英雄
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夜とはいえ抱えられて街中を闊歩されるのはさすがに恥ずかしかったのか、ガウェインは別にそこらへんの宿でいいだろうと進言してきたのだが、仮に知り合いが近くにいて物音や声が聞こえても具合が悪いだろうと言うと黙りこくってしまった。
抵抗もなくなりすっかり大人しく腕の中で縮こまる愛しい男を、ネツァワルピリは停泊していた騎空艇の自室まで連れてくると寝台の上に丁寧に下ろす。
そのまま相手に覆い被さるように手を突き、身を沈めて唇を合わせた。
言葉もなく口付けを落とされたことに驚いたのか、ガウェインは肩をぴくりと跳ねさせたが薄く口唇をひらいて受け入れてくれる。
そのままやや強引に舌を捻じ込み、不遜な物言いの割には小作りな男の口腔内を暴き倒した。
「は、ぁ……ぅ、」
懸命にこちらの舌の動きについてこようとする男が愛おしくて堪らない。
下腹部に集約してくる欲が素直すぎて我ながら呆れてしまう。
舌をきつく吸い上げ、その裏筋を舌先で優しく擽りながら、そっとガウェインの脇腹を手のひらで撫で下ろしていく。
するすると手を下降させていき、インナーの裾に指先を潜らせるとさすがにびくりと男の身体が反応した。
「ばっ…、やめろっ」
口付けから逃れて上気した顔を顰め、必死に衣服を下げようとしてくる姿が嗜虐心を刺激して仕方ない。
ネツァワルピリは勝手に上がっていく口角を収めることもせず、ガウェインの抵抗を無視して思いきりインナーを胸の上までたくし上げた。
次いで露わになった胸の飾りに親指の腹を這わせ、触れるか触れないかという力加減で擦っていく。
「このっ、貴様…どこを触って…!」
顔を真っ赤にして悔しげに歯噛みする姿がまた可愛らしい。
しっとりと汗ばんだ肌が手のひらに吸い付いてくる感触を楽しみつつ、すりすりと弱く優しく突起を弄ってやると、徐々にガウェインの呼吸が浅く上擦ってきた。
やや垂れ目がちな双眸を苦しげに細めて、髪と同じ色の眉を潜めて赤面する姿は扇情的で堪らない。
誘われるようにネツァワルピリは相手の顔の横に鼻先を寄せ、これまで鎧で禁欲的に隠されていた白い首筋をべろりと舐め上げた。
…ああ、肌が甘く香るようだ。滲む汗すら甘い。
理性をかなぐり捨てて、このきめ細かい肌に歯を突き立ててしまいたくなる。
ちらりとガウェインの表情を窺うと目尻にうっすらと涙が光っていて。ネツァワルピリはぎくりとして動きを止め、衝動を捩じ伏せて顔を上げた。
「…ガウェイン殿?」
「そ、それ……やめろ…」
熱っぽい吐息混じりに呟くガウェインの視線は、自身の胸元に向けられている。
そこではネツァワルピリの親指が、休むことなく胸の突起を刺激していた。その甲斐あってか、確かな硬度をもってそれはぴんと勃ち上がっている。
「ふむ。…何故?」
努めて素知らぬ振りをして問うと、ガウェインはぎゅっと目を瞑ってつらそうに口をひらいた。
「…っ、か、痒いんだ…」
「……。それは難儀であろう。我が掻いてやろうぞ」
言いながら、親指の先で軽く弾いてやる。
「んあっ!」
健気に反り返る背中に、ネツァワルピリは思わず生唾を飲み下した。腹の底を押し上げるような欲の波を奥歯を噛んでやり過ごし、爪の先を立ててかりかりと引っ掻いてやる。
「あぁぅッ……やっ、やめ…!」
「痒いのであろう?それとも、いま少し強くした方が良いかな?」
すっかり熟れて固くなった先端に意地悪をしたくて爪を立てた指先をぐっと押し込むと、ガウェインは身を捩ってこちらの手首を力なく掴んでふるふるとかぶりを振った。
「か…かん、で……くれ…っ」
「ん?」
いっぱいいっぱいになりつつ必死に何かを懇願してくる相手の訴えを傾聴しようとしかけたネツァワルピリだったが、訊き返した直後はたと合点し、その姿勢のまま凍り付いた。
…今、ガウェイン殿はなんと…?
噛んでくれ…と聞こえたのは気のせいではないだろう。
勢いよく相手の表情を窺うと、可哀想なほど赤面した目元に腕を乗せて隠していて。
これはやはり…
聞き間違いなどではあるまい。
まさかそんなお願いをされる日がこようとは夢にも思わず、ネツァワルピリは戸惑いのままに口を開いた。
「ガウェイン殿……その、お主の…乳首を、噛めと…?」
「っ…そうだ!さっさとしろ!」
…よもや噛みつきたいという心の声が出てしまっていたわけでもないだろう。
え、いやしかし本当に噛んで良いのか?
相手はあのダルモアの英雄でここはダルモアだ。ここの民にとって彼は象徴的な存在であって、改心した今決して穢してはならない対象なのでは…
と。
そこまで考えたところでネツァワルピリは思考を放棄した。
恥を忍んでこの気高い青年が頼んできたのだ。何を躊躇うことがあろうか。
ふー、と細く長い息を吐き「痛みがあればすぐに教えて欲しい」と低く彼に伝えて、筋肉が程よくついた胸に噛みついた。
「んっ、……もう少し、強く…」
「……」
「は…ぁ…」
…我はいま、試されている。
乳輪を跨ぐように噛みついたものの、舌をどこにやろうともぴんと主張した乳首に当たってしまい可能な限り縮こまらせていた。
そんな中、片腕は相変わらず顔を隠しているくせに、相反するようにもう一方の腕はこちらの頭部を胸に掻き抱くようにまわされていて。
重なり合った身体の下で、ガウェイン殿が膝を擦り合わせているのがわかる。誘うような甘い息遣いも耳に毒だ。
本当に…なんて淫猥な御仁なのだ。
あぐあぐと彼の胸を甘噛みしつつ悶々としていたが、少しすると刺激に慣れてきたのかガウェインの声は収まり、吐息だけになってきた。
相手の余裕を見てとって、翻弄されっぱなしは割に合わないと思い、舌先で胸の突起をくりくりと転がして軽く吸い上げてやる。
「うあっ…!」
びくんと背をのけ反らせる男に気を良くし、ネツァワルピリは舌を尖らせて突起を押し潰すように強く捩じ込んだ。
「あ、ゃっ…め…!」
ぐにぐにと突起を割り裂いて暴き、その奥に潜むしこりを無遠慮にがくがくと揺らしてやったところで、ガウェインの目尻から涙が一筋零れ落ちた。
「だ…め、だ…ッ、変に…なる…」