zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 小悪魔の秘密
「チビちゃんが……!?いや、オイラが抱っこした時には、
別に身体、それ程……、熱くなかった様な気もするけど……」
「きゅぴっ!チビ、でももう平気だよお!」
手をパタパタ振ってチビが皆に愛想を振りまいた。
「うん、何事も無かったんだね、よかったよお!元気に
なったのならいいじゃない!」
「きゅっぴ!」
「……そういう問題じゃねえだろうが!!」
最近のダウドのあまりの身勝手さに又ジャミルが怒鳴ってしまう……。
「び……、びいい……?」
「ジャミル、やめるんだ……、チビが脅えちゃうよ……」
「黙っててくれや、アル!」
チビがまたショックで体調を崩してしまうかも知れないのを恐れ、
アルベルトがジャミルを注意しようとするが、それでもジャミルの
怒りは収まらず等々爆発してしまう……。
「……一体、二人ともどうしたのよ!ねえっ!」
いつもの馬鹿喧嘩とは明らかに様子が違う深刻な事態に堪らず、
下にいて、騒ぎを聞き付けたアイシャも甲板に飛び出して来た。
「アイシャ、チビを船室に連れてってくれ、頼む……」
「でも……」
「頼む……」
「……分ったわ……、おいで、チビちゃん」
「きゅぴ~……」
チビを抱いてアイシャが船室に移動し、甲板には気まずい
雰囲気の男衆だけになった……。
「ダウド、お前が何考えてんのか全然解りたくもねえし、
理解する気もねえ……、けど、チビは絶対に竜の女王の城まで
連れて行くからな、分ったか……?」
「……勝手にすればいいじゃん……、出来るものならね、
ジャミルはさ……、チビちゃんの面倒をもう見るのが嫌で
厄介だから他に預けてお世話を押し付けようとしてるだけじゃ
ないの……?」
「お前……、いい加減にしろよな……、今度はマジで殴るぞ……?」
「安全な処で一生を守って貰うだけが……チビちゃんの幸せとは
限らないよ……」
「!!」
「……二人とも……!お願いだから冷静になってよ……!
どうしたの、本当に……」
アルベルトも間に入って必死で二人を止める。ジャミルとダウドは
互いに睨み合ったまま、重い沈黙が流れる……。
「……びいっ、びいっ……、チビの所為で……また皆が……
ケンカしちゃったよお~……」
「チビちゃん……、大丈夫だから……、お願い……、もう泣かないで……」
アイシャは必死でチビを抱擁し、慰める……。
「……チビの所為だよお……、ごめんね、チビが……、ぴい、
いるから……、チビがいなくなればもう皆ケンカしないよ……」
「そんな事ないのよっ……!お願いだからそんな悲しい事言わないで……、
怒るわよ……、チビちゃんっ!!」
「きゅぴい……」
「ジャミルもダウドも……、本当にチビちゃんの事が心配で
大好きだからケンカしちゃうのよ?」
「……ぴいい~?」
「私もアルも同じなの、いつだって皆、チビちゃんがどうしたら
本当に幸せになれるのか……、迷ったり悩んだり……、私達、気持ちは
皆同じなのよ……」
「……チビも皆が大好き……、ジャミルもアルもダウもアイシャも……、
皆、皆、大好き……、ずっと……、皆と一緒にいたいよお……」
「チビちゃん……、うん……、そうね……」
アイシャは母親の様に、再びチビを優しく抱きしめると、
そっとチビの頭を撫でた。
そして……、睨み合ったままのジャミルとダウドのケンカの現場は……。
まだ重い沈黙が流れていた……。
「……オイラ、また、出かけてくるよ……」
ダウドの方が先に口を開き、沈黙は解除されたものの……。
「また逃げんのか……?勝手にしろよ……」
「ふんだ……、言われなくても勝手にしますっ!」
ダウドはさっさと船を降りて、また何処かに姿を消す……。
「……ああ、ジャミル、ダウドがまた行っちゃうよ…、僕らも
後を追った方がいいんじゃないかなあ……、ダウドを置いたまま、
このままじゃ船も動かせないし……」
「好きにさせておけよ、アル、もう面倒見切れねえのは
チビじゃなくてダウドの方だ!」
「はあ……」
……結局、ダウドの反乱分子、チビの体調の変化で、船は昨日の
停泊場所から留まったままになり、出発する事も出来ない状態に
なってしまった……。
(……もう少し、もう少し……、今夜決行だ……、チビちゃんの
為にも……)
森に静かに身を潜め、ダウドが空を見上げた……。
戸惑い
暫くの時間が過ぎて朝が来た。アイシャが朝食を作り、船室まで
ジャミルとアルベルトを呼びに顔を出した。
「おはよう、ジャミルもアルも、朝ご飯にしよ?今日はね、
チビちゃんのリクエストでフレンチトーストよ!」
アイシャが数時間ぶりに、二人に笑顔を見せた。
「……どうにもフレンチっつー気分じゃねえな……、う~ん、
もやもやしまくりだわ……」
「そんな事言わないのよっ!ほらほら、チビちゃんがお腹空かせて
待ってるわ、アルも早く休憩室行きましょっ!」
ジャミルの背中を押しながらアイシャがアルベルトに声を掛ける。
トリオが休憩室に行くと、チビが専用の椅子に腰掛けてトリオを
待っていた。
「さあ、召し上がれ、チビちゃんもどうぞ、あっ、サラダも
ちゃんと食べてね」
テーブルの中央にアイシャが山盛りのフレンチトーストの皿を置く。
「きゅぴ……、ダウがいないよ?ダウも一緒にご飯食べないと……、
ダウがお腹空いちゃう……」
「……」
「ちょっと、お散歩行ったのよ、すぐに帰ってくるから大丈夫よ、
先に食べていましょ!」
「ぴい~……、わかった……」
しょんぼりと、淋しそうにチビが下を向いた。
「……一週間ぐらい食わなくても大丈夫だ、死にゃしねえよ……」
不貞腐れた表情でジャミルがフレンチトーストを一口齧った。
「……うわっ!何だこりゃ!?……アイシャ、これすげー
しょっぱいぞ……!!」
「えっ?そんな事ないわよっ!きちんと卵とお砂糖と牛乳混ぜた液に
漬けたわよ……」
「じゃあ、お前も食ってみろよ!」
仕方なしにアイシャもフレンチトーストを一口齧る……。
「……うっ、しょっぱ……、ごめんなさい……、お砂糖の処が
お塩でした……」
「はあ~、ジャミルが毒見してくれて助かった……、チビ、
これは失敗だから食べるのはよそうね……」
アルベルトがチビに注意する。
「きゅぴ~?」
トリオとチビは仕方なしに残ったサラダだけ平らげる。……アイシャは
サラダも玉に失敗する事があるので、今日の朝食は比較的真面な方かも
知れなかった。そして、ずっと船出中?の、ダウドは昨夜、ある事を
決行しようと心に決めていたものの……。どうしても行動に移せず結局
そのままでいた……。
「……」
「何だい、なんかまだ迷いがあるみたいな感じだけど、戸惑ってるの?」
「リィト……」
「まだ、気持ちが行ったり来たりしてる様な感じだね……」
「別に、今更悪いとか思わないよ……、思い立ったら、
もう実行するだけだよ……、今夜こそ……」
作品名:zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 小悪魔の秘密 作家名:流れ者