Rosa Alba
「―――乙女の恥じらい」
「何だと?」
あくまで鷹揚に構えるシャカに対して、アフロディーテはぽつりと言葉を零した。鋭い棘を指先に刺したように過敏な反応を示したシャカ。それを見たアフロディーテは至極満足そうな笑みを返した。クスクスと忍ぶように嘲笑いながら、淡い紅色の花弁を愛撫し、そっと手の中へ隠し包み込む。
「この薔薇の名前のことだ。“Maidens Blush”愛らしい名だろう?愛の囁きに頬を染め、いじらしさで男を虜にする乙女のごとく……とても似つかわしい」
「………」
「そして。おまえはどうかな……バルゴのシャカ?」
「――っ!」
クシャリと一気に力を込め、薔薇を握り潰したアフロディーテが手を広げた。パラパラと無残に散り落ちていく花弁。アフロディーテは憐れむことなく、無造作に投げ捨てた。
憤りのままに席を立ち上がったシャカをすかさずアフロディーテが上から押さえ込む。華奢な顔立ちでありながらもその力は本物。まだあの時、教皇に外された肩も十分には完治していなかったこともあり、シャカは苦痛に顔を歪めた。
「まぁ、待て。この程度で動揺するなんてそれこそ、いたぶり甲斐があるというものだ。一々目くじらを立ててどうする?シャカ」
「は…はなせっ!」
「言っただろう?力こそ正義だと。ねぇ、シャカ。おまえはあの男におまえこそが最高善だと示したくはないか?」
どういうことだ?と顔を上げたシャカにようやく手の力を緩めたアフロディーテは薔薇の唇をシャカの耳元に寄せ、囁いた。
「あの男にもね……弱点はあるのさ」
「君は一体なにを――」
フフッと蕾の微笑を差し向けるアフロディーテ。何を企んでいるのかシャカには予想もつかなかった。空気を含む軽やかに波打つ黄金の髪がまるで茨のように身動きもとれぬほどシャカに絡みつき、縛り上げるような幻覚に襲われたのだった。