zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 さよなら、チビ
「だって、そうしたら兄ちゃん達……、上の世界へ戻っちゃうんだろ……?
チビだって……、おれ……、そんなの嫌だよ……」
「仕方ねえんだよ、俺らは元々上の世界の人間なんだ、それに……、
やらなきゃいけない事もあるんだよ、……判ってくれや……」
「……嫌だっ……!短足親父……!!短足ウホッゴリラ!!……う~っ、
短足ひょっとこ!!」
「……何と言われても、俺達は上の世界に戻る、そう決めたんだ……」
と言いつつも……、少しジャミルの顔に青筋が……。
「……ペースケちゃん、もうやめなさい……、ね?」
おかみさんがペースケを慰めるが、我慢出来なくなったのか、
等々ペースケの目から大粒の涙が溢れだす……。
「……ううう、うわあああ~んっ!!」
「……ペー君っ!」
「よせ、アイシャ……」
「でも……」
泣き出して外へと走って行ってしまったペースケの後を追おうとした
アイシャをジャミルが制した……。
「大丈夫ですよ、後は私達が……、ね?あなた」
「ああ、ペースケはもうわしらの大事な息子です、
後は任せて下さい……」
「うん、ありがとう、おじさん、おばさん……」
夫婦がリビングルームを出て行き、外へと二人でペースケを
迎えに行った。
「……辛いよ……、ね……、もうすぐチビちゃんとも……、
本当にさ……」
これから先、自分達にも待ち受けている時を考えてダウドが
ぎゅっと唇を噛む……。
「ダウド、お願い……、今は何も言わないで、お願い……」
「……うん、ごめんよ、アイシャ……」
「……」
「僕らも、部屋に行こう、チビがそろそろ起きるよ……」
それから、4人は無言でチビが寝ている部屋までの
廊下の道のりを歩く……。複雑な思いを抱きながら。
「……チビちゃん……?」
アイシャが部屋のドアを開けると、ベッドの上では既に目を覚まし、
4人を待っていたらしいチビの姿があった。
「きゅぴっ!お帰りなさーい!!」
「……あはっ、チビちゃん……!!」
部屋にはいつもと変わらぬチビの笑顔……。
「アイシャ、ちょっといいか?俺にもチビ抱かせてくれ……」
「うん?いいけど、自分からなんて、珍しいわね……、はい」
アイシャがチビをジャミルに手渡す。
「チビちゃんが産まれた時以来だねえ……」
「きゅっぴー!」
「よいしょ、……んとにお前、重くなったなあ……、
このデブドラゴン!!」
「ちょ、ジャミル……」
「ぎゅぴ~っ!!ジャミルのバカ~っ!!」
チビがジャミルの顔をぺちぺち叩く。
「……こら、鼻の穴に爪を突っ込むのはやめろ!!」
「ぎゅっぴぎゅっぴ!!」
「皆さん、夕ご飯の用意が出来ましたよ……」
と、珍獣親子がじゃれている処へおかみさんが4人を呼びに
部屋へとやってくる。
「おばさん……、あの……、ペースケは……」
「ええ、大分落ち着いたので、大丈夫ですよ……」
「そっか、良かった……」
どうやらペースケも気持ちが落ち着いたらしい。そして、4人は
チビを連れ個室へ……。今日の夕飯はおかみさんお手製の魚肉の
ハンバーグ。無論、此処での食事は今夜が最後となるのだった……。
「……明日には、行ってしまわれるんですね……」
4人にお茶を注ぎながらおかみさんが淋しそうに喋る……。
皆がいなくなれば、火が消えた様に此処の宿屋も静かに
なってしまうであろう事をおかみさんは心で悲しんでいた……。
「うん……、今まで長い間、本当にありがとな、おばさん……」
「いいえ……、私達もお会い出来て本当に嬉しかったです……、
またいつか……、きっと会えると信じておりますよ……」
「……ああ、そうだな……、きっと……」
「母ちゃん、いい……?」
ドアを静かに開けてペースケがちらっと中を見た。
「ペースケちゃん?いいわよ、入りなさい……」
「うん……」
「ペースケ……」
「ジャミ兄ちゃん、話があんだあ、飯終わったら、
ちょっと外来て……」
ペースケはそれだけ言うと、又部屋の外に出て行った。
「それでは、私も……、どうぞごゆっくりなさって下さいね……」
おかみさんも皆に頭を下げ、部屋を出て行く。
「何だろ?もしかして、愛の告白……?プ……」
「……バカ言うなっ!バカダウド!!」
「いったっ……!」
「♪きゅぴー、お魚のハンバーグおいしいね!」
「チビちゃん……、うん、そうね……、おかみさんのハンバーグは
とっても美味しいわね!ゆっくり味わって食べましょうね!!」
「きゅっぴ!」
「んじゃあ、俺、ペースケに挑戦状送り付けられたから、
ちょっくら行ってくる……」
「行ってらっしゃい……、けど、君もモテる事……」
ハンバーグを口に運びながら、アルベルトが笑いを堪える……。
ジャミルはアルベルトとダウドに舌を出すと部屋の外に出て行く。
……宿屋の外では入り口でペースケがジャミルを待っていた。
「兄ちゃん、さっきはごめんよ、取り乱したりしてさ……、でも、
……おれの話、聞いてくれる……?」
「あまり長くない話ならな……、明日出発だから、風邪ひくと
困るしよ……」
「大丈夫だよ、なんとかは風邪ひかないっていうじゃん」
「……お前なあ!」
「えーっと、真面目な話……、おれ、大きくなったら
密猟者と戦うんだ……、そう決めたんだ!」
「……あのな、おばさんとおじさんを悲しませる様な事
言うなよな……、ふざけてんのか……?」
「ふざけてないよ、おれ……、本気だよ……」
ジャミルの顔を見つめてペースケが言った。ペースケの
表情は冗談ではなく、真剣そのものの様で、ジャミルは又、
コイツは一体どうしたらいいモンかと……。
「おれも、兄ちゃん達みたいなヒーローになりたいんだ、悪い奴らを
やっつけたいんだよ……!本気だよ……!!」
(……まあ、夢見るぐらいいいだろ、もう少し大きくなりゃ、
色々現実を知って考え方も変わるかもしれないからな……)
「ま、いいんじゃね?やれるだけ頑張ってみろよ……」
「本当に?応援してくれる……?」
ペースケがジャミルに顔を近づける。
「あ、ああ……」
「……けど、お前は今はガキなんだから、きちんと此処で
おじさんとおばさんの手伝いしろよ……?それからちゃんと
勉強もな、折角学校にも行かせて貰える事になったんだからよ」
「わかってるよっ!よし、おれもいつか大人になったら、
ダーマ神殿行って職業の力を貰うんだ!だから、おれも絶対に
上の世界に行くよ!待ってろよな!」
「は、ははは……」
焦ってジャミルが苦笑いする……。
(遠い未来……、本当にこいつも勇者になったりしてな、
まさか、な……)
「うおー!燃えてきたあー!!」
「……糞寒い中、暑苦しい奴だなあ、ほれほれ、もう中入れっつーんだよ!」
「うおおーー!」
ジャミルが興奮するペースケを無理矢理、宿屋の中へと押し込んだ……。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 さよなら、チビ 作家名:流れ者