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構築者

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翌々日。
ファータ・グランデ空域に戻ったグランサイファーから降りたネツァワルピリとガウェインは、アルスター島まで定期艇を乗り継いで渡り、小型騎空艇を借りて翼の一族の島に向かうこととなった。

が、ここでひとつ問題が生じていた。


「…おい貴様。騎空艇なんぞ操縦したことあるのか?」


レンタルのそれは二人乗りで、競技用のものと大きさは似通っているが性能は大きく落ちる。
速さよりも安定を重視した造りとなっており、初心者でも操縦は可能という売り文句で貸し出されていたのだが。

胡乱げにガウェインが訊ねると、ネツァワルピリは自信に満ちた表情で「ない!」と元気よく即答してきた。


「まあしかし、初心者でもできるというのだからやってみようではないか」

「…調子の良いことを」


高所恐怖症のくせに大丈夫なんだろうなという懸念が大いにあるが、口にしてしまうとせっかく気にしていないであろう本人に思い出させてしまうような気がして、胸の内にしまった。
二人仲良く空の底に真っ逆さま、なんてことにはならないだろう。

借りる際に一連の操作説明は受けた。初心者でも乗れると言うだけあって、複雑なものは何もない。
ネツァワルピリが運転席、ガウェインが助手席に乗り、エンジンがかけられた。


「おお!なんとかなりそうであるな!」

地面から飛び立ったわけでもないのに、既にモノにした気になっている様子のネツァワルピリに不安しか感じない。
ガウェインはこっそりシートベルトを握り締めた。

「浮くにはこのレバーを引くと言っていたが…」

「ゆっくりだぞ。ゆっくり引けよ」


ネツァワルピリの手元を凝視しつつ、呪詛のように低い声で注意を促す。
豪快な鷲王の辞書にはゆっくりという単語が載っていないのか、蛇口を捻るような気軽さですっとレバーを引いた。視覚情報だけで寿命が縮まる思いをしながら、シートベルトを握る手に汗を滲ませるガウェイン。

レバーの勢いの割には乱暴に浮き上がることはなく、何かに掬い上げられたかのように騎空艇は地上から離れた。そのままのろのろと前進を開始しており、ネツァワルピリは小首を傾げて足元を確認する。


「アクセルはまだ踏んでおらぬが……ブレーキをかけていないと自動で僅かに前進するということか」

「アクセルだけはゆっくり…いや、そっと、優しく踏め。優しくだぞ」


ゆっくりという単語を知らないらしい男に別の言い方で言い含める。
何やら楽しそうな様子のネツァワルピリに言い知れぬ不安感を抱くが、「任せよ」と好奇心のままに目を輝かせている相手に諦めのようなものを感じた。


「では、参ろうぞ!」


釘を刺したことが功を奏したのか、アクセルを踏み込むような真似はしなかったがそれなりにぐんっと身体がシートに押し付けられる感覚を残して、騎空艇は滑り出した。

手のひらに冷や汗を滲ませ、ガウェインはもう瞬きをする余裕もなく正面だけを見据えることしかできない。
対するネツァワルピリは、周囲を見渡しながらはしゃいでいる。
もちろん下だけは見ないようにしているようだが、この男の得体の知れない自信はどこから出てくるのだろうか。それとも恐怖や緊張からハイになっているだけか。


「お、おい、もう少し高度を上げておいた方がいいんじゃないか」

「うむ、そうであるな!……高度の調整は、どこだったか」

「ハンドルだ。手前に引くと高度が上がって、奥に倒すと下がると言っていた」

「おお、そうであったな!つまり…こう、か」

「っ!?」

ネツァワルピリがハンドルを引いた直後、ガギン、と何か金属が外れるような音がして、機体が空を駆け上がるかのように上向きになって急上昇した。
なんとか歯を食いしばり声を押し留めたガウェインだったが、何故かスピードが上がっていることに気づいて堪らず声を張った。

「おい踏むな!速度を落とせ!」

「ま、真っ直ぐにならぬ!」

「それを倒せばいいんだ!あと足!足どけろ!」


こちらの言葉にはっとしたようにネツァワルピリはハンドルを倒したが、再びガギン、と音と共に今度はジェットコースター宜しく下降した。


「のああああああ!!!」


これには流石の鷲王も絶叫し、混乱のせいかがむしゃらにアクセルをベタ踏みしていて。


「落ちる落ちる!足!足上げろ阿呆!!」


ガウェインは必死にネツァワルピリの右足を何度も殴りつけ、ズボンの生地を掴んで力任せに足を浮かせた。


「だだだだ駄目だガウェイン殿墜落するぞ!!」

「するか馬鹿が!こうするんだっ!」


助手席から身を乗り出してすっかりポンコツと化した隣の男の手からハンドルを奪うと、慎重に引いて機体を水平に戻していく。
安定したところで少しだけ上向きにし、緩やかに上昇をさせていく形をとってガウェインは無意識に止めていた息を吐き出した。

運転席ではネツァワルピリが、完全に魂が抜け出た顔で放心している。こいつは多分まだ息をしていない。


「……もうこのまま、進路だけ合わせて進むぞ」


聞こえているのかいないのか、高所恐怖症の王様は撃沈して、目と口をかっぴらいたまま微動だにしない。
ガウェインは横合いからハンドルをちょんちょんと微調整しながら、そっと気遣わしげな視線を男に投げた。

二回聞こえた大きな金属音は、十中八九何かが壊れた音だった。
おそらく、急上昇や急降下をしないようにハンドルにはストッパーがついていたのだろう。それをこいつの馬鹿力が破壊してしまったといったところか。
せっかく克服してきていた高所に対する恐怖心も、先程の一件でまたトラウマになってしまったかもしれない。正直あれは俺も怖かった。死ぬかと思った。
帰りは運転を代わったほうがいいだろう。自分もまったくできる気はしないが…
と、そこまで考えて、はたと思い当たった。

もしかして、こいつがやけに自信満々に引き受けたのは……俺が原因か。


「……、」

そうであれば、あの不自然な高揚具合と猪突猛進な挙動にも得心がいく。

騎空艇の操縦などしたことがなく、暗に辞退をする姿勢を見せていたこちらが気負わないように無理矢理明るく振る舞って、不安がらせない為になんとかなると自信があるように見せていただけ。
その実、本当は自ら操縦して空を飛ぶなどという芸当に恐怖でいっぱいになっていて、真下への急転直下に耐え切れずショートしてしまったのだろう。

「……大馬鹿者だ」


舌打ちをして、口の中で小さく毒付く。
自分自身に腹が立つ。俺がついていながら、なんという無理をさせたのか。


作品名:構築者 作家名:緋鴉