zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 奇妙な出会い
どうしたのか、アイシャは異様に噴気している。ジャミルは
そんなアイシャを見て、一言言葉を洩らす。
「……チビがいるんだぞ!」
「あっ……」
はっとして、アイシャが慌てて下を向いた。
「だからさ……、カタが付くまでチビを宿屋で守っててくれや、
なーに、モンスターじゃねえんだし、多少厄介な相手だとしても
屁にもなんねえから、すぐ終わらせるよ……」
「うん、……分ったわ……」
「これで、話は纏まったね……」
ジュース美味しかったかな?チビちゃん!
きゅっぴー!いちごミルク甘くておいしいねー!
「おっと、能天気変コンビが戻って来たな……」
「じゃあ……、この話はこれで……、ね」
「うん……」
「こんこん、オイラとチビちゃんですよー!入りますよー!」
「入りますよおー!きゅぴー!」
「大丈夫だぞー!」
ダウドとチビが部屋に入って来た。
「アイシャー!ダウに甘ーい、いちごミルク買ってもらったー!」
「そうなのー、良かったねー、チビちゃん!」
「きゅっぴー!」
アイシャがまるで我が子の様に幸せそうにチビをぎゅうぎゅうと
ハグする。
「悪ィな、ダウド……、いつもいつも……」
「ん?別にいいよお、オイラもチビちゃんと一緒のお出掛けは
好きだし……、正直……、このままずっと一緒に……、何処までも
逃走したくなる……、う、うっ……」
「ちょ、ちょっと、ダウド……?……どうしよう、あの、
泣かないでよ……」
「おーい、何だよ……、急に泣きだすなよ……」
突然号泣しだしたダウドに、顔を見合わせ困るアルベルトとジャミル。
「……ぎゅぴいー、ぷう……ぴ……」
「チビちゃん……?」
アイシャに抱かれたチビがゲップをし、急にコテンと眠ってしまった。
「……疲れたのかしら、そうね、おねむの時間だものね、それじゃ私、
部屋に戻るね……」
アイシャとチビは部屋に戻って行く……。
「アル、俺も、ちょっと何か飲みに行ってくるわ……、ダウド頼む……」
「ん?うん……、行ってらっしゃい……、暗いから気を付けて……」
「……」
一人、廊下を歩くジャミル。……ふと、思いついた事が有り、
アイシャがいる部屋の前で立ち止まる。
「……アイシャ、まだ起きてるか……?」
今度はジャミルがアイシャのいる部屋のドアをノックする。
「ジャミル……?ちょっと待ってて……、今、開けるね……」
「チビは寝てるか……?」
「うん、ぐっすり……、ほら……」
ジャミルが部屋の奥をちらっと覗くと、ベッドで丸まり、すやすや
眠っているチビの姿が。
「ぷーぴーぷー……」
「今夜も幸せそうな顔して寝てるの、苺ミルクが美味しかったのね、
よっぽど……」
「そうか、なら大丈夫だな……、ちょっと部屋に鍵かけて外行こうや……」
「えっ……?うん、いいけど……、どうしたの……、こんな夜遅く……」
「いいから……」
チビを起こさない様、ジャミルがアイシャに目でそっと合図した。
「……ジャミル?」
そして、二人は宿屋の外へ……。
「う~、寒いね……」
アイシャが手を擦りながら、はあ~っと息を吐いた。……ふと、
前を歩いていたジャミルが立ち止まり、アイシャの方を振り返る。
「ジャミル?どうかした……?」
「……お前さあ、絶対なんか無理してるだろ……」
「えっ?どうしてよ……、別に無理なんかしてな……!?
んっ、んんっ!?」
ジャミルがアイシャの口に急に強く吸い付いた。……突然のジャミルの
思わぬディープキス……。息が出来なくなりアイシャがもがく……。
「……ぷはあっ、ジャミル、お願い……、やめて……、苦しいよ……、
息出来な……んっ……!」
一旦はアイシャの口から離したものの……、ジャミルは再びアイシャの
口をキスで強く塞いだ。
「んっ……!んんんん……!……んん~っ!!」
(苦しい……、本当に息出来ない……、このままじゃ私……、
窒息しちゃう……)
「……正直に言わねえと、よさねえぞ……、何か俺、今日、妙に
ムラムラしてんだ……、俺だって男だからな……、甘くみんなよ、見てろ……」
「……い、言うわよ……、だからお願い……!許してえーーっ!!」
あまりにも苦しかったのと、突然の攻めでびっくりしたのとで……、
涙目になってアイシャが訴えた。
「よし……、俺もやっぱり事前に苺ミルク飲んどきゃ良かったかな……」
ようやくジャミルがアイシャから唇を遠ざけた……。
「はぁっ……、もう……、ジャミルのバカ……、死んじゃうわよ……」
……アイシャがほっと胸を撫で下ろした。
「……妙に不自然に無理して喋ってる様な気がしてさ、気になってたんだよ……」
「あのね……、ジャミル達を部屋で待ってた時……、うっかり眠っちゃって……、
その時に、怖い夢を見たの……」
「……夢……?」
「……うん、あの時の……ドラゴンさんが……殺される……、
瞬……間の……、それで……、卵だった……筈の……チビ……
ちゃんも……、撃たれ……て……、粉々に……なっちゃ……っ……」
そこまで言い掛けてアイシャがブルブル震えだし……。それ以上は
もう喋れない様であった……。
「アホっ……!んな夢見んなよ……、バカだな……、もう一回
口絞めるぞ……?」
……ジャミルがアイシャを強く抱きしめる。
「……やだあ……、意地悪……、してくれるんなら、もっと優しくしてよ……、
ジャミルのバカ……、そうしたら今夜はもう怖い夢見ないよ……、大丈夫……」
「よし……、微温湯モードだ……」
「……何がよ、もう……」
二人だけの夜が過ぎてゆく……。
そして、再び場は酒場へ……。
「なあ、どうして教えてくれないんだよ、あんた正義の
味方じゃないの……?」
いつまでも酒を飲み、酒場から一行に離れようとしない男達を
子供が不思議がって突っつく。
「大人は大人の事情ってモンがあるんだよ、特に俺達みたいな……、
ワル商売で生きてる奴らはな……、坊やはまだ知らなくていいんだ……」
「や、やっぱり……、おっさん……、悪い奴だったのか……」
そう言って、あの時……、自分は密猟者ハンターだと言い、ジャミル達と
親しげに会話をしていた男は……、強い酒を一気に飲み干し、子供を見た。
「そうだ、お前……、一つ、頼めるか……?」
「え?ええ……」
「俺の知り合いだと言えば、奴らも安心する、もうしっかり信頼して
やがるからな、あの馬鹿ガキ共は……、しかし、ラッキーだったな、
まさかドラゴンを匿っている連中と出会えるとは、これ以上の運は
もうねえな……」
「別に、いいけどさ……」
「金が欲しいんだろう?ドラゴンを捕まえて来れるチャンスだぞ、
この仕事、お前に特別に任すぞ……、どうだ?」
「や、やるよ……」
「よし、いい返事だ……」
迷いし小さき心
翌朝……。
「たのもー!たのもー!」
作品名:zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 奇妙な出会い 作家名:流れ者