サブエピソード集・続勇者、始めます。
「こんにちは、あなたも冒険者さんですか?」
アイシャが挨拶すると、女性は嫌な顔をする。
「……ペチャパイに用はないわ、口を聞くのも汚らわしくてよ!」
「なっ、何よ!胸なんか関係ないでしょ、私はただ、あなたが
冒険者さんかどうか聞いただけでしょ、……酷いわ!!」
「アイシャ、……落ち着いて、喧嘩は駄目だよ……」
アルベルトがアイシャを落ち着かせようとするが、突然女性の暴言に
本人は怒りが収まらない。
(この糞女、誰かと似てんなあ、……そうだ、エジンベアの糞王女だ……、
何処の場所でも瓜二つの奴はいるモンだ……)
「……ああっ、あ、あなたっ!」
女性は、一番後ろでオロオロしていたダウドに目を付けると、
ずけずけと近寄って行き……、何故か手を取った。
「……え?えええええっ!?オ、オイラですかあ!?」
「あれま、なんとまあ、珍しいお光景で……」
あまり、見た事のない珍しい情景にジャミル達は揃って目を丸くした。
「私、あなたが気に入りましてよ、どう?私と一緒に組みません事?」
「ええええっ……!?オ、オイラ……、困るよお~……」
「そうよっ、勝手な事言わないでよっ!」
「ペチャパイのあなたには言ってないのよ、私はこの方に言ってるの!
……ねえ、どうなの……?」
「あああ、わわわ!」
「私は、マーレと言いますの、……ねえん、この先は
どうしても盗賊さんの力が無いと、駄目なのよ、お願い、
力を貸して頂けないかしら……」
……マーレと名乗る女性はますますダウドに近づいて行き……、
ダウドを誘うのであったが……。
「……用があんのはダウドじゃなくて、……賊、その物の
能力なんだろ?つまり、賊がいりゃ、別にダウドじゃなくても
どうでもいいんだろ……?」
「うっふん、ご名答さんね!この村の奥の洞窟にお宝が眠ってるのよ!
私は其処を目指してるの!だから、この人の力を借りたいのよ!
とっとと私の方のPTに入りなさい!」
マーレは胸をわざとプルプル震わせ、ちらつかせ……、ダウドに誘惑を
掛けている様であった。
「ダウドは物じゃありませんよ?僕らの大事な仲間です、用が済んだら
ポイなんでしょう……?だったら、ちゃんとギルドに行って、あなたの為に
力を貸してくれるきちんとした盗賊を仲間に入れるべきでは……?」
「そ、そうよっ……!」
遂に、アルベルトもキレ、話に割り込むが、しかし、マーレは動じず、
どうしても諦めきれない様子で、ダウドに更に近づいていく。
「……嫌よ!私はどうしてもあなたがいいのっ!……ねえーん、
お願い……、どうか力を……、お願い……」
「困ったなあ~、どうしよう、どうしよう、……オイラ……」
ダウドは救いを求める様にジャミル達の方を見た。
「そうか、お前、こんなに気に入られてんだな、良かったな?」
「……ジャミルっ!!」
「ちょっと!何言ってるのっ!!」
「あら?分って頂けましたの?あなた、物分かりがいいのねえ!」
「いや?全然?……ダウドは貸してやるよ、……但しっ、俺らもお前に
着いて行かせて貰うぜ?それでいいなっ!?」
「まあ……」
「あはっ、ジャミルっ!そ、そうよっ!別に私達が一緒に行って、
何も悪い事なんか何一つないんだからねっ!」
「そうですよ、……僕らもご一緒させて貰います……」
ダウドを除いたトリオは、揃ってマーレの方をジト目で見るのであった。
「ハア、……お好きになさったら?但し、此方にも考えが
ありますわ、宝は見つかってもあなた方には渡しません、
それで宜しいかしら?」
「別に要らねえよ、アンタの好きにすりゃいいさ……」
「では、契約成立ですわ!洞窟へは、この先の旅の扉から行けます、
移動しましょう……」
マーレは率先して、村の奥へと歩き出す。
「なーによっ、感じわるっ!さっさと仕事済ませて、あんな人から
離れたいわっ!」
機嫌の悪いアイシャを宥めつつ……、マーレを追い、旅の扉へと向かう。
確かに村の奥の片隅に、ひっそりと旅の扉があった。
「さあ、此処から洞窟に行けますわ、行きましょう」
「随分、お詳しいですね……」
アルベルトが訪ねると、マーレは少し嫌な顔をするが、すぐに
高飛車な態度に戻る。
「まあ、昔……、此処に住んでおりましたから……、ですが、今は何も
関係ないですわ……」
「やっぱり、この村の出身だったのか?此処って、ゾーマに
封印されてたんだろ?けど、村の割にはどうして他に住んでる
奴も見当たらないんだ……?」
「関係ないと言っているでしょう、今は私の仕事を手伝って
頂く方が先ではなくて?」
「……そうかよ、んじゃいいよ、もう何も聞かねえよ……」
4人とマーレは旅の扉を潜り、地下洞窟を進んで行く。
「こんな場所が、あったんだね……」
「モンスターはいないよね、大丈夫だよね……」
「……」
率先して4人の先を歩いていくマーレは、急に何も言わなくなり、
只管黙って前を歩いている……。
「何だか、何か隠してるみたいだわ、怪しいわよ…」
「ま、そりゃそうだろうさ、何かしら騒動が起きなきゃ
この話じゃねえしな……」
「ジャミルったら……」
4人の先を歩いていたマーレが急に立ち止まった。
「此処ですわ、着きましてよ……」
「お?此処……」
辿り着いた先は地底湖であった。
「行き止まりだよお、……ふ、船……、何処かにないの……?」
「いいえ、此処で終点でいいのですわ、さ、あなたのお仕事でしてよ……、
レミラーマを使って、湖からお宝を引き上げて下さる?」
「う、うん……、だけど、出来るかなあ……?あんまり重い物は、
ちょっと無理かも……」
「それでも何でもとにかくやるのですわっ!」
「ひっ!わ、分ったよお……」
「な、何て人なのよっ!……ますます頭に来ちゃうわっ!!」
「……」
「レミラーマっ!!」
「きゃあっ!宝石っ!!」
ダウドがレミラーマの潜在能力を使い、沈んでいたお宝を湖から
次々と浮かび上がらせた。
「はあ~……」
「おい、無理すんなよ、……アイテムの位置、光らせるだけなら
まだしも、余分な事あまりすると、MP削るぞ……」
「……わ、分かってるけどさあ……、頼まれた以上は仕方ないよ……」
「マーレさん、それで……、あなたのお目当てのお宝は有りましたか……?」
「……いいえ!」
アルベルトが聞くと、マーレは首を振り、きっぱり否定する。
「ええええ……!」
「……お~い、探してんのは宝石じゃねえのかよ……」
「私のお目当てはこんな物ではないのです!さ、続けて頂戴!」
……マーレはダウドがMP削り、折角引き揚げた宝石を
無残に蹴り飛ばした。
「ちょっとっ!いい加減にっ……!!」
「はあ、大丈夫だよ、アイシャ……、オイラもう一回頑張ってみる、
……この人が一体何を探してるのか知らないけどね……」
「……ダウド……」
作品名:サブエピソード集・続勇者、始めます。 作家名:流れ者