冬の梟
…結果として、あの飲み会にいたメンバー全員が赤葦からブロックや着信拒否を設定されていることが判明した。
「……尾長も?」
「いや尾長には聞いてない。赤葦にブロックされたと知ったらショックを受けるだろうからな」
「俺もショック〜」
「俺も俺も」
木葉と鷲尾の会話に猿杙が加わり、小見も手をあげる。木兎はファミレスの椅子に靴を脱いで器用に正座しながら他のメンバーのやり取りを拝聴していた。
「アパートは?」
「ここに来る途中で寄ってみたが家には居ないっぽいな」
「夜には帰ってくるかな」
「実家は?」
「あ〜じゃあ届け物があるとかで明日俺が実家の様子を見てくるわ」
「じゃあ俺は夜にまたアパートへ寄ってみよう」
木兎を置いて話をまとめ始める面々に金色の瞳は落ち着かない。そわそわと周りを窺う様子に木葉は冷たい目線をあてる。
「てめぇはそのミミズクヘッドを丸刈りにする床屋の予約でもしておけ」
「まぁまぁ。次の週末にまた集まるとして。それまでに各々で赤葦に連絡を取ってみよう?」
猿杙の提案に全員が了承していく。
その週末、木兎はまたしても正座する羽目に陥っていた。
全員、あの手この手で赤葦と接触を試みたが、ことごとく失敗に終わったのだ。いつアパートに赴いても人の気配はなく、実家にも居る様子はない。大学も授業を終えた生徒から冬休みに入り、赤葦は先週から誰にも会ってはいないそうだ。携帯も繋がらず、どこに行ったのかも解らず木葉達にはもう打つ手がなかった。
「あの飲み会から一週間以上経ったのに赤葦と連絡取れないね」
「実家にもいないしな。俺達の知らない交友関係のところに身を寄せてたら流石に解らねぇ」
猿杙が心配そうに言えば木葉も頷く。
「もう赤葦から連絡が来るのを待つしかないのかもな」
「どっかでちゃんと休んでるといいけど」
鷲尾が続き小見が遠くを見遣る。
「ということで、赤葦から連絡きたら教えてやるから。はい解散」
「異議あり!」
「この問題を引き起こした張本人の異議が!通ると!何で思っていやがる!?あぁん!?」
さっさと帰ろうとした木葉をまたもや木兎が羽交い締め…もとい、引き留めにかかるが余りの木葉の迫力に木兎は冷や汗を垂らしまくっていく。
「わ、わかってるけど!俺が言える事じゃないけど!赤葦いまどこにいるかとか、ちゃんと暖かい所にいるかとか心配でバレーにも集中出来ないぃぃっ」
「うっ」
確かにそれは木葉とて気になってはいる事だ。
「だが、ここまで徹底しているとコレは明らかに赤葦の意志表示だろう。俺達…というより、木兎と連絡を取る気はないというな」
「おお…木兎が死んだ」
鷲尾の一刀両断な言葉に木兎は致命傷を受けていく。胸を押さえてテーブルに沈む木兎を見ながら猿杙は首を傾げる。
「でもさぁ。ちょっと違和感あるんだよねぇ」
「違和感?」
「確かに木兎がやった事は遊びの範疇を越えてるし、それはちゃんと謝るべき事だけどさ。……何というか、赤葦がここまで木兎を拒絶する程のことかな、って思うんだよねぇ。なんせ、あの赤葦だよ」
猿杙の言わんとしている事を木兎以外のメンバーは正確に汲み取っていた。赤葦が木兎に対して敬愛以上の想いを募らせていることは何となく察している。言葉にこそ出さないが、それはここにいる皆が認識していることだった。木兎以外は。
「だからさぁ、木兎。本当に他は何もなかった?飲んで記憶飛ばしてる間に赤葦を襲いかけただけ?何か話したり、やったりしなかった?」
猿杙の問いに木兎は腕組みをして暫く記憶を辿っていく。赤葦を家に招き入れ、二人でお酒やお茶を飲み交わして雑談をして…今回は結構久し振りに会えたから話が盛り上がって、赤葦も沢山笑ってくれて楽しかった…ところで記憶が途切れ、気付いたら朝でしかもお互い半裸になっており、木兎の下にいた赤葦は散々泣き腫らした顔でこちら睨み付けて…いた。
「いや…思い出せるのは、やっぱりそれだけだぁっ。うぅ……赤葦に会って謝りたいよぉ」
メソメソと泣き出す木兎に猿杙は少し考え込み、「木兎が記憶飛ばしてる間がカギだと思うんだよなぁ」とひとり言をぼやいていく。
「とりあえず今やれる事はないから、お前はバレーに少しでも集中しろ。何か進展があったら知らせてやるから」
何だかんだと言い木兎に甘い木葉がしょぼくれたミミズクヘッドを掻き回してやる。そしてまたこのメンバーが集められたのは、この日より僅か数日後のことである。
それは木葉の元に届いた一つのメッセージがキッカケだった。
『そちらの梟を一匹保護してる。俺のことは知らせず「あの日」の飲み会に来たメンバーを集められるか?』
後輩は呼ばなくてもいいよ、と続くメッセージの最後に黒い猫のスタンプが付けられた木葉は色んな意味で頭を抱えたのだった。