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【Buddy Daddies】NEVER LOST YOU

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 後から入ってきた眼鏡の男が状況を説明し、電話の場所まで誘導した。
 『電話を掛けるふりをして状況を報告しろ』インカムから久太郎の声がする。
 「あ、店長?注文の確認なんですけどぉ~。箱の外が3で~、箱の中も3らしいんですけど、なんかもう一箱あるみたいで、それがあたりですかね~?」
 『建物の外に3人、部屋の中に3人、その部屋以外の部屋にミリがいるってことだな?』
 「あ、そうなんですよ~。あ、はい。あ、はいわかりました~」適当な芝居で電話を切り、「もう一箱取ってきます」と言ってコテージを出た。

 バイクの荷台に残ったピザを手にすると久太郎に連絡をする。
 「一度表に出てきた。もう一度入れるけどどうする?」
 『レンタカーを借りた人物が特定できた。ユーリア公国の旧臣派の事務官だ。ハセガワさんの確認も取れた。やはり、ユーリアの旧臣派の犯行で間違いない。うかつに相手を傷つけるわけにはいかなくなった』
 「そんなこと言ったって、現にミリは!」インカムの向こうで零が叫んだ。
 『落ち着け零。さっき渡した発光弾あれを使う』
 「???」
 『送電システムにハッキングをした。一騎がピザを届けにもう一度家に入ったタイミングでその区画の送電を止める。零はそれを合図に発光弾で外の見張りの視力を一瞬奪って、拘束しろ。一騎も、中の3人を発光弾で目くらましをした後、拘束するんだ。できるな?』
 納得がいかないのか二人とも返事をしない。
 『わかってるのか?下手に怪我をさせると国際問題になりかねない相手だということを忘れるな!』 
 それでもまだ返事をしようとしない二人に久太郎は静かに言葉をつづけた。
 『ミリの前で派手にドンパチするような真似はするなと俺は言ってるんだ。わかるか』
 ミリの名前を出され、一騎は覚悟を決めたように顔をあげた。
 「わかった久ちゃん、じゃあこれから向かう。部屋に入ったら合図を出す、よろしく」
 『任せておけ』
 近くの茂みに身を潜めていた零は、一騎と一瞬目を合わせ無言でうなずくと身を低くしてまた夜陰にまぎれていく。その姿を見送ってから一騎はコテージに向かった。


 「さーせん、残りのピザをお届けに上がりました~」
 ドアの前で一騎が声をかけると、すんなりとドアが開きさっきの眼鏡の男が出てきた。ピザを受け取ると、代わりに千円札を突き出してきた。
 「あ、今おつりを渡しますね~。なんか暗くて見えないな~。ちょっと部屋の中の明るいところで見てもいいですか…」
 そういってまたずかずかと部屋に入って行った。リビングではピザを広げたテーブルを囲んで食事が始まろうしていた。
 「えっと…」おつりの小銭を渡すふりをして下を見た一騎が小さく叫ぶ。
 「今だ!」その声を合図に、一斉に電気が消えた。

 

 漆黒の闇に包まれたコテージの周りにいた男達は、ヒュンッヒュンッヒュンッっと立て続けに耳元をかすめる音に一瞬身を固くするがすぐ音のする方に銃を構えようとした。
 だがその瞬間。 辺り一帯が一瞬真昼になったのかのような強烈な光の塊を目にし小さく唸った。慌てて目を瞬くが目の前に光の残像が立ちはだかり何も見えず、刹那、首筋に衝撃が走り意識を失った。 
 零が正確な狙撃術で3人の見張りの注意を一つの方向に向け、その直後に発光弾を放ったのだ。手際よく3人を後ろ手に拘束し近くの樹に括り付けた。

 一方一騎は、男たちが囲んでいたテーブルの上で発光弾を放った。あまりの近距離で放たれた強烈な光に包まれた男たちは、目の痛みに思わずうなり声をあげてのたうち回る。
 「ちょっと近かったか?自業自得なんだよ!」一騎は一言吐き捨てると、男達の間を身軽に飛び回って気絶させると手際よく拘束し、リビングの端の柱に括り付ける。
 「久ちゃんいいぞ」一騎の声に応えるように、電気が点く。
 一騎が隣の部屋へ続く引き戸を開けると、奥におかれた椅子に拘束されたミリの姿を見つけた。
 「ミリ!」
 駆け出した一騎の横をすり抜けた零が、ミリを縛り付けていたロープを切る。椅子からぐったりと転げ落ちそうになったミリの体を一騎が慌てて受け止めた。
  ミリを保護したその足で、一騎と零はクマ先生(クリスマス会の後に二人がお世話になったお医者さん)の所に駆けこんだ。事情を聞いたクマ先生はなかなか目を覚まさないミリを注意深く診察してくれた。
 先生の話だと、ミリは体の割に少し強すぎる薬を使って眠らされているらしい。相当怖い思いをしたとは思うが、多分拘束されていた時間のほとんどを眠っていたと思われるのは、不幸中の幸いだ。
  今回の事は、本人が話し出さない限りあえて触れないようにとのことだった。



 帰国前に遊びに行くね!というエミリアからの連絡があり、Dinnerの前で待っていた3人の目の前に、豪華なリムジンが横付けされ一騎と零は驚愕した。
 運転手が回り込んでドアを開ける前に、後部座席のドア開き転がり落ちるようにしてエミリアが飛び出してくる。車道側のドアからは、背の高い男の人がゆっくりと降り立った。
 「ミリ!ミリ!ミリ!ミリ!」
 エミリアは、懺悔の気持ちを表すように今にも泣きそうな顔をしている。
 「エミリア」一騎が唇に指を立てて首を振り、ウインクをする。
 エミリアの気持ちはわかるが、今は事件の事に触れてほしくなった。
 それを見たエミリアは、小さく頷くと無理やりクッと口角を上げ、泣き笑いのような顔で
「すごく会いたかったよ~ミリ!」と言って抱き着いた。
「ミリも~!!」ミリはくすぐったそうに笑って抱き着き返した。

 感動の再会を見守る大人が、一騎と零の他にもう一人いる……。
 (誰?)
 (え?なんで俺に聞くんだよ!)
 (だってなんかオーラが……)
 (確かに……)
 ミリ達が、お絵かきする? する~!と意気投合して店の中に駆けこんで行くと、仕立ての良さそうなダークスーツを身にまとった長身の紳士がゆっくりと一騎と零の方に向き、深々と頭を下げた。
 ((ギョッ!))
 「ご挨拶が遅れました、初めてお目にかかります。エミリアの父親のファラ-ズと申します。この度は大変なご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」
 「ファラ-ズって……。こ、皇太子…様?!」
 「あ、あの、頭をお上げください!た、立ち話もなんですから……、あ、改装中で散らかってますが」

 「あの、とりあえずお掛けください」
 一騎がそう促すと、皇太子はカウンターの椅子に腰かけた。すぐ横のテーブルでは、ミリとエミリアが何かを描いていた。時々顔を寄せあった内緒話をしてはケラケラっと楽しそうに笑っている。
 「本当にあなたたちにはなんとお礼を述べていいかわかりません」
 「いや、俺たちは自分の大事なものを取り返しに行っただけですから」
 すると皇太子は、ゆっくりと首を振った。 
 「???」訳が分からず顔を見合わせる二人に、ファラーズが静かに語った。 
 国防大臣直属の精鋭部隊が、たった二人の工作員の手によって一瞬で拘束された。
 しかもけが人もなく、無血で解決したというニュースは、あっという間にユーリア公国に伝わった。