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【Buddy Daddies】NEVER LOST YOU

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 「久ちゃん、エミリアって名前の女の子のこと調べてくれないか。ミリと同じくらいの子。あと、翼の生えたライオンと……」
 零は、ミリがもらった帽子についていた紋章の事も併せて調べてもらうように頼むと電話を切った。



 一騎はミリの名前を大きな声で叫びながら、雨の中を走っていた。
 ミリをきちんと育てたい、その思いで自分なりに試行錯誤しながら過ごしている。殺し屋なんていう稼業で世間に背を向けてきた。手にかけてしまった命は一つや二つじゃない、自分の最愛の妻と子供さえも……。でも、その稼業のおかげでミリと出会うことができた、自分にとって今のミリとの生活は毎日が楽しくて夢のようだ。
 もしかして、自分の過去の所業の報いがミリに及んでしまったのではと思うと、悔んでも悔やみきれなかった。
 (俺がやって来たことは、いつか必ず俺が償うから。だから、だからミリだけは……。もう俺から大事なものを奪わないでくれ……)
 


 
 「ミリは見つかったか?」電話を受けた久太郎が店に駆けつけてくれた。
 「悪いな久ちゃん、手間ばかりかけて……」
 「挨拶は後だ。組織に動きはなかった。それと、エミリアっていう女の子と紋章の事だが」
 そう言って久太郎がタブレットを見せる。そこにはミリにくれた帽子をかぶったエミリアの横顔が映っていた。
 「ユーリア公国の王女だ」
 「王女?!」
 「ま、公国と言ってもまだ国連で正式に認められているわけではないようだ。中東の小さな国で、今、皇太子のファラーズが来日している。先日亡くなった妃は日本人だったらしい」
 「まさかな、確かにいいとこのお嬢様だとは思ったけど……」
 「それで、これが頼まれたものだ」久太郎は肩から掛けていた大きな黒い鞄をカウンターの上に広げた。
 「さすがに実弾ってわけにはいかないから、ゴム弾を用意した。それでも、気絶させたり動きを封じることぐらいははできる。それと、煙幕弾。そして、ナイトスコープだ」
  最後に久太郎は、あと着替え、と言って足元の大きなボストンバッグを指さした。
 「組織じゃないんだったら、一体だれがミリを」怒りを滲ませた零が言った。 



 「エミリア様、お部屋にいらしたんですね!」息を切らしたハセガワが部屋に飛び込んできた。
 「部屋にって、見張りがついてて窓も開かないこの部屋からどうやってる出るのよ!」
 「とりあえず、ファラーズ様が急ぎの御用でお呼びです、すぐにいらしてください」
 「お父様が?」父は今仕事中のはずだ。仕事中に自分に用事があるはずなんかない。怪訝そうな顔のまま、ハセガワに促されて部屋を出た。
 『おお、エミリア無事でよかった』画面の中の父上が挨拶もそこそこに、声をかけてきた。「無事」という言葉に違和感を覚える。 
 「お父様ごきげんよう」 
 父上はいつも、「エミリア健勝か」と声をかけてくる。凛と伸びた背筋と研ぎ澄まされた太刀のように鋭い眼光の父は、近寄っただけで切れてしまいそうだった。 
 かあさまが亡くなった時にも、涙も見せずいつもと変わらない様子のだった父上。しかし今日は、若干の動揺が感じられた。
 「父上、どうかなさったのですか」
 『いや、お前が無事ならそれでいい』
 父の後ろで、「一体どうなんているんだ!」「じゃああれは誰なんだ?」と側近がざわついている。その言葉の中に、「しかし、かぶっていた帽子は確かにエミリア様の……」
 「え?! 帽子?私の帽子がどうしたんですか?」
 『いや、なんでもない。急に呼び出して悪かった自室に戻ってよい』
 「お父様待って、帽子って白くてターコイズブルーのリボンの帽子ですか?それ、私がミリにあげたものです!」


  一騎 零 久太郎の3人は零のスマートウオッチのGPS機能を利用してミリの足取りを追っていた。しかし、途中で電源が切れてしまったらしく山中の道の途中でその足取りが途絶えていた。 
 「くそ、こんなことならちゃんと充電しとくんだった」悔しがる零。 
  そこに店のドアを開けて誰かが勢いよく入ってきた、エミリアだ。
 「エミリア!どうして?」
 「ミリがミリが、私と間違えて誘拐されたの!」そう言うと、一騎パパごめんなさい!とすがってエミリアは号泣する。
  ユーリア公国では今お家騒動が起きている。現国王を取り巻く旧臣派と、いつまでも石油ばかりに頼らずに新しい道を築こうとしているファラーズ皇太子を中心とした若手の大臣達との争いだ。
  ファラーズ皇太子は若い頃から留学をして見分を広めていた、そして立ち寄った日本で見染めたエミリアの母親を妃に迎えてしまった。あわよくば自分の娘をと思っていた旧臣も多く反感を買っていた。
  今回、まだ正式に国と認めらていないユーリア公国の力になって欲しいとファラーズ皇太子はとお忍びで日本を訪れており、それに同行してきたエミリアが狙われたらしい。 
 「組織じゃなかったんだ」少しだけ安堵の色を見せた零の肩に、一騎がポンと手を置く。


  久太郎が持ってきた、上下真っ黒な狙撃手のような作業着と防弾チョッキを身にまとい、ナイトスコープを首にかけた二人の姿にユーリア公国の面々は戸惑いを隠せない。
 「あなたたちは一体……」
 「いや、ちょっとそっち方面に詳しいだけです」
 「サバイバルゲームの趣味がおありなんですね!」ハセガワが納得したように頷く。
 「ま、そんなもんです。ただ、こいつらはそこいら辺の殺し屋より腕はいいですよ」ウインクをして見せる久太郎。
  「「久ちゃん!!」」  
 「調べたところ、ここから少し離れた山の中に、旧臣派の愛人が持っている別荘があるんです。もしかしたらそこにいるんじゃないかと」
 タブレットの地図で、ミリの足取りが途絶えた山道の少し先き辺りををハセガワが示す。
 「主犯は、旧臣派の国防大臣直属の部隊だと思われます。気を付けてください」ハセガワが声をかけた。
 「一騎パパ、零パパ。本当にごめんなさい。私がミリに帽子をあげたりしなければ……」
 「エミリア、顔をあげろ!」
 「……」泣きはらした顔で一騎を見上げるエミリア。
 「エミリアは何も悪いことはしてない。ミリは帽子をもらって本当に嬉しかったんだ。だから雨だからって止めたのに、あの帽子をかぶって出かけていったんだ」
 「うん」
 「悪いのは、小さな子を攫って大人の事情に巻きこんだ奴らだ。違うか?」
 「うん。でも、軍隊が相手なんて。二人に何かあったら、私ミリにどう謝ったらいいか……」
 「別にエミリアが謝る必要なんてないよ」零がエミリアの頭に手を置いて笑う。 
 「そうさ、相手なんて誰でも構わねえよ!俺達は搔っ攫われた大事なものを取り返しに行くだけだ!」
 一騎と零は久太郎と軽くハイタッチをすると、エミリアたちに見送られてミリを救出に向かった。


雨にけぶる森に潜む二つの影。一騎と零だ。
 その視線の先には、森の中にひっそりとたたずむコテージがあった。



  二人が到着する数時間前のコテージのリビング。
 「それにしても、首尾よく進みましたな」
 「うちの連中からしたら、朝飯前ですよ」