黄金の太陽THE LEGEND OF SOL30
『それには及ばないで、二人とも。結界を見るんや』
メガエラとユピターのみならず、船の上のロビン達も結界に目を向けた。
「結界にもヒビが!?」
『せや、もうひと踏ん張りすれば、結界をぶち破れる……』
アズールには疲労の色が濃くなっていた。
『キツいなあ、でもオレも男や。この勝負、負けへんで!』
アズールは最後の勝負をかけた。
「ギャアアアア!」
最大限の咆哮を上げ、アズールは全力で当たった。
「見ろ、結界が!」
結界に入ったヒビが、アズールの渾身のぶつかりで広まり、ついには完全に破れた。
割れたのは結界だけではなかった。
『へへ……どないや』
アズールの角も限界を超え、折れてしまっていた。
アズールは、力尽きて地面に転がり、人型に戻ってしまった。
「アズール殿!」
ユピターが真っ先に駆け寄った。
「アズール殿、大丈夫か!?」
ユピターはアズールを抱き起こした。
「ああ、平気や……なんて冗談は言えんなぁ……」
人型に戻り、声帯も戻ったアズールは、何とか声を絞り出していた。
「アズール殿、角が折れて……」
「心配には及ばへん、また生え変わる。それより結界や。何とか破れたけど、力はのうなってしもうた。しばらく動けそうにあらへんな……」
アズールは、時折咳をしながら声を出していた。
「アズール、メガエラ、ユピター!」
ハモとヒナを除く仲間達が、船を降りて駆け寄って来た。
「アズール、大丈夫か? ユピター、アズールは?」
ロビンが訊ねた。
「結界を打ち砕いてくれた。その反動で体力を失ってしまった」
ユピターが事のあらましを答えた。
「……すまんなぁロビン、手伝えるのはここまでや。オレの事は放っておいて、アレクスを……」
「何を弱気なことを言っている。イリスの力で回復できるだろう? なあイリス?」
「残念ですが、完全に回復はできません」
イリスは、首を横に振った。
「どうしてだ!? イリスの治癒力なら何とかなるんじゃないのか?」
「私の力は火のエレメンタルが強いのです。アズールは水のエレメンタルの化身。あまり大きな治癒の力を与えては、逆にアズールを傷付けることにもなりかねないのです」
「水のエレメンタル……だったらメアリィ、君の治癒エナジーなら回復できるんじゃないか?」
ロビンは、メアリィを向いた。
「確かに私の力ならアズールさんを回復できるかもしれません。ですが、アズールさんは人ならざる者。相当量のエナジーが必要になるかもしれません」
メアリィには、アズールを完全回復させる自信がなかった。
「多少無理をしてでも、回復できるならやってみる価値はあるんじゃないか? メアリィ、やってみてくれ」
ロビンは、メアリィの力に期待していた。
「分かりましたわ、やってみます!」
メアリィは両手をアズールにかざし、最大級の回復エナジーを発動した。
『グレイスフル・ウィッシュ!』
アズールは、メアリィの優しい水のベールに包まれた。
「これは……ごっつ気持ちがええな……」
メアリィの力は、確実にアズールの傷を癒していった。
「おお……! 効いている! さすがはマリアンヌ殿の力!」
ユピターは驚いていた。
「ああ……何も考えんと、ゆーくりっと眠れそうやわ……」
そう言うとアズールは、寝息を立てて眠ってしまった。
「これは……エナジーが効きすぎてしまいましたか?」
アズールを眠らせてしまったメアリィは、苦笑を浮かべた。
「いや、メアリィ殿のせいではない。もとより体力は、眠らなければ回復しないと言うもの」
ユピターは、メアリィを責める事はしなかった。
「けどどうするのよ。アズールが目覚めるまで待ってもいられないわ」
メガエラが言った。
「ここは私にお任せを。何人たりからもアズール殿をお守りいたす。皆は先にアレクスのもとへお急ぎを!」
ユピターがアズールを守る役目を買って出た。
「……正直なところ、今のアレクスの力は計り知れない。欠員が二人も出るのはさすがに……」
ガルシアは、アレクスと戦うには、ここにいる全員で当たらなければ勝利は見えないと考えていた。
「もとより私の能力は守りに特化したもの。攻めるのには向いていない。アレクスに有効打は与えられないだろう。私がいたところで邪魔になる、先に行っていただきたい」
ユピターは、あくまで残るつもりでいた。
「しかし……」
ガルシアは尚も、戦力が減ることを危惧していた。
「ガルシア、ここはユピターの思いを汲み取って先へ進もう。大丈夫、オレが二人のぶん戦ってみせるからさ!」
ロビンは言った。
「そんな無茶な。いくらお前が闘霊になったとは言え、相手は神を超えた力を持っているんだ。その力はあのデュラハンさえも超えている。まともに当たって勝てるかどうか……」
「大丈夫、そんなに心配しなくても、オレの力はまだまだ全力じゃない。正直言ってデュラハンは楽勝だった。まあ、奴の術中にはめられたけどな」
ロビンには、まだ隠された力があった。それはデュラハンさえも一撃で倒せていたほどの力であった。
「ロビンの言うことは確かですよ」
イリスが言った。
「ロビンはまだ、ソルブレードの力を発揮してはいません」
剣の心を読み、最大限の力を引き出せるロビンは、ソルブレードの本当の力を出しきってはいなかった。その前にガルシア達から借りた剣でデュラハンを圧倒していたからである。
「そう言うことだ、ガルシア。今のアレクスは光の塊だ。対してお前の使う黒魔術の力は闇のものだ。アレクスに効果てきめんだと思うぜ?」
ロビンは、ガルシアの黒魔術を引き合いに出し、自信をつけようとした。
「そうか……?」
ガルシアは自信がどうしても湧かなかった。
「そうだぜガルシア。オレの天眼にはガルシアの能力が見えるんだ。デュラハンをもその力にした黒魔術がな」
ガルシアの魔導書ネクロノミコンには、デュラハンの片腕を取り込むことで最後の魔術が浮かび上がった。それはあのデュラハンさえも自らのものとなったことを意味していた。
「大丈夫よ兄さん。今の兄さんなら、どんな敵にも勝てるわ」
ジャスミンもガルシアを勇気づけようとした。
「ジャスミン、お前まで……分かった。これ以上ごねていてはいかんな。皆に着いていくとしよう」
ついにガルシアは欠員がいる状態でアレクスと戦うことを選んだ。
「そう来なくちゃな、ガルシア! ユピター、アズールを頼んだぞ」
「お任せを! このユピター、命に代えてもお守りいたす」
「よし、それじゃ行こう。アレクスの所へ!」
ロビンの言葉に皆それぞれ応じると、アレクスが鎮座するアルファ山を目指して駆けて行くのだった。
※※※
アルファ山の頂上は、氷塊の咲き誇る異界と化していた。
気温も相応に低く、外気に触れている所が痛みすら感じるほどだった。
そんな劣悪たる環境下へ、ロビン達戦士がやって来た。
そこにいたのは、足元まで伸びた黄金色の髪を揺らしながら浮遊するアレクスだった。
「ようこそおいでくださいました、ロビン、イリス、その仲間達……」
そして、と一呼吸おいてその者の名を呼んだ。
「メアリィ」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL30 作家名:綾田宗