zokuダチ。セッション13 ジャミ公の夏休み(?)編・1
アイシャが急いでエントランスまで行くと、玄関先にタチの悪そうな男が
足を組んで座ってイライラしていた。
「すみません、あの……、何か御用ですか……?」
「お嬢ちゃん、此処のマンションの人?他に誰か大人の人で住んでる人
いないの?」
「今日は皆さん出掛けてます……」
「珍しいねえ、集団逃走か、仕方ねえ、んじゃ嬢ちゃんでもいいや、ちょっと
こっち来てよ……」
「だから、何なんですか……?」
男の傲慢な態度にアイシャはイラッとし始める……。
「嬢ちゃん、あんたも年頃でしょ?お洒落とか好きでしょ?
……これどう?ローンでいいからさ、買わない……?なーに、一番
お安いので100万ぐらいだよ」
男は持っていたカバンから明らかに偽物と思える宝石のついた
ネックレスや指輪をいそいそと取り出し、アイシャに見せた。
「……そんな物、私にだって玩具だって分るわ!馬鹿にしないでっ!!
帰ってっ!!」
「生意気言うんじゃねえよ、ガキがよ、俺を誰だとおもってんだっ!
ゴラア!!ガキが、このガキめがあ!!ガキめがあ!!」
男は着ていたスーツを脱ぎだすと、Yシャツを捲り、腕の入れ墨を
アイシャに見せ脅す。しかしアイシャも躊躇せず、男に平気で強気な
態度を見せた。
「ガキガキ言わないでっ!おじさんが誰だろうが私には関係ないわよ!
もうっ、帰ってよっ!!」
「……メスガキっ!!なめんじゃねえっ!!」
切れた男は刃物を取り出し、アイシャに襲い掛かろうとする……。
「帰れっつってんだよ、帰れ……、よくも邪魔しやがってからに……」
駆けつけたジャミルが速攻で男を素早く蹴り倒し、男は持っていた
刃物を床に落とした。
「いっ、……く、くそっ!!」
「ジャミルっ!」
アイシャは急いでジャミルの側に駆け寄り、ジャミルの後ろに隠れ、
ジャミルも後ろ手にアイシャを庇う。
「……ガキ共が、畜生!舐めやがってからによ、大人を怒らせると
どういう事になるか思いしれや……」
だからジャミルも成人者なんですが……、やはり舐められている。
男は慌て、もう一度、落とした刃物を拾おうとするが……。
「ぴいっ!!おじさん、だあれっ!!ジャミルとアイシャいじめちゃ
駄目だよっ!!」
「……チビっ!」
「チビちゃんっ!!」
チビが現れ、男の前で、炎のブレスを吐いて脅した。
「ド……、ドラゴンっ!?……バケモノマンションだああーーっ!!
わあああーーっ!!」
男は大慌てで逃走し、……カバンごと置いて逃走してしまった……。
「ぎゅっぴ!」
「まあ、俺だけでも大丈夫だったけどな、……チビ、助かったよ、
変なの追っ払ってくれてありがとな!」
「ぴいっ!今日はチビ、お仕事お休みだから来てみたんだけど……、
……怖いおじさんがいて、びっくりしたきゅぴ!」
「有難う~、チビちゃん、……ジャミルも有難う……」
アイシャは、チビをぎゅっとハグした。
「……アイシャ、怪我してない?大丈夫きゅぴ……?」
「うん、大丈夫よ、ジャミルとチビちゃんが助けに来てくれたから……、
本当に有難う!」
「♪ぴいっ!」
そう言ってアイシャは再びチビを強く抱きしめ、チビもアイシャの頬を
ペロペロ舐めた。
「やれやれ、茶の飲み直しだ!チビも来いよ、ドーナツあんぞ!」
「きゅぴーっ!ドーナツ!!」
もう一度、お湯を沸かし直して、チビも囲んで2人と1匹はドーナツを
頬張るのであった。
「良かった、丁度ね、チビちゃんにもドーナツあげたいなあーって
思ってたの、うふふ!」
「きゅっぴ!本当にドーナツっておいしーねえ!」
「もう、チビちゃんたら、ほらほら……」
アイシャはシナモンだらけのチビの口周りをハンカチで拭いてやる。
(……やれやれ、まあ、これはこれでいいのかもな……)
結局、狼になる事は出来なかったが、幸せそうなアイシャとチビの
姿を見て、いつの間にかジャミルのお股の奮起も今日は治まって
しまったのだった。
それから数日後、……押し売り男の忘れ物のアクセセットは、
野原家のひまわりの元へと贈呈されたが、すぐに玩具だと
気づき彼女は不満顔をしたそうである。
「たいやーっ!(ケッ、なめんじゃねーっ!!)」
Miiニュースネタ 本好きのアルベルトさん
ある日の夜、ジャミルは非常に珍しいある人物から相談を受けた。
シフである。最近、アルベルトの本好きが度を過ぎており、幾ら
注意しても聴かず、等々電話帳にまで手を出し始めた、との事。
「……やだよ、俺、本嫌いなの知ってんだろ?……特に活字たっぷりの
文学本はよ……、表紙見ただけで吐き気がする……、関わりたくねえ……」
「うるさいっ!アンタ管理人だろ!……何とかしろっ!このままだと
ボウヤの修行にも支障をきたすんだよっ!最近は風呂場にまで本を
持ち込んでのぼせるまで読んでんだよ!」
……管理人がアルベルトの極度の本好きをどうにかするのは
関係ねえだろうと思うジャミル。シフの話によると、夜間稽古で
アルベルトの部屋まで呼びに行ったものの、幾ら呼んでも返事が
ないので、勝手に部屋に上がり込んだ処、風呂場で本を抱えたまま
浴槽に沈んでいたらしい。……もしも、そのままシフが気づかなかったら、
アルベルトは多分溺死していただろう。
「だからさあ、何でもかんでも困りごとが起きたら八つ当たりの様に
俺の所にくるなっての、俺は何でも引き受け屋じゃねえんだよ……、
それに師匠のアンタが言って聞かねえんだから……俺なんか余計に
言う事聞くワケねえだろ……」
「ハア、そうだねえ、アンタに言ってもどうにかなる問題じゃないか、
……悪かったな」
シフは機嫌の悪いままジャミルの部屋を後にする。多分、苛々して
当たり場が無く、どうしようもないので、ジャミルの所に愚痴を
ブンマケに来たのだろうが。
「わるいけど、どうにもなりませんよ……、と、俺にはよ」
そう言いながら就寝準備を始めようとした、その途端。
「はーっ、ジャミルー!大変なのーっ!ちょっと出しておいたら
冷凍みかんがもう溶けちゃったーっ!気候が熱すぎる所為かなあーっ!!
もうーっ!地球温暖化はんたーいっ!」
「ジャミルはーん!たすけてーなあ!……ウスラ丸井がいじめるーーっ!!」
「うるせーこの野郎!誰がウスラだっ!しかもテメー人を呼び捨てに
しやがったなこの野郎!!」
「ジャミルさーん!ゆうなでーす!新鮮バナナのお届けでーすっ!」
「わんわん!ジャミル、いっしょにあそぼーっ!」
「……ガキはさっさと寝ろーーーっ!!」
こうして、意味も無く、住人達はジャミルの部屋に転がり込んでは
ストレスを発散していったそうな。
そして、また日は変わり、……次の日の夜。
「ジャミル、いるかい?」
「アルか?いいよ、入れよ……」
「うん、じゃあ……」
のそのそとアルベルトが部屋に入ってくる。……昨夜と反対で
今度はこっちかよ、と、思ったものの。
「で、なんだ?」
「うううう~……」
「ぎょ!」
ジャミルの顔を見た途端、いきなりアルベルトが号泣し始める。
「な、何泣いてんだよ、オメー、いきなり……」
作品名:zokuダチ。セッション13 ジャミ公の夏休み(?)編・1 作家名:流れ者