zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 懐かしき人々と・1
チビがいつも通り、初対面の人達に元気よくご挨拶するが……。
「あ?あー、あーあーあー!」
「きゅぴっ!?」
「きゃっきゃ!だあー、だあー!」
トウマがチビに目をつけ、面白がってチビの頭を掴む……。
初めての事態にチビは慌てて戸惑い、バッグから抜け出ると
脅えてアイシャの側へと飛んで逃げる……。
「……ぴきゅうう~……」
「大丈夫よ、チビちゃんたら……」
「……こらっ、トウマ!駄目でしょ、悪戯しちゃ、めっ!ですよ!」
「まあ、チビにはいい刺激になるよ、あまり気にしないでくれよ」
「すみません、本当に……」
申し訳なさそうに弥生がぺこぺこ皆に頭を下げた。
「さあ、今夜は宴会の準備だね、弥生、村の皆に知らせておいで、
あたしはトウマの子守りとご馳走の準備をするからね!」
先程とは違い、弥生の母親が元気を取り戻し、からっとした
笑顔を見せた。
「お母さんたら、もう……、それじゃお願いしますね……」
弥生はトウマを母親に預けると、外に出て行った。
「何か、悪いよな……」
「うん……、あの、僕達も何かお手伝いを……」
「いいんだよ、ほらほら、お客さんは座った座った!」
「……ハア」
「もうすぐ弥生の旦那が仕事から帰ってくると思うけど、
……まあ~、聞いとくれよ、これがね、まーた、いい男なんだよ!」
弥生の母親は伴侶を失ったものの、相変わらず豪快で明るい性格は
そのままであった。
「zzzz……」
そして、脱走お散歩で疲れたのか、トウマが眠ってしまう。
「おや、寝ちまったねえ、悪いけど……、トウマを見ててくれるかい?
当分起きないとは思うんだけど、すまないねえ……」
「ああ、大丈夫だよ」
弥生の母親はジャミル達にトウマの子守りをお願いすると
台所へ姿を消した。
「うふっ、ホント可愛いわあ~、よく寝てる……、ねえ、ほっぺが
ぷにぷによ……、やわらかいわあ……」
アイシャがトウマのほっぺをそっと触る。
「母ちゃん不在でも本当、良く寝るなあ……、大物だ……」
「玉には人間の赤ちゃんと触れ合うのもいいものだね……」
「ね、ねえ……、皆……」
「何だよ、ダウド!」
「あれ……」
「あ~?だから何……」
「……」
見ると……、トウマに完全に焼きもちをやいたのか……、
チビが隅っこの方で丸くなって皆をジト目で見ていた……。
「お、おい、チビ……、何してんだよ、ほら、お前も来いよ」
「……赤ちゃん、嫌い……」
「こりゃ、まずいな……、予測してなかった……」
4人は顔を見合わせる……。チビの生まれて初めての……、
嫉妬感情の始まりでもあった……。
チビ、すねる
夜、弥生の家には知らせを受けた沢山の村人が集まり、
狭い場所ながらも皆で輪になって、居間は賑やかな場所と化す。
「……チビはどうしてる?」
「まだ部屋ですねてるの、呼んでも来ないのよ……、皆さんにも
紹介しようと思ったんだけど……」
「困った奴だな、あいつも……」
……自分の事を棚に上げ、やれやれと言う様にジャミルが
腕組をし、唸った。
「私、もう一度呼んでくるわ」
アイシャが立ち上がってチビを呼びにもう一度部屋へ……。
「……チビちゃん……」
「……」
部屋には座布団の上で丸まり、そっぽを向いて寝ている
チビの姿があった。
「チビちゃん、村の皆さんにご挨拶しましょ?皆、とっても
優しい人達だから……」
「嫌、……チビ、皆さんにご挨拶しないもん」
チビは不貞腐れたままアイシャから顔を背けると尻尾だけ
パタパタ振る。
「どうしたのよ、チビちゃんは知らない人に、いつもなら
ご挨拶するの好きでしょ?ほら……、弥生さんのおばさんが
沢山お肉も焼いてくれたわよ、食べに行こう?」
「や、お肉食べない……、チビ、いらない!ぷんっ!」
(……ああ、すねるチビちゃんも可愛いわあ~……、ってそんな事
言ってる場合じゃないわっ!)
「チビちゃん、我がままばかり言ってると、赤ちゃんに
笑われちゃうわよ!」
「……嫌いっ!赤ちゃん嫌いっ!!きゅぴぴぴぴぴ!!」
「あっ、チビちゃんっ!!」
赤ちゃんでチビはますます機嫌が悪くなり、空を飛んで
タンスの上に上がってしまった。
「……ぎゅっぴ、ぎゅっぴ!!」
「どうしよう……、チビちゃんたら、もう~……」
アイシャは炸裂したチビの我儘に困り果て、一旦ジャミル達に
相談に居間へと戻る。
「どうだったい?」
「駄目なの……、凄いわ、怒りのきゅぴぴぴぴぴ!!
……だったもの……、おまけに、きゅっぴが……、ぎゅっぴに
なっちゃったの……」
「ハア……?意味わかんねー、けど……、俺にだったら間違いなく、
放屁攻撃だったな……」
「いつも自分がしてる事じゃん……」
「……うるせーな!バカダウド!!」
「ご飯で釣っても駄目かい?」
「……駄目よ、食いしん坊のチビちゃんが……」
と、其処に……。
「あの、ジャミルさん……、ですよね?」
「あ?俺だけど……」
「どうも初めまして……、弥生の夫です、妻がとてもお世話に
なったそうで……」
つい先程、仕事から帰宅したばかりの弥生の旦那がジャミルに
挨拶し、握手を求めた。
「へえ、いや、こちらこそ……、あはは……」
「皆さんも、お友達ですよね?いやあ、会えて嬉しいです!
今夜は皆で楽しくやりましょう!!」
「こちらこそ、有難うございます……」
「えへへ、宜しくです……」
「初めまして……」
他の3人も旦那に挨拶する。
「さあ、皆、お肉どんどん焼くよー!ジャミルさん達も遠慮しないで
沢山食べとくれ!!」
母親と弥生が追加分の肉を居間へとどんどん運んでくる。
「はーい、遠慮しませーん!」
「……ジャミルったら……!恥ずかしいでしょ!!」
アイシャが注意するが、ご馳走を目の前にしたジャミルは珍野獣と化す……。
「折角のお肉、チビちゃんにも食べさせてあげたいよお~……」
ダウドが心配そうに自分の分の肉を見つめた。
「食いたくねえって言ってんだからしょうがねえだろ!」
「……意地を張ってるだけだよ……、たく、そんな事も
分かってやれないの……?」
「そうだよ、自分ばっかり野獣ウホウホみたいに食べてさ……」
アルベルトとダウドがジャミルを遠目で見る……。
「分ってるよ……、けど何だっ!バカダウドっ!野獣ウホウホ
っつーのは!!」
「あいたっ!!」
「きゃー、きゃー、ぷうううー!」
トウマが意味不明の言語を発しながらトコトコとジャミル達の
傍まで近寄ってくる。
「……おい、また転がりそうにならないでくれよ……?」
「いーぴーぴー!!ぽえええぷー!あっぽ!ぷいいい~」
「まだちゃんとお喋り出来ないけど、赤ちゃんて本当に可愛いわ……」
「あいっ!でしゅっ」
傍に寄ってきたトウマを撫でながらアイシャが呟いた。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 懐かしき人々と・1 作家名:流れ者