構築者
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昼間の不埒な発言を、決して真に受けたわけではなかったのだが。
「あ……っ、んぅ」
「ガウェイン殿っ…」
夜になると宣言通りベッドに連れ込まれた。
散々想いの丈を囁かれて深い口付けを見舞われ、心も身体も愛でられて相手の猛りを胎内に迎え入れている。
仰向けの状態で覆い被さられて両脚を肩に担がれた屈辱的な姿勢だが、そんなことに拘泥する余裕などない。奥まで貫かれた後腔は快感にひくつき、抽挿を繰り返す楔に絡みついてはしたない水音を立てていた。
声が給仕係に聞こえてしまうことを恐れ、右手で口を覆って押し殺していると、見かねたネツァワルピリが不意に顔を寄せて、まるで口付けでもするかのようにこちらの手の甲に唇を押し当てた。
「…痺れは?」
流し目で短く訊ねてくる様がどうしようもなく色っぽくて。
「もう…、ない」
ガウェインは口を隠したまま答え、至近距離の色気から逃げるように少し顔を横にずらした。
ネツァワルピリは一度顔を離したが、すぐに今度はこちらの首筋に鼻先を埋めてくる。
奴の髪や鼻、唇、頰が肌を掠めるだけで、ぞくぞくと官能の波が下腹部に駆け抜けていく。
直後、熱く湿ったものが、頚部に触れた。
「っ…!」
舐められている。
そう理解するのに時間はかからなかった。
耳の下から首筋を降っていき、鎖骨の窪みを舌先で遊ばれる。
擽ったさに腰が浮いてしまう。
ネツァワルピリは舌を往復させていたかと思うと、今度は軽く歯を立ててきた。
「や、やめ…ろっ」
人体の急所である首に、甘噛みではあるが噛み付かれる感触は心臓を直に掌握されているようで。
しかし不快な緊張感ではなくて、それが不可解だった。下手をすれば快感すら拾いかねない危うい感覚。
痛みに興奮を覚えるような性癖は持ち合わせていないと自らを戒めたとき、噛まれた箇所にねっとりと柔らかい熱が這わされてびくりと身体が跳ねた。唇の裏で舐っているのだ。
「んん…!」
「ガウェイン殿……声が聞きたい。手をどかしてはくれまいか」
熱い吐息混じりの低い声が、耳のすぐ近くで甘く響く。
それだけで腹にはきゅっと力が入ってしまうが、これはバレていないのだろうか。
なんとか拒否の意思を示そうと小刻みに首を横に振ると、ネツァワルピリは逡巡するような間を刹那あけてから、腰の動きに角度をつけて奥ではなく腹側の弱いところをぐりぐりと突いてきた。
「ぁあ!そ、そこ…ッ、あっ、く…、」
びくびくと強い愉悦の波が電流のように胎内を駆けまわり、堪らず声が漏れる。
「き、貴様……ぁ、やっ…卑怯っ…」
「こうでもせねば、お主の甘美な声が聞けぬでな…」
甘美な声はどっちだ!
胸中で抗議をするが、ここで口を開けばまたあられもない嬌声が漏れ出てしまう。
が、ネツァワルピリの腰使いが捩じ込むようなものから突き上げるものに変わると、口を閉じていられないほどの強制的な快楽がその一点から押し寄せてきて、もう堪えることなど出来なかった。
決定的な刺激が断続的に与えられ、大袈裟なほど身体が跳ねる。
「あっく…!や、やだっ……ぅ、あぁッ!」
「ふ、いやらしい……っガウェイン殿…」
ネツァワルピリは一度身体を起こしてこちらの脚を担ぎなおし、体勢を整えると改めて激しい抽挿を施してきた。
ずちゅずちゅと粘性の水音が大きくなり、肌がぶつかり合う。快感に張り詰めた自身の雄から、透明なものが滴っては散っていく。
揺さぶられる感覚が不安で、行き場を失った手が無意識に眼前の男の頭を抱き込んだ。
ネツァワルピリの上体が沈んだことで自分の身体が更に折りたたまれ、突かれる場所がずれて奥へ奥へと移っていく。とん、と壁に当たるのがわかり、最奥を犯される危機感に鳥肌がたった。
同時に、男の小さく笑う息遣いが腕の中で聞こえて。
「…誠、煽り上手よな。…堪らぬ」
掠れ気味の低い声で呟くと、ネツァワルピリはゆっくり腰を引いて、奥の一点をごつん、と強く突いた。
「あ、ぐ…っ」
怖くなるほどの気持ちが良さに、じわりと涙が滲む。腰がまるで別の生き物のように跳ねた。反り返った逸物から、ぽたぽたと先走りが己の腹に垂れてくる。
ネツァワルピリは腰を引いては穿つという大きな動きを繰り返し、次第にその間隔を小さくしていく。
気がつけば後腔の粘液が溶けてしまうのではと思うほど熱く熟し、間断のない責苦に全身を支配されていた。
「ひ、ぅあ…!ダメ、だっ……出るっ、ん、はぁぅっ…!」
がつがつと内から突き破られそうなほどの衝撃と官能を叩きつけられ続け、視界に火花が散る。いつの間にか涙が頬を伝っていた。
駆け上がってくる射精感に身が震え、助けを乞うように瞳を彷徨わせるとネツァワルピリのこちらを見上げる獰猛な視線に捕まった。形容詞がたい雄の炎が、どこか苦しげに双眸の中で激しく揺らめいている。
「はっ、ぁ…ネツァ、ッ…イ、く……んんっ」
「ッ……」
相手から目を離すことができないまま、ガウェインは殊更大きく腹部を痙攣させると白濁を放った。
その後を追うようにネツァワルピリも雄を引き抜き、こちらの腹の上に欲を吐き出す。
獣のような荒々しい息遣いだけが部屋に響く中、ネツァワルピリが肩に引っかけていた脚を解放し、しがみつくようにガウェインの上体を抱き締めた。
「…なんだ」
「……今少し」
「……」
この男が自分を求めているということに、誰に対してかもわからない優越感のようなものが込み上げてきて。
昼間は兜のせいでできなかったが、今度こそ鳶色の頭を撫でてやった。