zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 始まりの地で
ダウドが小悪魔を急かす。
「ヘタレに言われんでも分かってりゅ、本当、食い意地の張ってる
うるせー連中りゅね……、ちゃんこ鍋でも囲ってろりゅ……」
「……おめーもだよ、アホッ!」
スプーンを銜えてジャミルが怒鳴る。
(ちゃんこ鍋って、何だろう……?)
考える天然アルベルト。
「きゅぴ、チビもお腹ぺこ!」
「チビちゃんも、お腹空いてるのにちゃんとリトルを待ってたのよ、
ねえー、チビちゃん!」
「りゅ、りゅ……」
アイシャの笑顔を見、小悪魔が動揺する。
「どうしたの、リトル?」
「うわ、顔をアップにすんなりゅ!……はう~……」
「……何よ、変なリトル!」
(りゅりゅ~……、心臓の鼓動が……、鼓動が……)
「……まあ、ジャミルと一緒にいるんだから、心配ないか、
……変な奴だけどね……」
笑いながらファラもテーブルに着き、皆で夕ご飯タイムが始まる。
そして、その夜……、疲れを忘れ、全員ゆっくりと就寝モードであった……。
「……グルゥ……」
「君も大分、闇の力が強まってきた様だね……、頃合いかな、
奴らもそろそろ潮時だろう、もう終わりにしよう……、鬼ごっこは
これまでだよ……、お馬鹿さん達……」
……消える事のない、永遠の闇の時間がこの上の世界にも……、
遂に迫ろうとしていた……。
消えゆく光
「ジャミルっ、大変なの……!お願い、すぐ起きて!!」
「……?」
翌朝、ジャミルはアイシャの悲鳴に近い声とドアを叩く音で
目を覚ました。
「どうしたんだよ……」
ジャミルがすぐに部屋のドアを開けると、チビを抱え……、
半泣き状態のアイシャが突っ立っていた……。
「チビちゃんが……、チビちゃんが……」
「チビ……?……お、お前……!どうしたんだ、身体が……!!」
ジャミルも慌ててチビに近づく。……チビは半分身体が消え掛り、
時折淡く光っていた……。
「……きゅぴ……」
「大丈夫か!?お前……!!苦しくないかっ!?なあっ!!」
「……チビは大丈夫だよ……、だから……、アイシャも……、
泣かないで……」
チビはアイシャを安心させる様に頬をペロッと舐めた。
「ジャミル……、ねえ……、チビちゃん大丈夫だよね……?
消えたりしないよね!?」
「きゅぴ……、本当に大丈夫、……チビはほら……、
こんなに元気だよお……」
自分では大丈夫と言っているが、チビは何となくいつもと
様子が違い、二人に呼び掛ける声は弱弱しく……、切なそうな
表情でジャミルとアイシャを交互に見つめた。
「大丈夫だ、絶対に……、チビは大丈夫だ……、消させるか……、
消させてたまるかよ……」
「ジャミル……」
「……」
今のジャミルにはただ……、アイシャを抱きしめて、只管気持ちを
落ち着かせてやる事しか出来なかった……。
他の部屋で寝ているアルベルトとダウドも直ぐに気づき、
心配して起きて来る……。ジャミルは二人にもチビの状況を
話し、皆、居間へと集まった。
「こんな……、……こんな事ってないよお……、チビちゃん……」
ダウドも震えながらチビの身体に触れる……。
「ジャミル……、チビちゃんは大丈夫なんでしょ、ねえ……、
ねえったら……、どうなのさ!!」
ファラも錯乱し、思わずジャミルに掴み掛る。
「みんな落ち着こう……、僕らが冷静にならないと……、
余計にチビを不安にさせてしまうよ……、身体にも益々
負担が掛るかも知れない……」
チビはあれから身体を丸め、ずっと眠ったままになってしまった……。
「……」
「ふぁー、よくねたりゅ……、なんりゅ?、この辛気臭い
お通夜な雰囲気は……」
其処へ、空気を読めない小悪魔が起きて来る……。
「バカドラゴン……?どしたりゅ?」
小悪魔も、編かごの中で静かに眠り、動かないままの
チビの様子に気づく。
「……朝起きた時から……、もうずっと様子がおかしいのよ……」
腫れあがった瞼を押さえながら小さく声を出し、アイシャが
やっと小悪魔に応対した。
「そう言う事りゅ……、けけ、けどリトルには知ったこっちゃねえりゅ……、
……外に出掛けてくるりゅ……」
「……」
誰も小悪魔の方を見ず、返事もせず、黙って俯いていた……。
「フン、しけたアホ連中りゅ!……本当、面白くないりゅ!」
小悪魔は一歩外に出ると、リィトの姿になる。
「……バカドラゴン……、一体何が起きているんだ……、それに……、
この空の模様は……」
そう呟き、リィトは空を見上げた……。
「とりあえず、あたい……、朝食作ってくる……、何か食べないと、
元気でないもんね……」
目を擦りながらファラが立ち上がる。それを見たアイシャは……。
「……わ、私も……!」
「いいよいいよ、あんたは此処で休んでな……、チビちゃんの
側にいてあげて……」
ファラが立ち上がろうとしたアイシャを止め、再び
椅子に座らせた。
「ファラ……」
ファラはアイシャにウインクすると、台所に入って行った。
「……泣いてばっかりいられない……、私達は出来る事を
しないと……、そうよ、絶対にチビちゃんは消させないわ……、
私達が絶対守るんだから……」
震えながら俯いていたアイシャが漸く顔を上げる。
「……奴らが又……、近くまで来てるんだな……」
「恐らくね……、チビの状態がこうなっているって事は……、
闇の力の方がどんどん強くなって増してるって事だ……」
「……チビちゃん……」
ダウドが寝たきりになってしまったチビの傍にそっと近づき、
消え掛けている身体を静かに、優しく撫でた。
「チビちゃんの未来を取り戻そう……、オイラも何処まで
出来るか分かんないけど頑張るから、だから……、あの変なのと……、
闇のドラゴンを倒そう……」
「……ダウド……」
溢れそうな涙を堪え、ダウドがジャミルと皆の顔を見た。
「ねえっ、あんたら!早く外に出なよ!」
「リトル……、いや、リィトになってんのか……」
「早くっ!!」
リィトに言われるまま、4人は急いで外に出る。
「……これって……、嘘だろ……」
さっきまで登っていた太陽が消えてしまい、空を一面の闇が
覆い尽くしていた……。
「間に合わなかったの……?、もう……この世界の光を全て
奪い尽くされて……、だから……、チビちゃんも……」
目の前の現実と絶望に打ちひしがれ、アイシャががくんと
その場に座り込む……。
「あっ、ジャミルちゃん!ど、ど、ど、どうなってんだい、
これは……!あああ……、空が……、空が……まるで夜みたいに
真っ暗になってるじゃないの!!」
「……おばさん……」
近所のやかましいおばさんをはじめ、町中の者は皆混乱して
家から出て、真っ黒な空を見上げていた。
「おお、勇者よ……、これは一体どう言う事だ……、ゾーマは
倒れた筈ではなかったのか……」
「国王様、危険です!すぐにお城にお戻り下さい……!」
作品名:zoku勇者 ドラクエⅢ編 その後編 始まりの地で 作家名:流れ者