zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 始まりの地で
「おう、アル、話終わったか?」
「うん、話を聞いて貰ったよ、ちゃんとね……」
「あれ?アル、何か随分すっきりした顔してるねえー!」
ダウドがアルベルトの顔を覗き込む。
「本当ね、眉間の皺が消えてるわ……」
「きゅぴー!」
「……アイシャってば……、あのね、皆にも……、聞いて欲しいんだ……」
「ああ、早く言えよ!」
ワクワクした顔で皆、アルベルトの側に近寄る。
「もしかしたら、僕はもう、……このまま魔法が使えないかも
しれない、だけど、それならそれで、僕は武器で戦う、皆には本当に
迷惑を掛けちゃうかも知れないけれど……」
そう言ってアルベルトは暫く封印していた草薙の剣を取り出す。
「よしっ、それでいいんだよっ!もう魔法なんか使えなくたって
いいじゃん、アルはアルだ、なっ!?」
「……ジャミル、うん……、ありがとう……」
アルベルトが少し顔を赤らめた。
「そうよ、このまま攻撃魔法は私にお任せねっ!」
「アイシャ……」
「そうだよお、賢者の石もあるしー!回復は心配ないよおー!」
「チビも頑張るよおー!これからはブレスもっといっぱいボーボー
吹くからねー!!」
「ダウド、チビも……、本当に有難う……、意地を張るのをやめるって
こんなに簡単な事なんだね……」
仲間達の優しい励ましにアルベルトは新たに決意を胸に刻む。
そして、外に出たリィトは小悪魔に戻り木の枝にぶら下がっていた。
……ほーっ、ほーっ……
「ホーホーうるせーりゅ、バカフクロウめ……」
……ほおおーっ……!ほおおーっ!!
「どいつもこいつも皆バカりゅ、人間は……、
誰かを守るなんてアホらしくてやってらんねーりゅ、
……バカ猿、バカ金髪、バカヘタレ、バカ団子、
バカドラゴン……、全員バカ大集合りゅ……」
最近、そのバカ大集合のメンバーに小悪魔自身も加担している事実に
本人もあまり深く考えていないのだった。
小悪魔、やらかす
此処、ダーマは手に職を求め、色んな人間が集まってくる。
己の力を試したいが為の人間、正式な職に就き仕事を求める人間、
無論、そうでない人間も……。
「さーて、これからどうすっか、変態野郎のちゃんとした詳細も
謎のままだしな、何時、どっから出てくるかも分かんねえし、
どうしたもんやら……」
「ねえ、リィトは何処行ったの?姿が見えないけど……」
ベッドの上で寝っ転がっているジャミルにダウドが聞いてみる。
「……社会科見学の一環だとよ、チビを連れて転職の間に行ったぞ、
バッグ借りて……」
「へえ、珍しいねえ……」
「……お主の求めている職は何じゃ?申してみよ……」
「はい、遊び人です……」
「もう一度……言うてみい」
「遊び人です……」
「帰れ!」
「ですが……、遠〇の〇さんなどは自称、遊び人ではないですか!
遊び人の何処がいけないのでしょうか……」
リィトはチビを連れ、神官と職業転職希望者のやり取りを只管眺めていた。
「バカだねえ、あー、バカだ!バカばっかりだよ!面白いけどさ……」
「ねえ、ドラゴンでも職業って持てるのかなあ?」
チビが何となく嬉しそうにバッグの中でパタパタ小さく尻尾を振った。
「……空飛ぶ運送屋にでもなったら?」
「きゅぴっ、じゃあ、チビ、大きくなったら運送屋になるっ、
うん、そーや!」
「……おい、あんまり間に受けないでくれよ、団子が噴火するからさ……」
と、言う処に又別の客がやって来た。
「……転職希望者です、お願いします……」
「ふむ、申してみよ……」
「えーと、女の子にモテそうな、お勧めの職業ありますか?」
「……帰れ……」
「あーあ、そろそろ飽きたよ、部屋に戻る……」
「きゅぴ?お部屋に戻る?」
「……おっと、ごめんよ!」
「うわ!」
ガタイのいい兄さんがリィトにぶつかってきた。
「……危ないな!気を付けてくれる!?痛いよ!あんた身体が
鋼なのかい!?」
「ははは、ごめんよ坊や、怪我しなかったかい?見てくれよ、
これ、凄い筋肉だろう?俺、今日から戦士に転職したんだよ、
これで真面な仕事が持てるよ!」
ガタイのいい兄さんはご機嫌でリィトに話し掛けるが、リィトは
不機嫌極まりない。
「……別にあんたのむさ苦しい話なんか聞きたくな……?
……そうだ……」
リィトが急いで部屋に戻ると、ジャミル達はトランプで
遊んでいる処だった。
「あんたら何やってんの?」
「おう、お帰り、大貧民やってんだよ、お前も混ざれよ」
「気を揉んでも仕方ないからね……」
「ほら、リィトも座って、一緒にやりましょ!」
アイシャが誘うが、リィトは呆れた様に拒否し、チビをバッグごと
アイシャに返した。
「フン、あんたらには付き合ってられないよ、又外に
出てくるよ……」
「ノリが悪いなあ、もう……、チビちゃんは遊ぶよね、
オイラの側においで」
ダウドが呼ぶと、チビは嬉しそうにダウドの膝に乗り、
一緒にゲームに混ざった。
「んじゃね、ちょっと、悪戯してくるよ……」
「ああ、行って来いよ」
「……」
ジャミルはリィトの言葉もまともに聞かず返事を返す。
部屋の外に出たリィトは小悪魔に戻り、ニヤニヤ笑った。
「けけっ、今、……行って来い、言いました?りゅ、
けけっ、けけけけ!!」
誰かに見つかったらどうするのやら、猛スピードで再び
転職の間まで飛んで行き、天井のシャンデリアの中に身を潜める。
「神官のじじいはどっかいってりゅね、お、客がきたりゅ……」
「ごめん下さいー、僕ら、転職希望です」
希望者は二人組のアベックらしかった。何処にいたのか、
少し場を外していたらしき、神官がのそっと又姿を現す。
「お待たせして申し訳ない、さして、どの様な職に就きたいと申すのか?」
「私達は、新婚なんですが、今度、二人で職を持ちたいと
思いまして、是非、夫婦で僧侶を営みたいと……、人様の役に立つ
職業に就きたく思います」
「ふむ、良い心がけじゃ、では、こちらへ……」
夫婦が神官の側に行き、転職の儀式を始める。
「それでは、この夫婦に新たな人生の門出を……!!」
「……リトルもお手伝いするりゅ!!」
神官が天の神からの力を夫婦に授けようとした瞬間、
小悪魔が邪魔をした……。
「どうですかな……?これでお二人は今日から正式に
僧侶として生きていく事が出来るであろう……」
「有難うございます、……私達……、何だかとても
遊びたくなりました……」
「ハイ……、真面目に働くのが何だか馬鹿らしくなって
きましたわ……」
「な、なんですと……!?」
「……けーっけっけっけ!恰好は僧侶だけど、リトルが魔法掛けて
遊び人にしてやったりゅ!人生は楽しく遊ばなきゃいかんりゅよ!!
けけけのけー!!」
シャンデリアに紛れて隠れながら、小悪魔が楽しそうにゲラゲラ笑った。
作品名:zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 始まりの地で 作家名:流れ者