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冬の梟

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「ご、ごのばぁぁぁぁああっっっ!だずげでぇっっ!!」
「うぉぉおっ!?汚ぇから鼻水とか色んなのを拭いてから来やがれ!」
赤葦の誕生日祝いに集まってから翌々日に木兎から呼び出しを受けた木葉は思わず仰け反り逃げ掛ける。目やら鼻やら口から色んな液体を垂れ流し木葉へ突進してくる木兎から逃げても文句を言われる筋合いはない。
「で?なんだよ」
しかしあのままでは街中での鬼ごっこが始まりそうだったので仕方なく手近なファミレスに木兎を押し込み、木葉はその顔面にティッシュやらタオルやらを投げ付けていく。
「あ、赤葦と連絡が取れない……」
「はぁ?それだけで泣き叫ぶなよ。赤葦だってお前にばかり構ってる訳でもないし、向こうの付き合いもあんだろ」
「そうだけど、そうじゃなくて」
歯切れの悪い木兎に木葉は額に青筋を浮かべて「簡潔に話せ」と凄みをかけていく。しどろもどろとする木兎の話を聞いていた木葉は話し終わる頃には天井を仰いでいた。
「……で、二人で楽しく飲んでいた筈なのに気付いたら赤葦を押し倒してました」
「短いようで長い付き合いだったな…刑期が終わる頃には顔を見に行ってやるよ」
「収監!?」
「るっせぇわ!このゴーカンマ!」
「まだ未遂っ」
帰ろうとする木葉に縋る木兎は半泣きになっていた。それを無視しようとしたが相手は稀代のパワーゴリラだ。本気で止めにかかられたら木葉では太刀打ちできない。
「だぁっ!離せ!……ったく。本当なら酔った挙げ句に後輩を襲うような奴にかける情けはねぇぞ!」
睨みながらも席に戻る木葉に木兎は「はい!」と実直に返事をしていく。
「で?俺にどうしろって?」
「赤葦からブロックされて着信拒否も食らってるので取り次いでもらいたいです」
一息に言い切る木兎に木葉は渋面を作りながら暫く思案していく。数分、十分と考えて携帯を取り出して画面を操作していく木葉に木兎の表情が明るくなる。
「赤葦にお前と会えるか聞くだけだからな。あいつが会えないって言うなら、それ以上は取り次がない」
きっぱりと言い切る木葉に木兎は何度も首を縦に振っていく。手のかかるミミズクは放置し、木葉は幾つかのメッセージを赤葦に送り………「ん?」と思わず声をあげた。
「返事あった!?」
「うっせ。ちょっと待ってろ!」
僅かに慌てる木葉はそのまま通話に切り替え幾度か発信していたが数回を繰り返す内に唸りながら画面を閉じてゆく。
「……木葉?」
「木兎。お前、今日暇か?」
「え?うん。もう練習ないから」
「よし。なら俺が良いと言うまでそこを動くなよ」
「なになになに!?木葉顔が怖いっ」
木兎の悲鳴になど耳も貸さず木葉は新たな番号を呼び出していく。そして今度は一度で通話が繋がった。
「鷲尾、わりぃんだけど赤葦に連絡取れるか確かめて。俺の番号はブロックされてるみたいで…うん、そう。……多分な。その馬鹿ミミズクは今ここで捕まえてるから。一応他の奴らにも聞いてみてくれ」
要件だけを伝えた木葉が携帯を置いて木兎へと視線を戻せば金色の瞳が挙動不審に震えている。
「おいこら」
「まさか…木葉も?」
「なんっっで俺まで赤葦からブロックされるんだよ!お前他に何も隠してねぇだろうな!それとも最後までヤったか?あぁ!?」
「隠してない!ヤってない!」
「まぁいい。今鷲尾が他のメンバーにも確認してっから。その結果次第では……解ってんな?」
木葉の堅気とは思えない迫力と空気に木兎の喉奥が変な音を立てていく。
作品名:冬の梟 作家名:さえ