特別への一歩
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艇に帰還するなり、グランの指示でガウェインはカリオストロのもとで治療を受けた。
放っておけば治ると言い張ったのだが、世話焼きな王が頭部の裂傷のことを伝えてしまった為、既に止血されていたが改めて治してもらうこととなったのだ。
そして。
「…ガウェイン殿、失礼しても良いであろうか」
とうとう、夜になってしまった。
皆が寝静まる頃、ガウェインの自室の扉が控えめにノックされ、くぐもった声がかかる。
心拍数が跳ね上がる……といった現象は特に起きない。何故なら、日が沈んでからこっち、とうに心臓は早鐘を打ち、全身しっとり汗までかいているのだから。
逆に心肺が停止しそうなほどの緊張が全身に走るが、努めて冷静に見えるようそっと扉をあけた。
ネツァワルピリは簡素な平服姿で、背中まで届く長い髪はひとつにまとめている。…口には出さないが、格好良くて困る。
「…入れ」
ぼそっと短く言うだけで、顔を直視せずとも相手がぱっと笑顔になるのがわかった。
なんとなく照れ臭くて仏頂面になってしまうが、ここで愛想良く笑い返すことなど自分にはとても出来ない。
部屋に招き入れたものの、こういうときどこに座り、どこに座って貰えばいいのか判断がつかず焦っていると、不意に背後から抱き竦められた。
「…漸く、お主と二人になれた。」
甘い声が、耳朶を叩く。
この声音が醸し出す色気に、自分は弱い。
「続きをしても……良いであろうか」
「い、いちいち訊くな」
つっけんどんに返すが、頭の中は大混乱だ。
続き?
昼間のアレに続きなんてあるのか?
そういえば口の中を…お、犯したいとか言っていたが、そのことを言っているのか?
ぐるぐると答えの出ない問いを重ねていると、ネツァワルピリに身体を反転させられ、軽く押されて壁に背を預ける形になった。
向かい合って改めて、体格差を突きつけられる。
見上げるのが恥ずかしくて顔を俯けていると、節が目立つ長い指に顎を掬い上げられた。自然と上を向かせられ、優しく唇を重ねられる。
ちう、と下唇を吸われると胸が痛むほど心拍が跳ね上がり、後頭部を壁に強かに打ちつけた。
「…ガウェイン殿。口を……開けてはくれまいか」
「っ…」
指先でつ、と唇をなぞられる。
ぞわぞわと、味わったことのない悪寒にも似た感覚が肌を駆け巡り、口をひらくどころか強張って真一文字に引き結んでしまう。
「こら、力を抜かぬか」
困ったように小さく笑ったネツァワルピリの親指が、少々強引に口唇を割り入ってきて距離を詰められ、僅かに生じた隙間から舌を捩じ込まれる。
侵入してきた肉厚な舌の感触にぞわりと肌が粟立ち、奥に引っ込んで縮こまるガウェインの舌にそれが絡みついてきた。
ちゅくちゅくと音を立てて断続的に吸われると、無意識に止めていた息が鼻から抜けてまるで誘うような甘さを含んだ音が喉から溢れる。
ネツァワルピリが角度を変え、より深く繋がりを求めて身体を寄せてきた。
壁を背にしているこちらには逃げ場などあるはずもなく、更に上を向かされて気がつけば爪先立ちになっていて。不安定な身体を支えようと、縋るように相手の袖を掴んでしまう。
「ふ……ぅ、」
はしたなく溢れる唾液が気になって仕方ない。
俺は今酷い顔をしていないだろうか。幻滅されてりしないだろうか。
取り留めのない不安が胸中に渦巻いていく。
しかしそんなことを知る由もないネツァワルピリは、容赦なくこちらを攻め立ててくる。
舌同士を擦り合わせたかと思うと、上顎を擽ぐり。
舌の裏筋を舐め上げては、痺れるほど強く吸ってくる。
完全に翻弄され、呼吸が上擦り思考も麻痺してきた頃。
徐に奴の手が、こちらの雄を服の上からそっと撫で上げた。
「んっ…!?」
ガウェインのそれはしっかりと立ち上がっており、慌てて相手の手首を掴んで押し留めるが、形を確かめるようにまさぐられると健気にもその刺激を拾ってしまう。
口付けだけで反応している己がひどくいやらしく思えて、そんな自分を見られていることに耐えきれず、深すぎる口付けから必死に逃れた。
「っぷは…!さ、触るなっ…」
口では拒絶しつつも、身体は快楽に喜んでいるのがわかる。
それが相手にも伝わってしまっていると思うと、怖かった。
ガウェインが顔を逸らして歯を食いしばり、どうにか彼と壁の間から脱しなければと焦っていると、足の付け根にぐっと固いものが押しつけられてまさかと視線を遣る。
案の定、衣類を堂々と押し上げたネツァワルピリの熱芯が当たっていた。
「……我もこのとおり。逃げずとも良い」
「な……、」
絶句したまま凝視していると、ネツァワルピリの腰が控えめに前後して雄がずり、と股関節を擦った。たったそれだけなのにぞくぞくと甘く危険な快感の波が中心に集まり、自身のものもウェアの中で窮屈そうに主張する。
「ガウェイン殿…、不快ならば、遠慮なく突き飛ばしてほしい」
「ッ!」
ネツァワルピリの手が、ゆっくりとこちらの下腹部を這って衣類の中に潜っていく。
下着に指先が触れ、窺うような視線を向けられるが反応らしい反応などできなくて。
直接触れられる前から甘ったるい吐息が漏れてしまいそうで片手で口元を覆い隠すが、ネツァワルピリはそれを一瞥すると更に手を忍ばせていき、陰毛を掻き分けてそっと肉棒に触れてきた。
途端、雄がぴくりと跳ねるように震える。
熱い。
絡みついてくる彼の指先が、熱くて、気持ちいい。