三大欲求
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……まずい。計算外だ。
今、己はこれまでにない危機に見舞われている。
逸物は萎えることなく、猗窩座によって育て上げられていた。
「杏寿郎、これはどうだ?」
「っ…、」
「…違うのか?ならばこうすればいいか?」
「うぁっ…!」
「そうか、こうだな!もう少し強くするぞ」
ひとつひとつを確認しながら。こちらの表情や息遣いを観察しながら。
文字どおり探り探りといった感じで、猗窩座はこの場で手管を磨いていた。
これ程までに辛抱強く技術向上に励むことにも驚いたが、何よりも計算外なのは必死な相手の姿を可愛いなどと思ってしまっている自分自身の心だ。
甘い吐息が漏れたり雄が大きくなると無邪気な笑顔を向けてくる。こちらの一挙手一投足で一喜一憂する猗窩座に、あろうことか情が芽生えつつある。
先端からはトロトロと先走りがとめどなく滲み出て竿を伝い、ずらされただけの褌を湿らせていく。
猗窩座の掌との摩擦でたつ、くちゅくちゅという卑猥な水音がどうにも耳についてしまう。
…こんなはずでは、なかったのだが。
「……も、もういいだろう。これで俺が不能でないことは証明できたはずだ」
「確かに不能などではないな。お前に相応しい美しい魔羅だ」
う、美しい魔羅。
…深く考えるのはよそう。
それよりも今は、まかり間違って彼の手で果ててしまったらという恐怖が胸中を支配していた。
猗窩座の手首をおさえ、与えられる刺激を拒絶する。
「退いてくれ。…あとは、自分でどうとでもする」
「?…意味がわからん。俺がここまで育てたんだぞ、俺が最後までする。当然だろう」
「意味がわからないのはこちらの方だ!大体君、他人の逸物に触れて不快に感じないのかっ?」
焦燥から声を荒げるこちらに、猗窩座は心底理解できないとばかりに怪訝そうに眉を顰めた。
「杏寿郎の身体に触れて不快に思うはずがないだろう。お前は俺が認めた男だぞ。」
そう言って、手首を掴まれたまま強引に施しを再開する。
「しかし不思議だな。杏寿郎が喜ぶと何故か胸が熱くなる。…ああ、こっちもまた触ってやろう。確かこうだったな」
「よ、喜んでいな……ぁ、んんっ…!」
張り詰めた双球に猗窩座の濡れた指先が絡みつき、やわやわと揉み込まれてびくりと腰が震えた。
…まずい。
着実に上達している。
この鬼、こちらの反応をもとに弱いところや力加減を学び、吸収したことは忘れないらしい。最悪だ。
……本当に、まずい。
「杏寿郎、そろそろ達したいだろう?どうすればいい?」
「っ…」
まっすぐ向けられる猗窩座の金色の瞳からは、辱めてやろうという悪意は欠片も感じられなくて。
純粋に己の技術を高めたいがために鍛錬を重ねているような感覚なのだろう。迷惑この上ない。絶対に指南してはいけない。
煉獄が顔を背けて目を閉じると、教えを乞えないと察した猗窩座は手を休めることなく「…ふむ」と少し思案する。
今のうちに精神を統一させ、不測の事態に備えなければ。
「…こうすれば、どうなる?」
呟くようにそう言いながら、一度手を離し、次の瞬間には鈴口の割れ目にぐっと指を捩じ込まれた。
「ッ…!」
視覚を遮断していたのは自己責任だが、思わぬ局所的な強い刺激に快楽の電気が駆け抜けて身体が跳ねる。
奥歯を噛み締めて声を押し殺すこちらの姿に、猗窩座が嬉しそうに小さく笑ったのが気配でわかった。
更にぐりぐりと指先で先端を攻め立てられ、意識と切り離されたところで断続的に腰が戦慄いて制御が効かない。
「や、め…」
喉が震える。
声帯を開くと、甘く媚びた声が出てしまいそうで、必死に歯を食いしばった。
全身に力が入り、熱い。
急激に迫り上がってくる射精感に、すべてが支配されてしまいそうになる。
少しすると猗窩座は再び雄全体を包むように手のひらに収め、激しく上下に扱きはじめた。
「ぁあっ、は…ッ、」
ぶわりと官能の波が押し寄せ、堪らず息が乱れて熱い吐息が溢れる。
直後。
その吐息ごと飲み込まんばかりに、唐突に口が塞がれた。
驚きに煉獄が目を見開くと、触れ合いそうなほど近くに猗窩座の顔があった。否、実際触れ合っていた。
唇が。
大混乱に陥りながらも相手を突き飛ばそうとするが、逆にこちらの胸を押さえ込んでいた猗窩座の腕が閃いて、壁についていた煉獄の肩に後ろから回されたかと思うと力づくで抱き寄せられた。
身体を離すことを諦めて煉獄は拳を固め、猗窩座の背を思いきり殴りつけるが動じない。
先程までの落ち着きぶりから一転して、まるで求めているかのような性急な口付け。酸素不足の煉獄の頭の中には疑問符が飛び交っていた。
そして視界が捉えたのは、苦しげに目を閉じて必死にこちらの口腔内を貪る猗窩座の姿。