その「誰か」だったら聞く耳を持ったのだろうか、とすら考えてしまう。見えない「誰か」と、今のぼろぼろの自分を比べてまた頬を熱い何かが滑り落ちる。
拭いたくとも手を動かせば痛みが増していくだけ。
眠れぬ夜に赤葦はただ木兎を起こさぬよう声を殺してシーツを濡らすことしか出来なかった。

作品名:冬の梟 作家名:さえ