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天藍ノ都  ──天藍ノ風──

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 だが、誉王妃の衣装は、誉王妃の人柄を表しているようで、楚々とし、嫋やかで、よく似合っていた。
「藍謹、今日の装いは、よく似合っているわ。」
 珍しく越貴妃が、誉王妃にそんな声をかけた。
 誉王妃の装いは、人に『敵意』というものを忘れさせた。
 人々は、誉王妃 朱藍謹の姿に、何故か安心感を覚えるのだ。


 誉王は元々、越貴妃に対抗すべく、誉王妃には更に豪華な衣を、用意しようとしていた。
 打ち合わせの為に、蘇宅を訪れた際に、誉王は、たまたま側にいた、藺晨に言われたのだ。
(長蘇は藺晨を、『ただの知人』と紹介した。)

『着飾る事ではなく、如何にその人の内面が表われるか。
 内面が素晴らしければ、華美な衣など不必要』

 誉王はそう言われて初めて、誉王妃らしい装いよりも、朱藍謹らしさを表現しようと思った。
 これまで全て、妃の衣装は、誉王が見繕っていたのだが。
 一流の豪華な衣や装飾品を贈っても、誉王妃には、洗練された華やかさが欠けていた。
 豪華絢爛な刺繍や宝石も、誉王妃が纏うと、何故か本来の輝きが霞んでしまうのだった。

『らしさ』

 後日改めて、誉王は、妃の物を誉王妃と二人で選んだ。
「好きな物を合わせて」と、誉王は口を出さずに、見守っていた。
 誉王妃が、真っ先に手に取った布地を、誉王妃は侍女に当ててもらい、鏡で自分の姿を見た。
 ほぅ、っと、誉王妃の頬が緩んだのを見逃さなかった。

 «そうか!、我が妃の好みは、こういった優しく温かみのある布地なのか!。»
「では、こちらの布地はどうだ?。」
 誉王が妃に、別の布地を勧める。

 好みが分かれば、誉王の判断は早い。
 より似合う色の布地を、直ぐさま選んだ。
 選んでもらった布を当て、誉王妃の表情が、ぱっと煌めいた。まるで少女の様だった。
 その表情に、誉王は胸を締め付けられた。
 娶ってから、初めて見せた誉王妃の表情に、甘酸っぱいもので、胸がいっぱいになった。
 «、、、なんて愛らしい顔をするのだ。»

 誉王妃が喜ぶ様、二人で仕立てた衣が、今日の誉王妃の装いなのだ。




 さて、こちらは靖王と霓凰。

「やだ、始まったわ。終わらないやつ。」
 皇太子と誉王の諍いは有名で、霓凰もまた知っていた。
「せめて私達が挨拶してから、始めて欲しかったわ。
 見て、このうんざりした背中。」
 霓凰が目配せで、長い長い行列を指した。
 確かに、列の人々の肩はがっくりと落ち、日暮れまで、このやり取りを聞かねばならぬという、不幸感を漂わせていた。

「あら!。」
 列の中程から、身なりの良い若い男が一人、離れていった。
 従者二人に代わりに立たせ、列が動いたら、一人の従者が、宴の会場にいる主を、呼び戻す算段なのだろう。
 世間知らずな、何処ぞの公子といったところだ。
「やるわね。」
「あはははは、、。」
 それを見まねて、一人、また一人と、列から離れていった。
「靖王殿下、私達も行きましょ。」
「あ?、我々に従者はいないが、、。」
「ここで拱手したら、挨拶したっていう事よ!。」
 霓凰は、皇太子と誉王に向かって拱手をし、靖王に笑ってみせた。そして颯爽と宴の開かれている、中庭に向かって歩き出した。
 靖王は片手で拱手をして、霓凰の後に続く。

 一つに纏めた長い髪を揺らし、堂々と歩く霓凰の姿に、何故か林殊を連想した。

━━そう言えば、昔もこんな風に三人で、あちこち抜け出したりしたのだ。

 あの時は、小殊が先頭で、霓凰と私が後に続いたが。━━

 くすりと靖王が笑った。
━━そして見つかって叱られて、、、。
 何故か、私ばかりがよく叱られたな。━━

 くすくすと笑う靖王に、霓凰が気付く。
「あははは、、、昔みたいね。
 良く三人で抜け出したり、忍び込んだり。」

 霓凰もまた、同じ事を考えていたのだ。

 霓凰は今、林殊の後ろを歩いている。




 颯爽と衣を揺らし、足早に歩く林殊の後を、霓凰と靖王が付いていく。

 林殊が何かをしでかす時の、わくわくとした気持ちを思い出した。
 いつも三人一緒で、いつも林殊の『悪さ』の道連れになった。

 霓凰は林殊の言うなりだった。
 靖王は『悪さ』と知っていても、三人でやる事が楽しすぎて、一人だけ抜け出すなんて、出来なかった。
 靖王は、周りからは、品行方正と思われていた。どういう訳か、幾らか年上の靖王が、叱られる的になったものだ。






 中庭に差し掛かる辺りで、人垣が出来ていて、時折、歓声が上がる。
 どうやら、武人同士が、手合わせをしている様子だ。

 人垣の上から、時折、空中戦をする武人の姿が現れる。
「あら!、飛流と蒙大統領だわ。」

 飛流の繰り出す手刀に、笑いながら応戦するのは蒙摯だった。

 飛流が間合いをとって、蒙摯を睨みつけ、大きく呼吸をした次の瞬間、蒙摯に向かって飛び、痛烈な右の一撃を繰り出した。
 ところが飛流は、右の拳で攻めたと見せかけ、左の拳が肩の急所を狙っていた。

 蒙摯は、二段構えの飛流の攻撃を予見していて、飛流の拳を軽く躱したが、実は本命は、その直後に繰り出した左足だったのだ。

「うっ!!。」
 それに気がついた蒙摯の背中に、冷汗が噴いた。
 蒙摯の腰に飛流の左足が、綺麗に入ると思われたが、そこは琅琊榜二位の蒙摯。
 体を捻り、何とか蹴りを避けた。
 蒙摯はきりきりと宙を回り、そのまま飛流の側から離れた。

 一際、大きな響(どよ)めきが上がる。
「この私を後退させるとは!、飛流!!。」
 絞り出すような声で、蒙摯が言ったが、その表情は、どこが嬉しそうだった。

 飛流は腕を組み、生意気そうに、顎を上にあげて蒙摯に言った。
「おじさん、来いよ!。」
「何だと!、飛流!!。」

「わははははは、、」
 その、無邪気で生意気な飛流の態度が、何とも可愛らしく、周囲はどっと湧いた。


 誰もがこの二人を見て、心揺さぶられていた。
 琅琊榜の頂点に、最も近い男と、名も無き少年が、これ程の手合わせをしているのだ。
 霓凰もまた、震えていた。
 武人としての血が騒ぐのだ。


「飛流は、こんなに強いの?」
 側にいる靖王に尋ねた。
「ああ、、靖王府の調練場で、見かけただけだが、飛流は強い。
 蒙摯と夏冬が、褒めていただけはある。」

 霓凰は、飛流の手合わせを、見るのは初めてだった。
「ええ、、冬姐から聞いてはいたけど、こんなに強いなんて。」
 そう言いつつ、霓凰は、嬉しそうに笑っていた。
 腕がウズウズとして、堪らない様子だ。

「靖王殿下!、私達も、手合わせをしてもらいましょう!。」
「いや、、私はいい。」
「そう?、なら失礼するわ。
 飛流!、次は私よ!!。」
 そう言って、舞台の上に、飛んでいった。
 飛流も、やる気満々の様子で、構えている。

「おお!!!、霓凰郡主だ!!。」
「最近、達人坊の順位を上げたと聞いたぞ。」
「大統領と、あれだけやり合う飛流だぞ。あの子供に、郡主は負けるのでは無いか?。」

 野次の言葉に、霓凰は笑って言った。
「あははは、、、、。
 私が負けたら、私の順位を飛流にあげるわ。
 さぁ、飛流!、遠慮は要らないわよ。」