サブエピソード集・続勇者、始めます。
ウチの店の前をウロチョロすんじゃねえぞ、……ゴミ浮浪児が……」
男は倒れた少年に淡と唾を掛けると身体を蹴り、先程のゴミ箱を
抱えて来ると少年にばさっとゴミを被せた。そして、男はすっきりした
様子で店に戻って行く。
「……う、いたた、駄目……、だなあ、僕って……、本当に……、
お母さん、お父さん……、……」
身体の痛みが漸く治まり掛けた頃、傷だらけの足を引きずり、
とぼとぼと……、少年は一人で町の中を歩いていく……。
少年が向った場所は……、路地裏の先にあった大きな
廃墟屋敷であった。孤児の少年は、この町にたどり着いた時、
屋敷を見つけ暫く滞在する事にしたのだった。
「今日もご飯はちゃんと食べられなかったけど……、このお家にも
何時までいられるのかなあ……、……お腹空いたなあ……」
「……りゅー、ふんががが、りゅ~……」
「だ、誰……?も、もう……、他に誰か住んでいるの……?
でも、僕……、休める処がないんです、お願いです、もう少しだけ
場所を貸して下さい……」
少年は祈りながら廃墟へと足を踏み入れる。……こういった
場所でも常に浮浪児達や乞食のショバの奪い合いになるケースも
殆どである……。
「あっ……?」
少年は驚く。……壊れ掛けたソファーの上で寝ていたのは、
今まで見た事のない、人間では無い異形の者であった。頭部には
尖った変な物が生え……、寝ている様子であったが鼻提灯を出し、
長い舌をベロンと出してだらしなく寝ているのだった……。
少年は恐れず、とてとてと異形の者に近寄り、顔をぺちぺち叩き、
頭部から生えている2本の尖った触角な様な物を引っ張ってみる。
「あはは、面白ーい!」
「りゅ、りゅりゅ……?」
その異形の者は……、寝ぼけ眼で少年の顔を見……、
そして飛び跳ねる。
「りゅーーっ!なんりゅ、おまえはーーっ!!近づくなりゅーー!!」
異形の者は警戒し、手に持っていた大きなフォークを少年に向けた。
しかし、少年は恐れる事を知らない。
「ご、ごめんなさい、頭から変わったアクセサリーが生えて
いたので、つい……、それに何だか、昔飼っていた犬のポチかと
思ったんです……、似ていたので…」
「誰がポチりゅーー!偉大なるこの悪魔族、魔界の王子の
リトル様に向かって犬呼ばわりとは……、いい度胸りゅ、
……人間め……、ヌッ殺したるりゅ……」
「凄い!ポチ……、君、喋れる様になったんだねっ……!!
あ、ご、ごめんなさい……」
「……りゅ、……こ、こいつ……、呆れたバカりゅ、何処までもっ、
リトルを馬鹿にする気りゅねーーっ!?」
「……リトルって言うんだ……、此処は君のお家だったんですか?」
「違うりゅっ!さっきから言ってりゅーーっ!リトルは優秀な
ベビーサタン、いずれはこの人間界を支配する魔界の王子なり
りゅよーーっ!!」
小悪魔はムキになり、少年に向かって奇声を上げる。けれど少年は
動じず、……下を向いて小さく声を出す。
「そっか、そうだよね……、ごめんなさい、犬が喋る訳ないよ……、
ね、ごめんなさい、……本当にポチに君が凄く似てたから……、
つい……、……大好きな……、一番の僕の友達だったんだ……、
もう死んじゃったんだけど……」
「……お前、ほんまもんのバカかりゅ……?りゅ……」
「えへへ、そうかも知れない……」
少年はそう言って、小悪魔の隣にちょこんと座った。
「……ふふ……」
「ニヤニヤ笑いやがって、気持ちわりィヤツりゅね……」
「リトルーっ!リトルーっ!何だか嬉しくなっちゃった!
名前を呼んだら、僕、凄く嬉しくて、どうしてかなあ?」
「知るかりゅっ!あー!軽々しく名前を呼ぶなりゅっ!
何処までもずうずうしい奴りゅっ!」
「えへへ、そうかも知れない……」
「やっぱり、お前は馬鹿りゅ……、なんつーヤツりゅ……、
お前は何でリトルに近寄ってきたのりゅ?怖くないのかりゅ?
リトルは悪魔族の偉大なる魔界のプリンスりゅよっ!そこに
ひれ伏せりゅっ!」
「どうして?別に全然怖くないよー!ふふっ!」
「おかしな奴りゅ……、人間つーのは皆何処か頭がおかしいのりゅ」
「そんな事ないよー!」
そして、少年は小悪魔に目を輝かせ……、色んな事を話す。
自分の病気の事……、両親が死んで孤児になった事、幼い頃から
大好きなドラゴンの事、自分が持っている……、大きな夢の事も……。
……小悪魔が魔法で出し、身体を冷やした少年を温めていた
メラの火も消え掛けた頃……。
「……すう……」
「やっとねたりゅ……、……このまま、リトルも本当に
おいとまするかりゅ、どうせもう命がないのなら、ほおって
おいてやるかりゅ……、ふん、サービスりゅ……」
「……リトル、何処にも行かないで……、お願……い……」
「やっぱり、バカりゅ……、知ったこっちゃねえりゅ……、
勝手にしろりゅ……」
何故かどうしてだか、小悪魔は少年を残しておく事が出来ず、
その場に留まったのであった。
翌朝……。
「ん……、リトルっ?……又いない……、何処か行っちゃったの……?
今度こそ本当に……」
「ふん……」
「リトルっ!……あはっ、リトルーっ!」
「飛びつくなりゅ……!んとにうっとおしいヤツりゅねーっ!
……パンとかいう糞まずいうんこを持ってきてやったりゅ、
ほれ食えりゅ……」
「ありがとうーっ!うれしいなあーっ、……で、でも……、
このパン……、何処から……?」
「いいんだりゅ、おめーは余計な心配しねーでとっとと
食いやがれりゅ!又発作が出て死なれたらこまりゅ!
おらおらおら!」
「……ありがとう、リトル……、凄く美味しいよ!ねえ、
君は食べないの?」
「いらねえりゅ、だからおめえが食えばいいりゅ……」
「駄目だよ、一人で食べても全然美味しくないもの、はいっ!」
少年はニコニコ笑いながらパンを半分千切って小悪魔に
差し出す。
「こんな糞まずい物……、ニンゲンつーのは本当に
分らん生き物りゅ……」
「ふふ、そうかもしれないね!あのね、パンにはね、
ラーマって言う塗り物を塗るともっとおいしくなるんだよ!
僕、大好きなんだ!」
「それを塗れば不味いパンでもリトルの口にも合う様に
なるのかりゅね……、ふん、けっ」
そう言いながら……、小悪魔は少年が差し出したパンを口にする。
小悪魔が持ってきたパンは、パン屋に小悪魔が魔法を掛けて悪戯し、
一騒動の際に隙を見て勝手に持って来た物であった。小悪魔に
善悪の感情などないが、店の外で野良犬相手に暴力を振るい
喚き散らすパン屋の店主のその姿勢が……、小悪魔には非常に
不愉快で気に食わなかったのだった。
「……悪魔族は人間が大嫌いりゅ……、けど……、お前は中々
見所があるりゅ、お前だけは父上に特別に頼んで、このリトル様の
忠実な側近ナンバーワンにしてやってもいいりゅ……、魔界に戻ったら……」
「本当に?僕、魔界に行けるの?連れてってくれるんだ!嬉しいよーっ!
ああ、リトルーっ!!」
作品名:サブエピソード集・続勇者、始めます。 作家名:流れ者