英雄
+++
…熱い。
身体の中で、奴の熱が拍動しているのが伝わってくるようだ。
数年ぶりの人肌に感覚は鋭敏で、火傷でもしてるんじゃないかと思うほど熱い。
ひりひりして、ひくついて、気持ち良すぎて、怖い。
片足を肩に担がれて秘部を大胆に曝け出している体勢に、逃げ出したいほどの羞恥心が襲いかかってきたのは最初だけ。
ネツァワルピリの雄を迎えてからというもの、ずりずりと内壁を擦り上げられる感覚に脳髄まで甘く痺れ、口を閉じることすら忘れて声が出てしまう。
そんな中、眼前の男から目が離せないでいた。
獣のような獰猛な双眸。そこに確かに揺らぐ渇望と、己を求める情欲の炎。
今まで立ったままにしろ四つん這いの姿勢にしろ、後背位でしか繋がることが出来なかったが、呪いが解けた今は奴の姿を見ながら睦める。
ネツァワルピリは俺の身体を見て思うところがあったようだが、それは俺とて同じこと。この男の肌を目の当たりにする機会など、これまでなかった。
…今、俺はこいつに抱かれている。
無駄なく鍛え抜かれた肢体を前に、嫌でもそう自覚させられる。
俺の世界はこいつに埋め尽くされていて、こいつの中にも今は俺しかいない。
互いに独占しあっている。
圧迫感にも慣れた頃、ゆっくり前後していただけの相手の楔が抜けてしまうくらいまで後退し、前触れなく思いきり奥深くを強く穿たれた。
「ッ……は、ぁ…」
予告のない強烈な衝撃と愉悦に、呼吸が止まり、ガウェインは喉を絞るようにして呼気を落とす。
対するネツァワルピリは間断なく深いところを突き、容赦なく快楽の波を叩きつけてきた。
「ん、ぐっ……ぁあ!…あっ、や…」
「……ッ、ガウェイン殿…」
相変わらず、視線は絡み合ったまま。
びくびくと腰が痙攣し、悪寒がするほどの快感に涙が滲んでくる。
「もっ、もう……見るなっ…ぁ!」
「…聞けぬな。…っ、……お主は、美しい…」
ひどく妖艶に響く声でそう言われた途端、鎧もなくインナーを首元まで捲り上げて胸を晒し、足を挙げて猛りを受け入れて喘ぐ自身の姿がとんでもない痴態に思えて。
視姦されていると認識すると、全身にぶわりと血潮が巡り更に体温が上がっていく。
これ以上顔を見られたくなくて、ガウェインは腕を伸ばしてネツァワルピリの頭と背中を両手に抱き込み、身体を密着させた。
角度が変わったことで内に収めた屹立の当たる場所が変わり、ぞくぞくと下腹部に危険な電気が流れ込んでくる。
「あ…ぅッ、……こっ、これで、見えないだろ…」
「む…。…達するときの表情を見たいのだが」
ぼそりと呟かれた声はどことなく不貞腐れているようで、あの鷲王が一体どんな顔をしているのか見てみたかったが、こちらが相手の顔を見れば当然相手もこちらの顔を見ることができてしまうので、ここは我慢しておく。
が、これはこれで汗ばんだ肌同士がぴったりくっついて、触覚に敏感な今は毒でしかない。相手も近しいことを考えていたのか、小さく笑った。
「…まあ良い。…今宵はガウェイン殿の熱を……全身で感じようぞ」
「う、ん……っぁあ!」
色っぽい吐息をガウェインの胸元に落とし、ネツァワルピリは抽挿を再開した。
「…この低さならば……ここの、良いところに当ててやれる」
視線から解放されたのに、なんでこいつの声はこんなに官能に響くんだ。
半ば呆れていると、奴の張り出た固い先端が前立腺を裏側からぐりっと押し上げてきて、びくりと腰が痙攣する。
「ひぅっ……そ、そこ…!」
「うむうむ。気持ち良いのであろう?」
楽しそうに頷いたネツァワルピリは、抱き返すようにこちらの背中の下に腕を差し込んで腰付近を固定し、その一点をごりごりと抉った。
「ッ!…あ、やだっ……そこ、やめ…ろッ!」
剥き出しの神経に直接刺激を与えられている感覚。強烈な快感信号が絶え間なく脳に叩き込まれ、身体が反り返ってびくびくと跳ねた。
壊れてしまいそうな恐怖とない混ぜになって、また涙が滑り落ちる。
「ああぅ…ッ!…ネツァ、ワ……ゃめっ…」
必死に名前を呼んで相手の柔らかな髪をくしゃりと掴むと、ようやく動きが緩和された。
喉に引っかかった嗚咽が荒い呼吸に混ざる中、抗議の意思を込めて担がれた足の踵で男の背中をげしげしと蹴ってやる。
「…はあっ、…ぁ……も、おかしく…なる、だろっ…」
「我としてはおかしくなるほど善がって欲しいのだが…」
「き、貴様ァ…」
「それより我もそろそろ限界でな……動くが、よいか?」
「……いちいち訊くな。とっととイけ」
ぶっきらぼうに答えるてやると、顔は見えないが相手が笑ったのがわかる。
あの猛禽類に似た鋭い瞳が、優しく笑いかけてくるのが好きだ。
見ることができないのは非常にもどかしいが、これも自分のため。
と、思った矢先。
抱き締めていた腕を外され、ネツァワルピリがむくりと上体を起こした。
きょとんとして奴を見上げると、つい今しがた焦がれた目と再びばっちりぶつかって。
……ちっ。やはりかっこいい。あ、いやそうではなくて!
「なっ、ば、だっ…誰が見ていいと言った!?」
「はっはっは、いや何、あの姿勢では動きにくくてな。目は閉じておく故、勘弁願えぬであろうか」
あわあわと狼狽えるが、鷹揚に言われると毒気が抜かれてしまう。
ネツァワルピリは言葉のとおりに両目を瞑り、ずっと担いでいたこちらの足も下ろすと両手で大腿の付け根を掴んできた。
そして自らの楔を押し込み、壁の最奥目掛けて続け様に腰を打ちつけてくる。
「あ、ぐっ……ぅ!」
身体の中心を貫かれて全身がぶれる感覚が不安で、掴まるもの欲しさに己の太腿にあるネツァワルピリの手首を無意識に掴んだ。
ごつごつと深いところに先端がぶつけられる度に、排泄感にも似た快感が腹の底に蓄積していく。
「はあっ、ん……ッ、ぁあう…!」
後腔からぐちゅぐちゅと零れ落ちる、粘性のいやらしい水音がやけに耳についた。
いつもは声など噛み殺すことができるのに、何故か我慢が効かずあられもない嬌声が出てしまうことで余計に煽られる。