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天空天河 七

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 夏江は地団駄を踏んで、罵り続けた。
「夏江は、まんまと、林家の者を引き入れるなんて。
 何て間抜けな男!。
 お前ッ、一体、、何が目的!!!。お言いッ!!。」

 
「言わないつもりかいッ!!!。お言いったらッ!。」


「、、、フッ。」

「何を笑って、、、、。
 、、、、、、、こ、、、の、、、、。」

 長蘇がにやりと意味深に笑った事で、夏江の表情に、見る見る恐怖が浮び上がる。

 夏江が、根絶やしにしたと思っていた、林家の者が目の前に現れたのだ。
 梅長蘇と名乗る、腹の見えぬ、得体の知れない男。
 その目的も分からない。
 どれだけの仲間がいるかも。
 思いがけぬ林家の者の出現に、夏江は恐れを感じていた。
「クウッ、、。」

 夏江は、恐怖に顔を歪めたが、掌の中の物の存在を思い出し、ふと我に返る。

「くくく、、、、。
 そうよ、これがある。
 お前が何者だろうが、使い道はあるのよ。」
 夏江は、掌の『魔』玉に目を移す。

「これをお前にくれてやるわ。
 さぁ、お前の企みを、全て喋ってもらうわよ。
 ほほほほほ、、、、、。」
 そう言って、長蘇の目の前に、『魔』玉を差し出す。

「飲まなければ良いと思っていたら、甘いわよ。
 自ら飲まない者にはね、額に嵌めてやるのよ、さっきの男みたいにね。
 痛いわよ。うふふふ、頭に嵌めちゃうから、大概あれで気が狂うけど。
 でもお前は、狂ってもらっちゃ困るからね。
 傀儡になってもらうから、気が触れちゃ、江左盟を操れなくなるわ。
 狂った方がマシだと思うだろうけど、お前には使い道がある。死なせはしないわよ、おほほほほ、、、。」
 夏江は、艶めかしい視線を長蘇に贈り、意味深に笑う。
「そして林家の血を引くお前には、こんな『魔』玉じゃ、物足りないわね、おほほほほほ、、。
 だって、私達滑族を、散々な目に合わせたのですもの。」

 そう言って夏江は、手に持つ『魔』玉を、じっと見つめた。
 『魔』玉は、夏江の手から浮き上がり、斑の妖しい光を放ち始めた。
 黒い闇が、夏江の掌から立ち上り、暫く『魔』玉の周りに渦巻いていたが、やがて闇は『魔』玉に吸い込まれた。
 『魔』玉は一回り大きくなり、色は変わり、赤黒く不気味に光った。

「ほほほほほ、、、、。」
 夏江は、『魔』玉を浮かせたまま、長蘇の首に巻いた絹布を乱暴に剥ぎ取り、両手で、胸元を掴み、ぐいと長蘇の衣を開いた。

 長蘇は両手上げた状態で、磔られていた為に、胸元は思ったようには開けられず、夏江は長蘇の帯を緩めた。
 何枚も着重ねた長蘇の衣は、呆気なく大きく開かれてしまった。

 露わになった長蘇の、痩せた身体を、夏江は舐めるように見た。
 更に長蘇の胸元を大きく開く。
 肩から腹部にかけて、長蘇の肌が晒された。

「ほほほほほ、、、虚弱とは言え、何て貧相な。
 この身体で、私に歯向かおうとは!。
 命知らずね!。
 、、、、、、でもまあ、男にしては、綺麗な肌をしているわ。
 、、むっ?、、、、あらあら、、、ほほほほ。
 お前、やっぱり、噂通りの、、、、ほほほほほ。」
 ほんの少し、ごく薄く、赤みのある痕を、夏江は見逃さなかった。
 夏江に行為の痕を見つけられ、顔を背ける長蘇。

「ほほほほ、、今更、何を恥じらうの?。
 江左盟だけでなく、お前と関係を持った者達が、私の言いなりになる、ほほほほほ、、、、。
 洗いざらい喋ってもらうわよ!。」
「、、、、、。」
 夏江の手が、長蘇の胸に近付く。
 長蘇は嫌悪感から、鼓動が速くなり、鳥肌が立った。
 夏江はそっと、長蘇の鳩尾を指で擦(なぞ)る。
 そしてそこに『魔』玉を押し付けた。宙に浮いた『魔』玉は、夏江の思い通りに動く。 抵抗したくとも、身体は磔られ、身動ぎも出来ない。
 『魔』玉は、長蘇の鳩尾に、ぐっと押し付けられると玉はめり込み、まるで長蘇の身体の一部のように、嵌め込まれてしまった。
 そして次の瞬間、長蘇の鳩尾に、焼き付けられた様な、熱さと激痛が走る。

「、、、、、グッ、、。」
 眉間に皺を寄せて、苦悶の表情を浮かべる長蘇を見て、夏江は満足気に薄笑いを浮かべた。

「、、、ウッ、、、グ、、、ぅぅ、、、。」
 気を失いそうな程の痛みに、長蘇は声も出なかった。

「ほほほほ、、、、、。
 痛いようだね。
 ほほほ、、、、だけど本当の痛みは、これからだよ、おほほほほほほ、、、、。」

 夏江は聞いた事も無い、異国の言葉の様な呪文を、『魔』玉に向けて言い放った。

 ドク、、、     ドク 、、、

 夏江の呪文に呼応する様に、『魔』玉が脈打ち、長蘇の痛みは全身に広がった。
「ぐぅ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、────────、、。」
 長蘇が絶叫する。


「おほほほほほほ、、。」
 夏江は呪文を続けた。






✼••┈┈┈••✼••┈┈┈••✼••┈┈┈••✼••┈┈┈••✼

 一方、靖王は、魏奇達を確保し、金陵への帰途にあった。
 早馬の一団が、金陵への街道を疾走していた。

「殿下!!、靖王殿下!!!。」
 後続の甄平が、先頭を走る靖王を追って、叫んでいた。

「靖王殿下!!、どうかーお止まりをー!!!。」
 甄平の言葉を聞いて、速度を緩めたが、止まりはしなかった。

 靖王は、追いついた甄平を、睨みつける。
「甄平!!、急がねば!!。
 懸鏡司は容赦無い。
 こうしている間にも小殊は、、、。
 小殊がどうなっても良いと?!。」
 鬼の形相で、甄平に噛み付く靖王。

 靖王の睨みにも怯まず、甄平が馬上の靖王に向かって叫ぶ。
「殿下、提案があります。
 殿下の馬が早過ぎて、殿下に追いつけないのです。
 そこで、殿下と共に行く先発隊と、魏奇達を護送する後発隊とに分けては如何かと。」
「むっ!。」
 靖王の顔が、一瞬、更に険しくなった。
「良し!、それでいく!。
 急げ!!。」
 靖王は、甄平の提案を受け入れた。

 そして直ぐに、靖王は、また馬の速度を上げた。
 甄平も速度を上げながら右手を上げて、後続に合図をすると、直ぐさま、後続から五人と馬が速度を上げ、靖王と甄平を追った。
━━魏奇達は数十人の、江左盟の腕利き達が護衛している。
 この街道も、その他の同胞が、ずっと金陵まで守っている。
 飛流も魏奇と同行して、『魔』を処理している。
 魏奇の護送は大丈夫な筈だ。━━

━━それよりも不安なのは、小殊の身だ。
 無体な真似をされていなければ良いが、、、。
 夏江め!、私の小殊に傷一つ付けてみろ!、八つ裂きにしてやる。━━
 長蘇は、夏江の『魔』の本質が何なのか、何をどう調べても、皆目掴めなかったと言う。

━━小殊は懸鏡司で夏江と対峙して、夏江が襤褸(ぼろ)を出す事を、狙っているのだ。
 あの夏江が、襤褸を出すまで、小殊は挑発するつもりなのだ。
 あの夏江を下手に挑発して、裏目に出たらどうするのだ。
 命も危ういのだぞ。━━
 靖王の後ろで、蹄の音が付いてくる。
 甄平達が必死で追っている。


━━全く確証を持てぬまま、一か八かで事を起こすなど、小殊らしくない。
 若き小殊なら、入念に裏を取って、確実に事を起こしたのだ。
作品名:天空天河 七 作家名:古槍ノ標