黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 29
ロビンは、ソルブレードの切っ先をデュラハンの体に浅く突き刺した。
「ぐうっ、止めろ! それ以上は死んでしまうぞ!」
「ふん」
ロビンは、デュラハンの命乞いを無視し、ソルブレードを更に突き刺した。
そしてロビンは、デュラハンの最後の魔脈を潰した。
「これで貴様の永遠の命と無限の回復手段は失われた。覚悟しろデュラハン」
ロビンは、突き刺していたソルブレードを抜いた。デュラハンからどす黒い血煙が上がった。そのまま止めを刺すと思いきや、ロビンはソルブレードを納め、腕組みをした。
「ロビン、何をしているのです!? 早くデュラハンに引導を渡すのです!」
ロビンの不可解な行動に、イリスは叫んだ。
「こいつには随分と世話になったんでな。すぐに殺すのは容易いがそれじゃオレが満足できないからな。懺悔の時間を与えつつ少しずつ死に至らしめる……」
ロビンの目的は、拷問の後にデュラハンを殺すことであった。
「そのような事をする必要はありません。すぐに止めを刺しなさい、ロビン!」
イリスは、早急の止めを訴えた。
「イリスの言う通りだ、ロビン! すぐに止めを刺せ! また何か仕出かすかもしれないぞ!?」
シンは叫んだ。
「ふん」
ロビンは、デュラハンの左腕を弾いた。
「グオオオ!」
「いい声だ、デュラハン。その調子で頼むぜ。さて、次は足をもらおうか」
仲間達の言葉を無視し、ロビンは拷問を始めた。
「止めるんだロビン! 一思いに殺すんだ! アネモス神殿での事を忘れたか!?」
シンは、アネモス神殿でのデュラハンの奸計を、ロビンに思い出させようとした。
不意に、シンに向かって石が飛んできた。その速度は天眼の能力があるシンでやっと捉えられるもので、その威力は比例して、人の胴体を貫けるほどだった。
「ごちゃごちゃうるせぇぞ。あんまりオレの邪魔しようってんなら、土手腹に風穴空けるぞ」
ロビンのやった事、それは無詠唱エナジーであった。シンに当たらないように、それでいて威力は十分殺傷できるほどだった。
ーーロビンの様子がおかしい。破壊衝動は制御できるようになったはずなのに……ーー
シンが思うように、ロビンはおかしかった。まるで何かに操られているかのようである。
ーー操られる? まさかデュラハンが何かしたのか!?ーー
オロチとの融合も解けて、戦う力も残っていないように見えたデュラハンであったが、ロビンの様子の変化を鑑みるに、またデュラハンの奸計はまたなされているようだった。
ーー策は成った。後はこやつらが潰し合うのを待つだけだ……ーー
デュラハンはやはり、奸策を擁していた。ロビンに残る僅かな邪気を増幅して破壊のロビンに立ち返らせていた。
「あなたの思い通りには行きませんよ、デュラハン!」
イリスは癒しの光を放った。
「うっ、眩しい!」
癒しの光は、ロビンを包み込んだ。
「……っは! オレは一体何を……」
同時にロビンの邪気が消えた。
「デュラハン、上手くロビンに宿る邪気に漬け込もうとしたようですが、残念でしたね。私がいるかぎりそうはさせません!」
最早デュラハンの逃げ道は完全に絶たれた。そう思われた時だった。
突如として、デュラハンの周りに霧が立ち込め始めた。
「何だ、急に霧が奴を……!?」
霧の勢力は果てしなく、デュラハンを中心に立ち込めているのみならず、部屋中をも真っ白にしてしまった。
「これじゃ何も見えねぇぞ!」
ロビン達の視界は完全に霧に奪われてしまった。
「くそ、どこだデュラハン!? 逃がしはしないぞ!」
ロビンは叫ぶが、返ってくる言葉はない。もう既にデュラハンは霧に乗じて逃亡をはかったと思われた。
霧の発生源であるデュラハンがいなくなったことで、オロチを祀る祭壇の間の霧はやがて晴れていった。
「くそ! また逃がしたか……!」
デュラハンの術中にはまりかけたロビンは、デュラハンの逃亡を許してしまったことを悔やんだ。
「オレがしっかりしていれば、倒せたはずなのに……!」
「ロビン、そう自分を責めるな。魔脈は潰した上に両手を叩斬ってやったんだ。どこへ逃げようが助かりはしないさ」
シンは言った。
「さあ、帰ろう。オロチも封印した。ここにもう用はないだろう? 姉貴も外で待っているだろうさ」
シンは、真っ先にガイアロックの外へ向かい始めた。しかし、ロビンはまだ立ち尽くしていた。
「どうした? まだ気にしてるのか? もう大丈夫だって、行こうぜ」
立ち尽くしていたのはイリスもだった。
ーーあの霧は、デュラハンの出したものではありません。デュラハンにあのような能力はないはず……ーー
イリスは考え込んでいた。
「イリス、デュラハンの奴が出した霧が気になるのか? 実はオレもなんだ。あれは、エナジーから出たものだ」
突然発生した霧の正体は、エナジーによるものだとロビンは感じ取っていた。
しかし、デュラハンは地のエレメンタルに属する存在であり、水のエナジーは扱いかねる。
水のエレメンタルに属する何かが、デュラハンを逃がしたと考えるのが普通であった。
「……何か、良くないものがデュラハンに宿っている。ですがそれは一体……?」
「ここで気を揉んでいても仕方ない。あの傷じゃあどうせ助からない、気になるのは分かるがここは引こう」
「そう……ですね」
ロビンとイリスは、先に行ったシン達を追って祭壇の間を後にした。
祭壇の間に、いつの間にか水溜まりができていた。雨などが流れ込むことなどありえないこの部屋に、横たわった人ほどの大きさの水溜まりがあった。
突如として、水溜まりに生き物の眼のようなものが浮かび上がった。
ーー良くやりましたね、ロビン。全ては計算通り……ーー
水溜まりから意思のようなものがすると、水溜まりは蒸発し始めた。
水溜まりは、からりとすぐに乾いてしまった。
祭壇の間は、石化したオロチのみを残し、静寂に包まれた。
戦いは終わったがしかし、一つの謎が残ったままだった。
※※※
デュラハン討伐の四人は、イワンの力で船まで戻ってきていた。
「そうですか、デュラハンはまたも逃亡を……」
ハモが言った。
「またオレは奴の術中にはまるところでした。シンを殺しかけてしまったんです……」
ロビンは、悔しそうに言った。
「まあまあ、最悪の事態になるのは防げたんだから気にしないの、ロビン」
慰めるのはヒナであった。
「けれども、妙な話ね。デュラハンから霧が発生するなんてね。デュラハンにそんな力はなかったんでしょ、イリス」
「はい、私がかの者を相手にした時、そんなことはできませんでした」
イリスは答えた。
「ふーん、怪しいわね。霧は水のエナジーだし、デュラハンは地のエレメンタルに属すし、何かの存在は疑わしいわね……」
「そんなことどうでもいいわよ! デュラハンはどこに言ったっていうのよ!?」
メガエラが大声を上げた。
「メガエラさん」
「どうか落ち着いて……」
アズールとユピターがメガエラを宥めようとした。
しかし、メガエラは聞く耳を持とうとしなかった。
「ここで見てたわよ。もう一本の腕を弾き飛ばし、魔脈も全部潰したっていうのに逃がすなんてどういうこと!?」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 29 作家名:綾田宗